憧れ
僕、中野勇児はずっと片想いをしている相手がいる。それは幼馴染の小山結衣だ。
彼女は活発で、男女別け隔てなく話すことができるタイプで、男女から人気がある。中3の時には400mの県大会で優勝するほどの実力を持っている。高校入って彼女は陸上部に期待の新星として入った。
そんな彼女に対して僕は内気で一人本を読んでいることが多く、高校に入って3ヶ月が過ぎようとしているがクラスでも話したことがない人が大半なのだ。そして、部活にも入っていない。
こんな僕が正反対の彼女をすきになったの“憧れ”からだった。だから中学のときは陸上部に入った。走るのは嫌いじゃなかったし何かやってないとという引け目を感じていたのもある。だが、高校に入ってからの授業量、授業の難易度、課題の多さを理由に部活に入ることを諦めた。次第に彼女がより遠く感じられるようになった。
(元々“憧れ”から発展した恋だ手の届かないところにあって当然だ。)と思うことでなんとかやり過ごした。
けれど、そんな臆病な僕だがこの気持ちを言わないままだと後悔すると思い夏休みに近所で行われる夏祭りに彼女を誘いそこで告白しようと決めた。
そこで終業式の前日の登校中に彼女を誘った。
その時の僕の声は緊張で震えていたんだろう。僕がありったけの勇気を出して
「今度の※※祭り一緒に行かない?」
と言った僕に彼女は「クスッ」と笑って
「いいよ」
と答えた。この時内心飛び跳ねて喜びたかったが自転車で登校しているのだからそんなことが出来るわけもなく浮足立った調子で学校に着いた。
学校に着いてからもそのことばかりを考えて授業にもあまり集中でかなかった。
その日の放課後は陸上部があったので僕は一人で帰った。
帰ってからは祭りの日に着て行くものや祭りで告白する言葉を考えている間に気づいたら12時を周っていた。
終業式の日、今日もいつもどおり彼女と一緒に登校した。その時も彼女はいつもどおりだった。
長い校長の話に寝そうになりながらもなんとか終業式を終え、教室に戻り前期の通知表を貰った。後は大掃除をして帰るということで面倒だ早く帰りたいと思っていると廊下で彼女が
「ごめん、今日友達と遊ぶから先に帰ってて」
と言った。今日は陸上部が休みで一緒に帰れると思っていたから少し残念に思ったが
「分かった」
と答えさっさっと掃除を済ませ帰りの会をしてすぐに帰った。
帰ってからはまだ決まらない告白の言葉をずっと考えていた。だが、良い言葉が見つからず気付くと7時になっていた。気分転換に本でも読もうかと思った。
(ん?本?そうだ本だ本ならたくさんあるじゃないかその中から良い言葉を見つければいいんじゃないか!)
と思うとすぐさま部屋の中にある本を引っ張り出してみたがそれらしいのは見つからなかった。
(こうなったら本屋に行くしかない!)
時刻は7時30分なろうとしていたが財布とケータイと自転車の鍵を持つと一目散に家を出た。
本屋に着くともう8時なりそうだった。この本屋は9時には閉まるので早く選ばなければと思った。
けれどなかなか良さそうなのが見つからない。このままでは閉まってしまうという焦りから適当に2冊取り、それを買って急いで帰った。家に着いたのは9時10分を過ぎていた。
母に少し説教をされ、夕飯を食べ風呂に入ったあと部屋にこもって買ってきた本を読んだ。
最初に読んだ方は男のほうが海外に行く前に付き合っていた女に別れを告げて去り2年後に再会してまた付き合ってめでたく結婚するということで全く参考にならなかった。
2冊目は憧れの先輩にバレンタインの日に告白し付き合うことになるが一緒に帰っているときに自分を守って先輩が死んでしまうというものだった。これは女目線ではあるものの“憧れ”という点で少しは参考になったが、結局良い言葉は見つからなかった。
そのまま祭り当日に突然彼女から
「※※で3時に待ち合わせしよう」というメールが来た。
それに「分かった。」と返信した。
そこで僕は今日着て行く服を何にするかを決めていなかったたことに気付き焦った。とりあえずジンベエを引っ張り出してこれを着ていこうと決めた。
その後、2時30分までは告白の言葉をずっと考えていた。結局のところ思いつかず成り行きで言うことにした。
※※には2時40分に着いた。
別にこんなに早く来る必要はなかったのだが家にいても落ち着いていられなし、着慣れないジンベエを着たものだから少し慣れておきたいというのも理由だった。
3時までは時間があったので辺りを見て回った。
3時になったので待ち合わせ場所に行くとそこには浴衣を着た彼女がいた。普段の溌剌とした印象とは変わって、随分女の子らしく見えた。
相手も僕のことが分かったようで目があった。
お互いに何だか恥ずかしくて目をそらした。
「似合ってるかな?」
彼女が恥ずかしそうに顔を赤らめながら僕にそう聞いた。
「うん、似合ってるよ。」
と僕が言うと彼女は嬉しそうに笑った。
(あぁ、何て眩しいんだろう)
彼女の笑顔は僕には太陽よりも輝いて見えた。
お互い最初は緊張していたが、しばらくするといつもの調子でに戻って、タコ焼きやアイス何か食べたり金魚すくいをしたりもした。
そして、彼女がお化け屋敷に行こうと言うから行くと普段の彼女からは考えられなかったが、「キャッ」とか言って驚いてた。
その様子がなんとも可愛らしかった。
そんなことをしている間に8時を過ぎた。
8時30分から始まる花火を見るために場所を探した。
まだ場所が結構空いていたのですぐに良さそうな場所が見つかった。
そこに並んで腰を下ろした。
(あぁ、なんて幸せなんだろう。この時間がずっと続けばいいのに。)
僕はそう思わずにはいられなかった。
彼女と話をしながら僕は必死に告白の言葉を考えた。
だが、やはり思いつくのはありきたりな言葉ばかりだった。
いよいよ花火が始まった。
花火は漆黒の夜空を色とりどり照らした。
天気が良かったこともあり星もはっきりと見えてとても綺麗だった。
だが、僕には色とりどりな花火や星よりも花火を見上げる彼女の横顔がとても綺麗に見えた。
この時にはもう何も考えられなかった。
僕は彼女に対する思いも抑えきれなかった。次の瞬間僕は
「結衣!ずっと好きでした僕と付き合ってください!」
と言っていた。
彼女は僕の言葉に目を丸くしていた。それもそうだこんなこと突然言われても驚くだけだ。
僕は絶対に断られると思って後悔した。
(こんなありきたりな言葉でいいはずかない。)
(あぁ、なんて恥ずかしいんだ絶対振られる。)
そう思っていた。
数秒の間二人の間には沈黙が流れた。この沈黙は僕にとって人生で最も長い数秒だった。
やがて彼女の口が開いた
「うん、いいよ。私もずっと好きだった。」
僕は嬉しさよりも驚きのほうが強かった。
まさか彼女が自分の告白に応じてくれるんなんて微塵も思っていなかった。
振られる思いで告白したのだ。
それが成功した。
その事実を信じられなかった。
しばらく僕は言葉を失い、目を丸くした。
すると彼女が
「何で、告っといてそんな驚いてんのよ。」
と笑いながら言った。
そこで僕はやっと言葉を取り戻した。
そしてさっきまでは実感のなかった喜びが湧き上がってきた。
僕は興奮を抑えきれずその場で
「ヤッターーー!」
と叫んでいた。
周囲の視線が集まる、僕は途端に恥ずかしくなった。
そんな僕を見て彼女は隣で腹を抱えて笑っていた。
彼女は僕が拗ねたのを見て
「ごめん、ごめん」
と笑いながら謝った。
そしてまだ続いていた花火に二人とも手を握って顔を向けた。




