5.二人の少女 5
アマドが声をひそめながら手短に説明すると、ミリアはちいさくうなずいた。
「やっぱりねえ」
「え?」
二人は顔を見あわせた。
「いやさ、昼前頃から神殿に参拝したお客さんがちらほら入ってるんだけど、どうも芳しい答えがもらえなかったらしいのさ。で、どうも前の十年祭と雰囲気がよく似てるって噂してたんだよ」
「じゃあ……」
ミリアは真剣な顔をしてうなずいた。
「金聖獣は降臨してないみたいだね。神殿は必死に隠してるらしいけど、もしそうなら前の十年祭の時みたいに、結局降りませんでしたといつかは発表しなきゃならないんだから、悪あがきしなきゃいいのに」
「……じゃあ、親父は」
「その責任をとって辞任、なんてことになってなきゃいいんだけどねえ……」
「無責任なこと言うなよ、お袋」
「だってねえ、セイファードが大神官になったのも、前の十年祭で金聖獣が降りなかった責任をとって前任者が辞任したからなんだよ。今年も同じことが起きてないとは限らないじゃないさ。まあ、わかんないけどね」
「なんだよ、ころころ意見を変えないでくれよ」
息子の抗議にミリアは苦笑した。
「ああ、ごめんごめん。だってね、毎年あんたがかえってくる前には必ず一度は顔を出して、よろしく頼むって言いに来るのよ、オスレイル。でも今年は顔を出さなかったなと思って」
その都度礼代わりの酒を差し入れてくれていた。だが、今年はその酒も、他の人間に託けて送ってきた。あの時はミリアも何かあったのかと思いはしたが、あまり深くは追求しなかった。今年は十年祭で、大神官を勤める以上、忙しいのだろう、と。
「じゃあ、やっぱり親父の身になにか起こってるんだ」
「そうかもしれない。うちに顔を出せないような何かがね。でも、神殿の中にまだいるってことも考えられるわよ」
「……俺、やっぱり確かめてくる」
オスレイルは立ち上がった。そのまま部屋を出ようとするのをミリアが引き止めた。
「真正面から言っても教えてくれやしないわよ。それは今日やったんでしょ?」
「そうだよ、オスレイル。方法を考えなきゃ」
「方法って?」
「だからこれから考えるんだ」
「まあ、何をしても構わないけど、犯罪者の母親だなんてあたしを呼ばせないでおくれよ? 信用してるからね」
「わかってるって」
食器を下げてミリアが出て行くと、さて、とアマドは身を乗り出した。
「どうする? オスレイル」
「どうするって……考えるんだろう?」
「ああ。あの調子じゃあ参拝者の列は途切れそうにない。夜は神殿も休むから、狙うとしたら夜しかないよな」
「夜って門は閉まってるだろ。警備も立ってるだろうし」
するとアマドは得意げな顔をした。
「祭りの間は閉めないと聞いたぜ。それに何年あそこにいたと思うんだよ。秘密の抜け穴ぐらい、一つや二つ知ってるさ」
「抜け道なんかあるのか!」
驚いて声を上げると、アマドは苦笑した。
「おまえ、何歳の時からあそこにいるんだよ。……まあ、真面目でお固いからなあ、おまえは。それに」
「わかってるよ!」
オスレイルはつい声を荒らげた。
「怒るなよ。おまえのオヤジさんが大神官だから告げ口されるんじゃないかって、他の奴らからもきつく口止めされてたんだから。……あの当時の奴らはもう神殿にいないし、時効だろ。行ってみようぜ」
「でも」
不安げに言うと、アマドは自信たっぷりに胸を叩いてみせた。
「まかしとけって。修業時代にいろいろあちこちのぞいて探検しておいたんだ。あの神殿には色々からくりがあって面白いんだぜ」
そういうアマドの顔は、今まで見たこともないほど楽しそうだ。
「もしかしておまえ、こういうこと好きなのか」
「ああ、おかげさまでね」
友の意味ありげな含み笑いに、オスレイルは釈然としないものを感じた。




