第5話 詰る王妃と馬鹿の現状把握
今回は短めです。
勉強不足のノリと勢いで書いてる小説のため、所々「ん?」と思うところがあるかとは思いますが、生暖かく見守っていただけると嬉しいです。
あの後、ザイルは部屋で呆然としていたがこのままではヤバいと流石に思い、なんとか国王の考えを変えて貰おうと母親、もとい王妃の所へとやって来た。そしていま優美な装飾がされている扉を前にしている。
「母上はいるか?」
「…いらっしゃいます。しかし日を改めた方が宜しいかと存じます殿下。」
扉の前で暗に帰れと言うのは昔から王妃に仕える侍女であった。故にザイルの事も生まれた時から知っている。だからか心配そうな視線を寄越し、王妃に取り次ごうとはしない。が、ザイルは引かない。
「そんな悠長なことしてられん。今すぐ取り次げ。」
「わかりました。しかし、後悔なさいませんよう。」
侍女は諦めたように、最後にザイルに覚悟を求めた。ザイルが侍女の言葉の意味を知るのはその2分後。
バリンガシャン
侍女に促され王妃に近づいたザイルに寄越されたのは再会の挨拶でもなく、国王と同じ怒鳴り声でもなく、投げられたカップだった。
ザイルはあまりのことに驚き、固まる。
投げたのは…
「よくもまぁ、のんきにあたくしの前に来れましたね?ザイル。」
王妃だった。
「はは、うえ…?」
「よもや陛下とあたくしの努力を踏みにじったばかりかあんな女を婚約者とするなんて親不孝をした貴方に母上と呼ばれるとは思いませんでした。」
「そんなっ、」
「お黙りなさい。貴方がアザレア様に行ったあの愚行を知って、あたくしは申し訳無さでいっぱいでしたわ。国の平穏の為とはいえ、嫌がるアザレア様に縛り付けるための婚約を課すばかりかあのような辱しめを受けさせてしまったと。」
「しかし、あのままではリリーがっ」
「アズール男爵令嬢がなんだと言うのです?アザレア様には足枷のような婚約を強いていたと言うのに貴方は好きに女の尻を追いかけて良いとでも言いたいのですか?なんて愚かな。なんて情けない。」
「あいつは、リリーに嫉妬して卑怯にも嫌がらせをしていたのです!!王族の婚約者として相応しくない!!」
「陛下にも言われませんでした?アザレア様が貴方のことで嫉妬することなどありえません。アザレア様は誇り高いお方。常よりご自分を見下していた貴方に好意を寄せるはずもない。」
取りつく島もないとは正にこのこと。
「この婚約はかの竜帝ワルドバーン様が恋い焦がれていると噂のアザレア様を他国に渡さぬための婚約でした。ですが、愚かな貴方が気付かぬままに婚約破棄をしてしまった為に無駄になった。きっと竜帝様はアザレア様を手に入れるでしょう。そうなればエスタール家の皆様は身内を大事になさる故に身分を捨ててでも竜帝国へと移る。この意味が貴方に解りますか?この国は有能な人材を失うばかりかバランスを担う家を失うのです。そしてその結果は貴族同士の派閥争いの果ての政の乱れ。おめでとうございます。貴方は国を混乱と争いへ導いた最低最悪な王子として歴史に名を刻むでしょう。」
まるで歌うように、しかし全てを理解できるようにザイルに現実を突き付けた王妃は最後にパチパチと優雅に拍手を贈って皮肉げに笑った。
母親の見たこともない顔、聞いたこともない言葉。最初から最後まで説明されてやっと、自分が何をしてしまったのか、事の重大さを理解したザイル。しかし理解しても保身の為にはどうすれば良いかしか考えられなかった。そんなザイルを残念そうに王妃が見ていることにも気づかず、王妃がザイルから視線を外したのと同時にザイルは言う。
「そんな事にはなりませぬ。ご安心ください母上。必ずやアザレア・エスタールを説得して見せます。」
「…そう、ですか。ではもう行きなさい。貴方と話すことはもうありません。」
「失礼致しました。それでは。」
パタン
ザイルが出ていった扉をひたと見据え、王妃は呟く。
「そう。もう二度と貴方とお話することはないでしょう。ザイルすみません。貴方が愚かに育ったのはあたくしが間違えたからです。…神よ、どうかあの子が最後に正しい選択ができますようお助けください。」
小さく、小さく落とした母としての思いはザイルに届く事はなく、部屋の中で溶けて消えた。