6.神殿の秘密 3
ユレイオンはいらいらしながら遅々として進まない儀式に参加していた。
太陽の神子の不在は公にすることができず、結局神殿は神子の体調不良を理由に、祭りの最中だというのに神殿の門を閉ざした。
朝早くからすでに並んでいた者達は口々に不満を漏らしていた。
祭の最中に門を閉じるなど、前代未聞のことだった。十年祭が行われるようになってから一度も門を閉ざしたことのない神殿の、異例の措置だった。
そのことが、逆に神託を聞きに来た者達の不安を掻き立てることとなった。
神託が降りない、と市中に流れていた噂は神殿の態度により裏打ちされてしまったのだ。
そんな民の思惑を余所に、神殿では必死の捜索がなされていた。
門を閉じたのは、すでに町中に散った神官たちの不在を悟られないため。そして何人たりとも神殿へ入らせないため。地下の道も灯りが焚かれて見張りが立った。神殿自体には侵入者探知用に塔の魔術師たちが結界を敷いている。
探索に駆り出されなかった者達は、万一のために準備していたスペア、もう一人の神子に金聖獣を降ろす儀式に参加していた。
ユレイオンたち塔の魔術師も当然参加している。
二度目の儀式のため、精神的な余裕があるユレイオンの心はすでに、神殿の外にあった。
かならず行くと約束した、あの場所へ。
今日、あの娘と会わなければ、昨日一日の苦労が水の泡になる。何より、あの本を取り戻せるチャンスが、永久に失われるかもしれないのだ。
「……オン……ユレイオン?」
名を呼ばれて我に返る。
自分の掲げていた蝋燭の火が消えかかっていた。あわてて横の新しい蝋燭を取り上げ、呪を唱えながら火を継ぐ。
ユレイオンが儀式で果たす役目は、太陽の光から採ったこの火を絶やさないこと。
陣を描き、清めを行い、場を安定させたあとは三人の師と塔長が交代しながら長い詠唱に入っている。
前日に突然大役を仰せつかったユレイオンはこの詠唱を覚えきれず、塔長がその役目を果たす代わりに、ユレイオンに、魔術師のもう一つの役目である火継ぎの役目を与えたのだ。
気軽に引き受けたものの、ユレイオンはこの役目の荷の重さを一度目の儀式で思い知らされていた。二度目と言っても、手を抜けるようなものではない。
火を絶やせば、儀式は中断される。もう一度、採火からやり直さなければならない。
陣の中央、祭壇にはスペアの少年が横たえられ、神官長が定められた韻律を踏んで舞いながら詠唱している。儀式は、日が昇る前から沈むまで、延々と丸一日続けられる。ユレイオンが苛つくのも無理はなかった。
舞殿の小さな天窓から光が差し込む。その光が、すでに外界は昼の暑さに包まれているだろうことを伝えてくる。天窓以外にこの部屋に窓はなく、昼間でも蝋燭の灯がなければほとんど見えない。
ユレイオンはいらいらしながら天窓を見上げた。時間は遅々として進まず、儀式は日が落ちるまで続く。必ず会いに行くと約束した娘は、果たして自分が解放されるまで待っているのだろうか。それとも……。
どうすることもできない。
今の自分には、この重責を逃れて逃げ出すことはできない。それゆえ約束を違えることになる。
かといって、他の長老たちと役目を代わってもらうこともできない。ただでさえ、自分が詠唱に加われないことで長老たちの負担は増している。その上、理由も聞かずに自分を放免してほしいなど、頼めたものではない。
言い出せば理由を問われるだろう。それを自分から言いたくはない。知られたくない。
事を荒立てぬよう、内々で済ませようとした、これは自分への罰なのか。
そう、思わずにはいられなかった。




