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11.祭りのあと 4

「もうちょいゆっくり歩いてくれへんか」

「これ以上ゆっくりしていたら夜が更けるぞ」


 ユレイオンは金髪の魔術師に肩を貸した状態で街の大通りを歩いていた。

 もちろん、目指すはアイランの部屋だ。

 夕方になってなんとか自力で起き上がれるようになったシャイレンドルは、塔長の許可が出たと聞いて早速出かけると言い出した。

 肩を借りるのにもう一人ぐらい人手を借りようかと言ったが、シャイレンドルは首を縦に振らなかった。

 仕方なくユレイオン一人で担ぐことになったのだが、身長の高いユレイオンがシャイレンドルに肩を貸すとなると、どうしても中腰にならざるを得ない。

 かなりキツイ体勢を続けなければならないことになって、ユレイオンとしてはとっとと担いで運んでしまいたかった。

 だがさすがに成人した男を無理矢理に担ぐのはプライドを傷つけることになる。

 そこをこじらせるとあとが面倒だということは塔の人間関係で嫌というほど味わっている。

 ここでさらにその面倒な人間関係を作りたくはなかった。

 塔に戻ればまた顔を知っているだけのただの他人だ。

 それ以上のしがらみは欲しくない。


「あ、ちょっとそこで止まってくれへんか。買い物したいねん」


 通りに面した店からは、うまそうな肉の匂いや焼きたてパンの香ばしい匂いが流れてくる。

 ユレイオンは頷くと丁度近くに会った椅子を引き寄せてシャイレンドルを座らせた。

 それから、体を伸ばす。パキポキとあちこちが鳴る。腰の周りの筋肉が張ったような感じもある。


「で、何が買いたいんだ?」


 ぐるりと近場の店を見渡す。焼いた肉の串刺し、焼きたてパン、温かいスープ、羽飾り、仮面、帽子、アクセサリーに花。ほぼなんでも揃いそうだ。


「あそこの赤い花」


 シャイレンドルが指しているのは、花屋の店頭に並んだ赤い大輪の花だ。確かに、あの女性には似合いそうな花だ。


「いくつ買う?」

「いくらでもええ。あんたに任せる。っと……悪い、わい、なんも持ってへんのやった。貸しといてくれへんか?」


 両手をすり合わせて頭を下げる姿に、ユレイオンは憮然として言葉を返した。


「構わない。塔長からいくらか預かってきている」


 しかし、シャイレンドルは頑なに首を横に振った。


「女に買う花や、自分で買いたい」

「……分かった。では後で返してくれ。他には?」

「あの石がええな。穴が開いてる石と、それから革紐も買うてきてくれへん? あっ、ナイフ持ってへんか?」

「何に使う?」

「変なことには使わへんって。ただ、髪の毛切りたいなぁと思っただけや」


 ユレイオンは怪訝な顔をしながらも、懐からナイフを取り出した。


「サンキュ。ほな、買い物頼むわ」


 ナイフを握ったシャイレンドルににこやかに追い出され、ユレイオンは金髪の魔術師の動きを見ながらも店の方へと移動した。

 頼まれた買い物はすぐ揃った。シャイレンドルの元に戻ると、そばにあったテーブルを引き寄せて何やら細かい作業をしているらしい。


「買ってきたぞ」

「わりぃな。んじゃ革紐と石出してくれへん?」


 荷物の中から指定されたそれを取り出すと、シャイレンドルは手の中のものとそれらで細工を始めた。

 手元を覗き込んでも何をやっているのかがちっともわからない。


「何を作ってるんだ?」

「んー、護符アミュレット、になればええんやけど、ただの飾り紐や。あ、ナイフおおきに。もうええで」


 テーブルの上に無造作に置かれたそれをユレイオンは取り上げて収めると、再び手元を覗き込んだ。金色の紐のようなものを石に通し、クルクルと巻きつけている。


「もしかしてそれは、髪の毛か?」


 問いかけたが返事はない。髪の毛を使った護符や守り札はよく作られ、使われる。

 恋人の髪の毛を編み込んだものを身につけておくことで、互いの無事を知ることができるというのは古来より使われた素朴な魔術まじないだ。


「なんか、お返しでけへんかなと思って」


 顔を上げたシャイレンドルは、出来上がったそれを顔の前にぶら下げた。

 革紐の先に黄色い縞の入った石と、金色の紐飾りが揺れている。


「ほな行こか」


 上衣のポケットにそれを突っ込むと、シャイレンドルは立ち上がった。

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