9.花街 4
昔語りなので短いです
花街にある女がいたの。
誰よりも幸せになりたかった女。
初めての十年祭で、花が願いをかなえてくれることを知った彼女は、次の十年祭の日、お客さんから花を盗んで隠したの。もちろん、日没の儀式をするつもりで。
ところが、お客さんから花を盗んだことがばれて、逃げ回るうちに夜になってしまった。
花の隠し場所に急いだけれど、もう花は消えていたの。
がっかりしてお店に戻った彼女は、こっぴどく怒られた上、罰を与えられた。
上客を逃したせいで娼館に損害を与えた彼女は、損害額の分をタダ働きさせられ、新人の女の子たちと一緒に雑務なども課せられた。
それなりの年齢になっていた彼女にとっては、新人と同列に扱われるのは自尊心を傷つけられたのね。
そして、こんな境遇になる原因となった黄金花そのものを恨むようになった。
やる気を無くし、張りのなくなった彼女を指名する客はどんどん減った。
三度目の十年祭を迎える前には、ほとんど客を取れなくなった。
年も上がっていたし、十年祭が終わったら引退させようか……そんなことが娼館内でささやかれるようになった。
それを知っていたのか、彼女は十年祭が始まると、積極的にお客を取った。最後の徒花を咲かせるようにね。
日が昇って花街が休む時間だというのに、街角に立ち、浮かれる男たちを妖艶な笑みやしぐさで誘った。
その時は誰も気が付かなかった。彼女が黄金花を身に着けた男ばかりを選んでいたことに。
彼女はね、お客にねだって黄金花を集めていたのよ。いくつもいくつも。
一本で一つの願いが叶う……そう信じてね。
その数は二十本とも百本とも言われているわ。
日が暮れる前、彼女は手に入れた全ての黄金花を持って人気のない城壁の上に昇った。
日没の一瞬、黄金花はきらめきを得て空へ帰ったそうだけど、彼女の願いは叶わなかった。
翌日兵士が見つけた彼女は、何一つ覚えてなかったそうよ。
自分のことも、娼館のことも何もかも……。
彼女は働いていた娼館で引き取られたそうだけど、すぐに亡くなったというわ。
だから……花街の女はね、客のために黄金花を手に入れることはあっても、娼婦が黄金花を手にすることはないの。
花街で働くしかないただの女であっても、すべてを忘れてしまいたくはないの。




