10.顕現 2
短いですが、続きが長くなりますので一旦ここで切ります。
「……無視、するなよ、親父」
オスレイルは絞り出すように声を出し、立ち上がろうとした。膝が砕けて倒れそうになるが、横にいた女性が支えてくれる。ちらりと顔を見上げ、頭を下げる。女性はすっと目を眇めてうなずくと、顔を大神官に向けるのが見えた。
「俺が……金聖獣の器? 何バカなこと言ってんだよ。俺は俺だよ。親父の息子だ。生まれて十九年間、ずっとそうだったように、俺はっ……」
若々しい親父の姿を睨みつけながらオスレイルは言葉を募らせる。
「俺は……親父のようになりたかったんだ。ずっと。ゴーラの神学校でも、ここに戻ってくることしか考えてなかった。審神で他の属性が出たらどうしようって、そればかり考えてた。だから、二度とも結果が出なくて本当はホッとしてた。本当は……結果が出ないように祈っていたんだ」
側に立っている金聖獣に手を伸ばす。半透明に見えていたはずの金聖獣は、オスレイルの血を浴びたせいか実体化していた。獅子の鬣は柔らかいくせに熱を持っている。
ふと手に冷たいものが当たる。目をやると、獅子に絡みついた透明な鎖だった。ギチギチと獅子の体に食い込み、獅子は牙を剥く。
「こんなの……要らないよ。彼はもう十分耐えてきた。そうだろ? 『ライル』」
オスレイルが鎖に両手をかけてそう呼んだ途端、金聖獣の姿は輝き始めた。まばゆい光のなかで、鎖は砕けていく。光の塊は形を変えていき、縦に伸びると人の姿を取って光が消えた。
腰までたっぷりと覆う黄金の髪は鬣のように顔を縁取り、虹彩のない瞳は金色をしていた。生成りの素朴なシャツとズボンを纏う彼はオスレイルより頭一つ分、高かった。
「オスレイル……お前がなぜ彼の真名を知っている」
大神官が動揺を隠せず声を上げた。
「教えてくれたから」
「血と記憶の交換か」
傍らで女性がつぶやくのが聞こえる。オスレイルはうなずいた。
「呼んでくれてありがとう、オスレイル。我が現身」
虹彩のない瞳を細めて彼は微笑む。
「親父はあんたに選べと言った。でも、あんたは選ぶのは俺だと言った。……だから俺が選ぶ」
「オスレイルっ」
ジリジリと近づいてくる大神官を見据えて、オスレイルは口を開いた。
「親父、俺にとってはやっぱり親父は親父だ。俺の憧れの……なりたい自分は親父なんだ」
でも、とオスレイルは視線を床に彷徨わせる。
「親父が俺を器だというなら……いいよ。俺、器になる。俺の体はライルのものだ」
ひゅっと誰かが息を呑む音がした。オスレイルが顔を上げると、目の前にライルが立っていた。
「オスレイル、おま、何バカなこと言ってんだよっ!」
神官を押しのけて幼なじみが駆け寄ろうとしているのが見える。
「アマド、ごめんな。ありがと」
感謝を込めて微笑むと、ライルの腕を掴んだ。
「いいんだな?」
「ああ」
うなずくオスレイルに、ライルは手を伸ばしてくる。額の真ん中に人差し指が触れた途端、オスレイルの視界は光で満たされた。
――あんたの孤独は俺が抱いていくから、もう泣くなよ。
意識が消える前、自分の中に染み込んできたライルの心にそう告げて、オスレイルは全てを放棄した。




