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翠の瞳 ~塔の魔術師 外伝~  作者: と〜や
花街 ――六日目
79/99

9.花街 12

 部屋にシャイレンドルを連れ帰り、ベッドに寝かせる。先ほどの儀式では身じろぎしていたように思うのだが、全くぴくりとも動かない状態が続いているのが気にならないわけではない。

 だが、魔法などの気配は感じられない。

 やはり黄金花のせいなのか。花落としの儀式は無事済んだのに、全く目を覚まさない。

 ベッドに腰掛けて彼の口元に手をやると、かすかに呼吸は感じられる。

 塔長は部屋へ連れて行くようには言われたが、この後は彼を見守るだけで良いのだろうか。

 儀式の最中に光りだしたあの少年。

 神降ろしの儀式を中断して、神学校の学長を呼ぶと言っていた。

 この後何かの儀式を行うのならば、塔の魔術師として立ち会う必要があるのではないのか。

 立ち上がり、扉へ向かおうとした時に、扉がノックされた。扉の外に立っていたのは白い髪の神官見習いだった。


「ユレイオン様でいらっしゃいますか?」

「そうだが、君は」

「大神官様と塔長様よりご伝言がございます」

「承ろう」


 黒いローブの少年はうなずくと口を開いた。


「大神官様からのご伝言です。儀式は日の出に行うため、食事を摂って早めに休むように、とのことです。儀式開始半刻前にお迎えに上がります。食事は後ほど私がお運びいたします」

「そうか、ありがとう」

「それと、塔長様からのご伝言ですが、金髪の方が目を覚ますようなら一緒に連れてくるように、とのことです。目覚めないようなら担いで来い、と」

「……承った」

「では後ほど」


 扉を閉め、ソファに身を沈める。

 日の出に行うということは改めて儀式をやり直すということだ。それは理解できる。だがなぜ目覚めないシャイレンドルを同席させる必要がある?

 ベッドの上の金髪をちらりと見て、ユレイオンは首を振った。

 塔長が語らないものを憶測しても仕方がない。

 窓を開けようとして、ここが地下の一角であることを思い出した。時間を知ろうにも外の様子は伺えない。が、朝からの強行軍、ここへ連れてきたあとの花落としの儀式と神降ろしの儀式。もう日は落ちているのだろう。

 さすがにくたびれた。食事が終わったら風呂に入ってさっさと寝てしまおう。

 ローブを脱ごうとした途端甘い香りがふわっと匂ってユレイオンは顔をしかめた。匂い移りを塔長にも指摘された。着替えを取りに行くくらいの時間はあるだろう。

 そうだ、あの女に花落としが終わったことは知らせておかなければならない。まだ意識は戻らないが、少なくとも命の危険は去った。

 腰を上げ、ユレイオンは寮に準備された自室に戻るために扉から出ていった。

 自分の部屋に戻って花街のあの女へ手紙を認め、魔法鳥で飛ばすと、着替えを持って地下の部屋に引き返す。

 いない間に食事は運ばれていた。どれも冷めても美味しく食べられるものだ。

 ユレイオンは、この匂いでシャイレンドルが起きて来はしないかと少しだけ期待したものの、反応はやはりない。夜中の儀式までこのままなのだろうか。息は時折確認してあるから、生きているのは間違いない。

 食事を平らげ、ワゴンは言伝にあったように廊下に出しておく。部屋付きの風呂で汗を流して着替えると、空いているベッドに横になった。





 ノックの音で目を覚ました。横になってからすぐ眠ったようだ。

 素早く身支度を整えて扉を開けると、あの神官見習いが立っていた。


「お迎えに上がりました」

「わかった。少し待ってくれ」


 シャイレンドルを担ぎ上げる。結局彼は目覚めなかった。


「ではこちらへ」


 白い髪の少年の後をゆらりゆらりと歩く。神降ろしの儀式をした場所に向かっているのだろう。見覚えのある角を曲がると、昨日と同じ部屋へ案内された。あの――金聖獣の像が立つ部屋だ。


「ユレイオン」

「遅くなりました」


 塔長と他の師匠たちが昨日と同じように待っていた。


「まだ目覚めんか」

「はい」


 担いだシャイレンドルを見て塔長は眉をひそめる。


「仕方があるまい。あっちの壁の椅子を並べておいたから、そこに降ろしてくれ」


 ユレイオンはうなずいて彼を椅子の上に横たえる。


「それで、儀式についてご説明いただけますか?」

「うむ。いつもの神降ろしではない。ゴーラの神学校で行われる属性判定試験に立ち会うことになった。あの少年……昨日の神降ろしの儀式で金の光を放った少年を覚えておるな?」

「ええ、宿から彼を運ぶ際に手伝ってもらった少年の一人ですね」


 塔長は髭をひねりながらうなずいた。


「そうじゃ。彼についてはもともと祭りが終わったらここで属性判定試験を行う予定じゃった。それを前倒しすることになったんじゃ。――ほれ、来たようじゃ」


 顎で塔長が指し示す方角を見ると、白い髪の神官に連れられて二人が入ってくるところだった。

 その後ろから、十人ほどの黒装束の大人が続く。どうやらゴーラの神学校の校長や教職員のようだ。二人に声をかけると、金聖獣の像を見上げては何やら興奮気味に喋っている。


「儀式自体は全部彼らがやってくれる。わしらは立会人として見ておるだけでよい。そなたには――そうじゃのう、シャイレンドルの横で待機しておいてくれ。何か異常があれば知らせてくれればよい」

「声は上げても大丈夫なのですか?」

「ああ、それは大丈夫らしい。儀式の場全体を無音の結界で封じるそうだから。では頼むの」


 手を上げて去る塔長に頭を下げると、ユレイオンはシャイレンドルの横に戻った。

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