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第13話 父王と王位と後悔


リヒトもセスアルドもそして、先ほどまで癇癪を起こしたように怒鳴り散らしていたザイルも居なくなった謁見の間には重苦しい静寂が横たわっていた。



「…陛下。」


「よい。無理に慰めの言葉を言わんくてもお前が気遣ってくれているのは知っておる。」


ジルベルトの声に国王はこの寡黙な男が己を心配している事に気付く。それと同時に慰めの言葉1つ言えぬ自らを責めている事も賢い王は解っていた。


「あれが愚かに育ってしまったのは我々に責があるのだろうな。」



「なっっ!?そのようなことはっ!!」


「あるのだ。ジルベルトよ。お前は宰相…ルファンと我が若き日に権力争いが生じたのを知っているか?」


「…はい。陛下と弟君であるルファン様のどちらが王位に付くかで揉めたと…」


「そうだ。我が王位継承権第一位であったが、お前も知っての通りルファンは優秀であった。我よりも学に優れ、我よりも武に優れ、そして何より我よりも心優しかった。そんなルファンを王に、と推す者は中々多くてな。しかし、ルファンは子爵令嬢であった父上の側室を母に持つ故に後ろ楯は他国の王女であり、王妃である母を持つ我の方が強い。だからだな。勢力は二分され、王位継承争いとなった。」


実際、ルファンはとても優秀な人物であった。勉学も武術も、現国王であるルグルットよりも優れていた。

そんなルファンを王へと推したのは功績を積み、爵位を上げてきた実力主義の貴族と成り上がりの下級貴族だ。


対して、ルグルットを王へと推したのは古くから存在する歴史ある貴族と他国から嫁いできた王妃の実家と親交のある上級貴族。


数はルファンを推す派閥が多く、しかし力はルグルットを推す派閥が強かった。どちらを敵に回しても厄介な事にしかならない。このままでは政を乱してしまう、そうルグルットが悩んでいた時、ルファンは既に行動していた。



「父上。いや、陛下。私は継承権を放棄致します。」


ルファンが自らの父親にそう告げたのは定期円卓会議の終わりであった。


「何を仰るのです!!ルファン様!!」

「このような場でお戯れをなさいませるな」

「ルファン様!!即時発言の撤回をっ!!」




「静まれ。」


重たく、響くのは先代である国王の声。

一声で貴族達を黙らせてしまう程の覇気を纏っていた。


「さぁ、ルファン。この父に聡明なお前の考えを教えておくれ。」


しかし、ルファンに問うその声は優しい父親の声。その声に促され、ルファンは語る。


「今、王位継承争いが起きているのは単に皆様が誤解されているからに他ならないと私は考えました。兄上よりも私が優秀であると言う根も葉もない噂が最近度々聞こえてきます。勿論、私はそんなこと思ってはおりません。ですが、まずは噂が兄上を傷付けてしまった事。心より申し訳なく、謝罪致します。そして皆様にどうしてもお伝えしたいのです。兄上は私なんかよりも素晴らしいお方です。勉学は智導を務める友好国であるアンサイズア王国の王太子であるマヤーカイン様に認められる程でありますし、武術だって近衛騎士団長からお墨付きを頂いております。そして何より、兄上は人を惹き付ける力を持っております。人の上に立ち、人々を惹き付け、引っ張っていけるカリスマ性を持っております。私にはとてもそのような事は出来ません。私は王の器ではありませぬ。兄上こそが王の器。必ずや良き王となれる。ならばその横で、支えたいと思いました。王に、と皆様が担いでくださったのです。横で支える力は有ると自惚れてもよろしいでしょう?」


にっこりと笑う顔には自らを担いだ貴族を黙らせる為の威圧がこもっていた。


「良かろう。王弟として兄を支えていくが良い。」


「ありがとうございます。」



そして、その言葉通りルファンは王弟として兄を支えていく事となる。そしてそれは兄が即位した際に王と宰相としての形に変化した。いつも傍らにいて支え合う事でより良い国に少しずつ出来ていた。





だが、ルグルットに第2王子ザイルが生まれた時、ルグルットは不安になった。もし、この王子が第1王子よりも優秀であった場合、自分達の時のように争いが起きるのではないかと。

自分の時はルファンが先手を打つことで大した事にはならなかったが、もしそうならなかったら…と。


だから、ザイルには第1王子アルガスを支えるよう厳しく教えてきた。

元々ザイルと年の離れた第1王子は才能溢れる人物であった為、自分達の時のような王位継承争いなど起きないと思っていた。しかし愛しい子達に争わせる未来を絶対に回避するためにルグルットは子供達に何回も何回も語りかけた。


ザイル。王となる兄を支えられるよう頑張りなさい。


アルガス、弟と手を取り合って良き王となりなさい。


ザイル、遠からずお前達の時代が来る。その時、兄を支え、良き国とするのだ。


そう、何度も何度も何度も。

だが、その願いは虚しくも叶わなかった。

才能溢れる兄に引け目を感じたザイルは次第にルグルットを避け始めてしまう。王族が身に付けるべき教養の授業も全て放り出し、逃げ回るようになった。

そして、いつの間にか王族に取り入り甘い蜜を吸わんとする貴族に取り込まれてしまい、ルグルットがそれに気付いた時にはもうザイルは今のザイルへとなっていた。



良識ある王国貴族達が眉をしかめる行動を繰り返し、歴史ある貴族からは見放され、武に生きる貴族からは距離を置かれ、力ある貴族からは役立たずと烙印を押された。

それらの貴族達はザイルを闇に葬るべきだと密やかに遠回しにルグルットへと進言していた。


だが、ルグルットは親として、ザイルを見捨てる事が出来なかった。それが如何に王としてあるまじき考えだとしても。


だから、ザイルが排除されないように婚約者に王国の要であるエスタール家の令嬢アザレアを据えたのだ。

エスタール家を王国に留める為という思惑もあったが、本命はザイルの守護を得る為だった。

ルグルットは何回も何回も頭を下げた。

ザイルを守る為に。

エスタール家はその度に突っぱねていたが、何故かアザレアが頷いた事により婚約は成った。


絶対に無理だと思っていた婚約が成ったからかルグルットは少し欲が出てしまった。

ルグルットから見て、アザレアはとても優秀で心根の良い令嬢であったからザイルの更正ももしくは、と思い付いてしまったのだ。


すぐにアザレアにお願いと言う体で王命を下した。アザレアは只静かに微笑み、頭を下げただけであった。




それから数年後、他ならぬザイルによってルグルットの想いが砕かれるなどその時は考えもしなかった。






そして今、ルグルットは思う。

きっと他にやりようはあったのだろうと。

きっと選択肢を間違えたのは己もだったのだろうと。


ルグルットは思う。

もうザイルに明るい未来はないのだろうと。




「我は…俺は、情けない父親だな。ザイル。こんな父ですまない。」



悲しみと悔しさに顔を歪め、一筋の涙を溢すルグルットは消え入りそうな声で愛しい息子へ呟く。


その声も、想いも、届ける術はもう無いと知りながら。

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