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11.祭りのあと 7

 町を出る馬車や荷車が大通りに列をなしている。

 いつもよりも長かった十年祭が終わった。二十年ぶりに神託を得た者たちもそれぞれ帰途についた。

 その光景を、オスレイルは町を取り囲む壁の外で眺めていた。

 もちろん、金の髪も瞳も黒く変え、元のオスレイルの姿に戻って、である。

 この姿で壁の外に立っていれば、誰も気にも留めない。

 祭りで神託を与えていた金聖獣の器が町をうろついていたらどんなトラブルに巻き込まれるかしれない。金の姿では騒動のもとになると父から諫められ、ライルの力を借りて姿を変えた。

 神託を与えている間はライルとして金の姿で振る舞い、そうでないときはオスレイルとして黒の姿に戻る。それは祭りの間に父やほかの神殿関係者と一緒に決めた決まり事だった。

 オスレイルが金聖獣だということは太陽神殿のだれもが知っていることだ。だが、他の者たちには内緒にしておかなければ、旅に出ることなどできやしない。

 だから、黒い姿の時にはライルと呼ばないよう、そして金の姿の時にはオスレイルと呼ばないようにと定めた。

 おかげで、この姿であれば自由に行動ができる。……ただし監視付きで、だが。

 ちらりと壁のほうを見ると、町人に姿をやつした監視役の神官がいるのが確認できる。

 祭りが終わって神殿がおちつけば、オスレイルは旅に出るつもりだ。が、このままだと監視付きになりそうな気がして仕方がない。


『監視役の一人や二人、気にせずともよかろうに』


 内なるライルの声に、オスレイルはため息をついた。


「気にならないはずがないだろう? 一緒に行動するならともかく」

『気になるなら撒いてしまえばいい。それくらい簡単なことだ』

「それだと監視役の人に迷惑になるだろう?」

『お前は優しすぎる。監視を付けるのは彼らの勝手だ。そこまで配慮してやることはない』

「……そうはいかないよ」


 だから、こっそり旅立つ。いつとは決めずに。

 オスレイルは目を伏せた。


『まあいい。お前の見せてくれる世界を楽しみにしている』

「わかってる」

「何がわかってるって?」


 目を開けると、馬の手綱を引いた赤毛の見慣れた顔があった。


「アマド」

「遅くなって悪い。大通りがすごい人でさ。城門抜けるのが一苦労だよ」

「そうだね。……ミリアさんは?」

「ああ、あまりの混雑ぶりに外まで送るのはあきらめたってさ。店で別れを告げてきたよ」

「そうか」


 それから彼の連れている馬を見上げ、鼻づらに手を伸ばす。ゴーラの神学校から戻ってくるときにオスレイルが乗ってきた馬だ。おとなしくオスレイルの手を受け入れた馬は、うれしそうに鼻づらを押し付けてきた。


「オスレイル、本当にもらっていいのか? この馬」

「ああ。かまわないよ。それに、火の神殿の巡礼団はもう帰ったんだろう?」

「そうなんだよなぁ。神託が得られたらとんぼ返りしちまってさ、俺一人置いてけぼり。だから正直助かる。親父殿のおかげで正式な通行証ももらえたし」

「そりゃそんぐらい当然だろ。アマドにはいろいろ迷惑かけたし……」

「まー確かに?」


 にやにやと笑いながらアマドが言う。オスレイルは視線を揺らしてうつむいた。


「でもさ、そんなん親友だから当たり前だろ? 俺も散々迷惑かけてきたし。今さら気にしてねえよ」


 いつもの口調で返してくれるアマドの言葉はなによりうれしかった。自分が何者であるかを知ってなお、親友と呼んでくれる。

 太陽神殿の神官たちのなかには古い知り合いもいる。だが、皆ことごとく態度が変わってしまった。

 己が何者かを知ることができたのはうれしい。だが、その代わりに失ったものも少なくない。

 だからこそ、アマドの言葉はうれしかった。

 アマドが自分を友と呼んでくれる限り、オスレイルは『オスレイル』でいられる。


「……すまん」

「さてと、じゃ、俺もういくわ」


 アマドはいつもの口調で言うと手綱を引いて人の列に戻るべく馬をぐるりと巡らせた。


「ああ、気をつけてな」

「お前もな。……なあ、オスレイル」

「ん?」

「いつかさ、戦乱が収まったら火の神殿に遊びに来いよ」

「ああ、もちろん。その時には美味い酒、準備しといてくれよな」

「おう。任しとけ」


 オスレイルの言葉にアマドもにやっと笑ってこぶしを振り上げ、歩き出す。旅姿のアマドと馬は人の波にのまれ、やがて見えなくなった。

 空を見上げると、空には雲一つなく、太陽はあまねく地表を照らしている。


『さて、帰るとするか』

「……そうだな」


 ライルの言葉にうなずき、オスレイルは壁伝いに神殿のほうへと歩き出した。

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