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第10話 嘲笑と昔話と伝言

遅くなって申し訳ありません。

スマホが車に轢かれてしまい、データが消えたせいで続きを書くのに苦労しました。上手く書けているか怪しいですが、ご容赦ください。


「ああ。そうだ。その様子だと盗み見ていたのだろう?ならば俺達が王国貴族ではなくなったのは知っているな。」



固まったまま動けぬザイル達をそのままにリヒトはわらう。笑う。嘲笑う。


「だけどな?俺達を竜帝は竜帝国の同胞として、また貴族として迎え入れてくださるそうだ。爵位は侯爵。まあ領地が辺境にあるから辺境侯って所だな。クククッだからもう一度名乗り直そうか。アザレア達がした事を再現するのもまた一興だろう。



竜帝国にて辺境侯を賜っている。リヒト・リウ・エスタールだ。以後お見知りおきを。」


リヒトは竜帝国式の礼を取る。それはもう何年も、それこそ最初から竜帝国の貴族であったかのような洗練された優美なものであった。そして何よりリヒトがこの王国を捨てた事の何よりの証明であった。


「なっんだとッ!!この裏切り者がっ!!この国に恩が有りながらたかが図体のデカイだけの蜥蜴に取り入るなどっ!!恥を知れっ!!」


「お前こそ恥を知れ。王族でありながらあの婚約の意味も知らず、婚約した身でありながら他の者に目移りするなど。破棄するにしても手順すらも守れないとは幼子も同然。それにな?この国への恩はもうとっくに返したぞ。今は逆だ。この国が我らエスタール家に恩があるんだ。愚かで浅はかな王子様は知らんかもしれんがな。」


「あのような女と婚約などしてられるかっ!!嫉妬に狂った女だ。王族の婚約者として相応しい訳がないっ!!そんな女の親だ。お前達に恩など有る筈もない!!」


王達が襲い続けるショックから立ち直れず固まっている間もザイルはリヒトへと怒りを向け続ける。リヒトもそれをいなす事なく煽るため、ザイルの口は止まらない。



「クククッ…フハハッ!!本当に何も知らないんだな?いや、アザレア達から聞いていたがここまでとは。流石はザイル・フォン・セイジアス様。愚かで哀れなお前に教えてやろう。この王都に張られている結界は誰が張っていると思う?」


「お前こそ愚かだ。どうせ宮廷魔術師どもが張っているに決まってる。そんなことも知らんのか。」


「ハハハッ残念だな?この王都の結界はお前が婚約破棄をしたアザレアが張っているんだよ。アザレアは名乗っただろう?魔導だと。歴代最強の名を欲しいままにするアザレアが張っているからこそここの結界は揺るがないんだ。それが宮廷魔術師に代わってみろ。結界に付きっきりになって、今よりも結界は弱くなり、時間によっては解除される時もあるだろうな。実際昔はそうであったのだから。」


「そんな…いや、ありえん!!」


「お前が信じようが信じまいがそれが事実だ。それにアザレアだけではないぞ。アルフォードはそうだな…一番昔の物だと水の濾過装置を作っていたな。お前はどうせ知らないのだろう?お前がまだ幼い頃には泥水より幾らかマシなだけの水を飲み続けていた民がいた事など。」


リヒトの言葉に同意するかのように王達の顔が哀しげに歪む。だが、ザイルの顔には何も知らぬという思考が乗っていた。


「アルフォードは優しい子だ。自分が飲んでいる水と同じような、澄んだ水を飲ませてやりたいと言って研究を重ねてあの装置を作り上げた。お前には無理だろう?民の為に心血を注ぐことなど。」


「高貴な俺がなぜ賤しい者どものためにやらねばいけない?そんな事は同じ賤しい者がやってればいいさ。お前のようなな。」


「民を賤しいと宣うお前はやはり愚かだ。民が居なければお前こそがただの賤しい愚か者だと言うことも解らぬとは。

民が居なければ王はいない。民が居なければ貴族はいない。民が居なければ国はない。そんな事も知らず、民に与えられている王族という身分を自ら手に入れた力のように振る舞うとは愚かの極みだ。昔とは違い、今は民は王族や貴族などいなくても生きて行けるのだぞ?だが昔の過酷な環境の中、民を守るために行動した者達に尊敬と感謝を込め【貴い人】と民が呼んでくれた

。」


心の底からザイルを蔑むリヒトの語る王国貴族の始まりは事実であった。


竜帝国に劣るとはいえ、豊かな自然が広がるセイジアス王国はそれ故に魔物も多く住む土地である。今なおその自然が残る王国は国が興る以前となると今に増して魔物が多く住んでいた。そして数多の魔物が居れば弱肉強食の世界が出来上がる。その中からより強い魔物も時として生まれてくるのだ。人間など容易く殺せる魔物など当たり前。むしろ殺せない魔物は居ないほどだった。そんな環境の中で生きていた人間達は次第に集まり、集団を作り、村を作り、町を作り、都市を作り、そして国を作った。その中心にいたのが魔物と渡り合える者達だった。彼らは己を、己の家族を、仲間を守る為に魔物と戦って行く。必死であった。なんせ周りは弱肉強食の世界である。弱ければ食われるだけ。強くなければ死あるのみだ。人間の中でも力を持っていた彼らは常に最前線で戦っていた。そんな彼らを他の者達は少しばかりの畏怖と大きな感謝と尊敬の念を込めて貴き人【貴人】と呼んだ。それが貴族の始まり。



そんな昔話は王国貴族であれば小さい頃の寝物語としてよく聞かされ耳にたこができる位である。


「そんな話聞いたことすらない!!嘘を言うなっ!!大体、それが本当ならお前の娘が俺にしっかりと伝えるべきだ!!この俺の婚約者にしてやっていたと言うのにサポートすらまともに出来ぬとは。あの役立たずめっ。奴隷にして畜生のように使い潰してやる。」


しかしザイルにとっては初めて聞く話であった。なにせ聞いた瞬間からくだらないと忘却の彼方へ飛ばしてしまうのだから何十回何百回聞かされようともそれは初めて聞く話なのだ。



「お前が聞こうとしない、理解しようとしないだけだろうが。この屑が。」




ヒッと誰かが息を詰めた音がした。

あれは誰のものだっただろうか。ザイルだろうか、国王だっただろうか。はたまた剛健で知られる騎士団長のものだったか。



「お前ごときが優しいあの子を馬鹿にするなんて許しはしない。あの子だけではない。うちの家族を馬鹿になど、愚かで屑で存在価値の無いお前がするなど身の程を知れ。」


リヒトから発せられたのは毒を含んだ微笑でも、身の凍るような殺気でも無かった。

人が発せられるのかも怪しい程のおぞましい憎悪だ。


「そんなに死にたいか?貴様が自殺志願者だったとは知らなかったぞ。どんな死に方がお望みだ?俺は今最高に機嫌が悪いからな。全てを叶えてやってもいいぞ?」


「あ、あぁあ、」


コツ…コツ…

リヒトは憎悪を隠すこと無くザイルへ近づいていく。瞳に憎しみの業火をたぎらせて。


きっと視線で人が殺せるのならザイルは数千回は余裕で殺されているのではないだろうか。

そして実際、リヒトが右手に待機状態にしている魔法を発動させるとザイルの命は容易く散るのだ。その魔法とはヴィアインに[医者の気まぐれ]アルフォードに[狂気のオペ]とも言われる前世が医者であったリヒトオリジナル魔法[手術]。

触れた相手の身体を自在に解剖・処置する事の出来る対人に特化した魔法である。


そして、あと2歩でザイルへと手が届くかという所でリヒトへと声を掛ける者がいた。



「お取り込み中大変失礼致します。旦那様。」


漆黒の中華服に身を包む執事。セスアルドだ。


「何用だ。セスアルド。」


怒りのメーターが振り切れているリヒトはセスアルドの横槍とも言える登場に鋭い言葉で答える。

しかし、長年エスタール家に仕える鉄人執事長はどこ吹く風とばかりに穏やかに微笑みながら主の一人に告げた。


「セーラ様より言付かって参りました。『あなた。どこをほっつき歩いているのかは予想がつきますが、食事は出来るだけ皆で食べると決めたのはあなたではなかったかしら?それを自ら違えるなんて子ども達に示しがつかないのではなくて?それともあなたがそこでしようとしている事は愛しい子達と食事するよりも大事なことだと言うことでよろしい?そんな事をおっしゃるならお覚悟なさいませ。わたくしの制裁が待っていましてよ。』との事でございます。」


セスアルドはセーラの声でセーラからの伝言だと思われる言葉を紡いだ。チョコレートのような色彩を持つ甘い美貌から発せられたとは思えぬ程の脅し文句…ではなく、夫へのモーニングコールならぬモーニングメッセージである。

これには怒り狂っていたリヒトもポカンと毒気を抜かれたような顔になってしまう。


「セスアルド。なぜセーラの口調や声まで真似したんだ?」


「一言一句、雰囲気や声の調子まで違わずに伝えなさいと仰せつかっておりますので。」


「はぁぁぁあ。わかった。戻ろう。皆で食事を食べねばならんしな。」


「はっ。それがよろしいかと。」


そこにはもう普段通りのリヒトがいた。

冷静沈着な涼しげな眼からはもう感情は読み取れない。

しかし、先程までの憎悪は無いように見えた。

これには空気に徹していた王達も安堵の息をつく。それを横目で見ていたセスアルドはおもむろに告げた。


「申し訳ありません。忘れておりました。陛下と殿下へも言付かっておりました。『陛下と殿下におかれましてはご健勝の事とお喜び申し上げますわ。ですが、今回の騒動。わたくし腹に据えかねておりますの。もし、わたくしの愛しい人や愛しい子らに手を出してご覧なさい。地獄すらも生温い制裁を下してやりますわ。その事をお忘れなきようお願い申し上げます。それでは夫との話し合いにお邪魔してしまったことご容赦くださいましね。』とセーラ様からの伝言にございます。」


セスアルドは言うだけ言って、リヒトと共に去っていった。後に残されたのは絶望を浮かべる国王と団長。怒りに震えるザイルだけであった。

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