第15話 竜帝の幸せと憎悪と悲しみ
所変わって竜帝ディアス・リウ・ワルドバーンが治めし国。竜帝国
この世界で4つしかない大陸の内、2番目に大きい大陸の中でも最大の国土を誇る国である。
東には命を育む尊き海、
北には空に最も近いと言われる天高い山々、
南には帝国と友好を結ぶ、神に縁近きアイゼンシア神国、
西には海と見紛う程の湖とその中央にある孤島には才ある者達が集まりしファナカード学園
そしてセイジアス王国がある。
そんな帝国の頂点に君臨するディアスは長年の溺愛してきたアザレアと思いを通わせ、エスタール家の者達に暖かく見守られながらの幸せな朝食をしたからか近年稀に見る程機嫌が良い。
エスタール家の屋敷から転移でディアスの執務室に表れた己の主を見た侍女が一瞬呆ける位には。
だがそれも間を置かずして不機嫌な物へと変わる。
「ザイル・フォン・セイジアス…か。」
その一言に込められた感情はあまりにも冷たく、重い物だ。
それは、嫌悪・嘲り・失望・怨恨・忌避・憎悪。そしてそれらを抑え込もうとした故にどこまでも研ぎ澄まされた殺意。
「陛下?」
そんなディアスに執務室に現れてから黙して側に侍っていた側近も流石に問いかけざるを得なかった。
「なぁ、ウルベルト。俺は何年も、それこそ気が狂いそうな時の中、ひたすら待ち続けたよな。」
「はい。陛下。」
側近…ウルベルトに問い掛けてきた主は、しかし寂しげな色を浮かべた瞳を遥か彼方へ向けたままであった為ウルベルトは是と返す。それ以外にこの哀しい主へ掛ける言葉を解らなかった。
アザレアと会う前のディアスは、纏まりの無い竜達の中心となり居場所の無かった種族達を助け、やがてそれが国となり、自らが皇帝となってなお、瞳に隠しきれない程の悲しみと哀しみを湛えていて。
なにかを、誰かを追い求めるように彼方を見つめそして次には寂しげに目を伏せていた。
限られた者しか入れないディアスの私室にはただ丸いだけの石や変な形の朽ちた木の実、かろうじて色が分かるだけの鳥の羽など他人からすればゴミだと言われるような物が大切に飾られている。
ウルベルトはそれらを大事そうに抱え、目を瞑る主を仕えてから今までずっと見続けてきたのだ。
それこそ悠久とも言える時を生きる竜を持ってしても永いと言わざるを得ない時間。