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11.祭りのあと 1

 町中はかつてのように賑わいを取り戻していた。

 初日の神子行列のあとのような、期待を込めたお祭り騒ぎとは違い、金聖獣が降りた祝いも兼ねたどんちゃん騒ぎになっている。

 ミリアはいつかのように神殿に向かいながらも、大通りの様子に口角を上げた。

 急ぎ神殿に来るようにと連絡があったのは昨日の話だが、店が落ち着くまではなかなか出ることもできなかった。

 それもこれも皆、神殿が出した『十年祭り延長の報せ』と『金聖獣の降臨の報せ』のせいなのだ。

 七日の祭りが終わり、最終日の日没に行われるはずだった『神子返し』の儀式も神子行列もなく、このまま今年はフェードアウトするのではないかと囁かれていた。おかげで街はすっかり火が消えたように意気消沈し、店の売上もそれに比例して急落していた。

 それがどうだ。

 昨日は仕入れていた酒もあらかた売り切れ、食料も売り切れた。今朝はその補充に奔走し、なんとか宿泊客の朝食分を確保できたからよかったものの、このまま三日延長と言われても、食料も飲料も外から入ってこない以上、早晩干上がってしまう。

 そんな時に神殿から呼び出されても、店を放り出していくわけにも行かず。こんな時間になってしまった。

 街を出て神殿に向かう道も神託を望む人たちでごった返している。その中を、参拝だけの客の列に並んで進む。それでさえ遅々として進まないが、彼らをかき分けて行くのはやはりためらわれた。

 自分は宿屋の主であり、この一行の中にもお客様がいるからだ。

 神託を望む行列とは違い、さくさくと進んでいく。前の人に続いてミリアも門をくぐった。


「ミリア様、ここにおられましたか!」


 不意に声をかけられて顔を上げると、門番の神官だった。


「なかなかおいでにならないので、迎えを出したところでした。まさか行列に並んでおられるとは……」

「この度は申し訳ありません」

「どうぞこちらへ。オスレイル様がお待ちです」

「ありがとうございます」


 行列から離れながら、ミリアは首を傾げた。

 『オスレイル様』と神官は言った。

 呼出状では詳細なことは書かれていなかったが、どうせアマドがこの間と同じく何かやらかして迷惑をかけたのだろうと思っていた。だから、アマドを引っ張って連れ帰り、今度こそきっちりお灸をすえてやらなければと心に決めていたのに。

 カラからは、アマドとオスレイルが突然やってきた魔術師と一緒に神殿に向かったと聞いている。ただ事でない様子だったと言っていた。

 だから、今回ばかりは覚悟していたのだが。

 神官に誘導されながら、一般参詣の列を避けてぐるりと遠回りをしているのに気がついた。こんな裏道を使わなければならないほどのことがあったのだろうか。


「あの」

「もうじき着きますから。アマド殿もご一緒です」


 焦るように口を開いたミリアをなだめるように神官は言う。

 神殿内部が記憶のままならば、今向かっているのはどう考えても神託殿だ。そこに用事はないはずなのだが、神官は迷わずそちらへの道を辿る。

 少し離れた塔から地下道に入り、暗い道を明かりを頼りに進む。じきに見えてきた白い門をくぐると、階段を上がった。

 隠し扉から出た途端、人のざわめきが遠くに聞こえた。神託殿の裏側だ。

 通された部屋で少し待つと、声が聞こえてきた。息子の声に腰を浮かすと、入ってきた戸口から息子が入ってきた。その後ろには見知らぬ青年と老神官の姿がある。


「お袋!」

「アマド!」


 怒るべきなのか逡巡する。他の二人と談笑しながら入ってきたということは、アマドが何かをやらかしたわけではないのだろう。


「何があったの。いきなり呼出状だなんて」


 詰問口調で言うと、アマドは苦笑して頭を掻いた。


「いや、その……」

「わしから説明しよう」


 後ろに控えていた老神官が進み出た。白い髭を蓄えた白髪の神官は、柔和な表情で微笑みかけてくるとゆっくりと頭を下げた。


「ご無沙汰しております、ミリア殿。……愚息がいつもご迷惑をお掛けしているようで申し訳ない」

「え……」


 この口調に覚えがあった。だが、自分の覚えているその人は、同い年だったはずで、老人と見紛う身なりではなかったはずだ。


「まさか……セイファード様……?」

「ええ、事情がありましてな。ともあれ、長らくご無沙汰してしまい、申し訳ない」

「いえ、それは全然構いません。オスレイルもあたしにとっちゃもはや息子のようなものですから」


 にっこりと微笑み返すと、セイファードはほっとしたように口元をゆるめた。


「ありがとう、ミリア殿。……お前もご挨拶せぬか」


 そう言い、セイファードは後ろに立つ金髪の青年を振り返った。ミリアもそちらに視線を移す。

 腰まであるうねる金髪に金の瞳。かつて息子たちと遊んでいた少年を思い起こしたが、もはや面影を思い出すことはできなかった。


「あの、お袋……こいつ、オスレイルだよ」

「え? まさか。オスレイルは黒髪でしょう?」

「だから、そのまさかだよ」


 バカ息子が何を言い出すかと思えば、と眉根を寄せると、セイファードが口を開いた。


「ミリア殿。この件でお呼びいたしたのです。……これがわが息子、オスレイルです」

「セイファード様……?」

「オスレイルは金聖獣の魂の器なのです」





「つまり……金聖獣がオスレイルの中に入ったことで、神託が再開されたのね」


 顎が外れそうになるのを押し留めて、ミリアは口を開いた。セイファードの説明に愚息やオスレイル自身の補足説明、果ては金聖獣であるというライル自身の降臨を経て、ようやく信じるに至った。


「ええ、そういうことです。ミリアさん」

「では、十年と言わず毎年でも神託が降ろせるの?」

「それは……」


 ちらりとオスレイルがセイファードを見ると、大神官は重々しくうなずいた。


「金聖獣が降臨した旨は、今回の祭りに参加した者たちの口から広まるでしょう。太陽神殿には金聖獣の現身がいる、と公表したようなものですからな。祭りでない時でも神託を望む者はやってくるでしょう。それを受けるか否かは息子の中にいる金聖獣次第です」

「……ライルとは、この世の中を見せると約束したんだ。十年祭以外の時間は旅をしようと思ってる」

「そう。……オスレイル、あなたは納得しているのね」

「ええ、ミリアさん」


 金髪の下からオスレイルは微笑んだ。色は違うが、中身はやっぱりオスレイルだ、とミリアは安堵する。


「ライルは俺がここにいる理由をくれた。だから、いいんだ。俺が人間じゃないとしても」

「オスレイルらしいわねえ。……よかったわね」

「ありがとう。ミリアさん」


 ミリアの言葉に、オスレイルは一瞬驚いた顔をしたあと、嬉しそうに微笑んだ。

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