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翠の瞳 ~塔の魔術師 外伝~  作者: と〜や
二人の少女 ――二日目
43/99

5.二人の少女 4

 宿に戻り、ミリアに食事を運んでくれるように頼んで部屋に上がる。

 暑さ負けしたようで、ふたりとも冷たい床の上に転がって思い切り伸びをした。

 足音がして、ミリアが上がってきた。


「なんだい、いい若い者がだらしないねえ。朝早くに出てったみたいだけど、神殿へ参ってきたのかい?」

「ああ、すっごい人だった」


 並べられる食事のいい匂いにつられてオスレイルは身を起こした。


「ずいぶん長く待たされたよ。あんなに待たされると知ってたらちゃんと準備して行ったのに。腹が減って減って目が回りそうでさぁ」


 アマドも起き上がって席についた。


「はい、召し上がれ。できたてだから美味しいわよ。酒も持ってこようか?」

「いや、いいよ。あ、そうだ。お袋、神殿の噂、聞いてない?」

「噂? いつの噂よ」


 ミリアは首をかしげた。


「ごく最近の。ここ一月ぐらいでもいいや。何か知らない?」

「いいや、何も聞いてないけど」

「じゃあいいや」


 ひらひらと手を振ると、ミリアは腰に手を当てて二人を見下ろした。


「な、なんだよお袋」

「あんたたち、何隠してるんだい」


 冷ややかに。


「何って?」

「何じゃないよ!」


 努めて冷静に食事を続ける息子たちに、ミリアは声を荒らげた。


「あんたたち、何考えてるんだい?」

「何にも。てか、どうしてそう思うんだよ」

「分かるに決まってんじゃないの。おまえがそんなことをあたしに聞いてくるなんて初めてだからよ。神殿の噂なんて今までちっともきにしなかったおまえが。言いな。何かあったのかい? 何を聞いてきたんだい?」


 さすがにオスレイルも食事の手を止め、アマドを見た。アマドも同じ気持ちだったらしく、目が合うとオスレイルは悲しげに視線を逸らした。

 それをアマドは否定と受け取って、首を振り、目の前のスープ皿に手を伸ばす。


「何もありゃしないよ。俺だって神殿に勤めてるんだぜ。よその神殿の噂が気になることだってあるよ。それに俺のところじゃこんな大規模な祭りはないからさ」

「そういう嘘はあたしの目を見ながら言いな」


 喝破されてふたりとも顔を上げた。いつもは機嫌よく笑っているミリアが、青筋を立てて怒っている。オスレイルは怒ったミリアを見た記憶はなかったが、それでも心底怒っているのが伝わってきた。


「ごめん、ミリアさん」


 先に謝ったのはオスレイルだった。


「オスレイル? いいのか?」

「ごめん、アマド。俺、母さんを知らないから、母親ってのがよくわからないけど、ミリアさんが俺に何くれとなく心を配ってくれてるのは分かる。これ以上、心配かけたくないよ。俺にとってもミリアさんは母さんみたいなものだから」


 ごめん、と頭を下げるオスレイルに、ミリアはしょうがないねえ、と破顔した。


「いいよもう。頭を上げとくれよ、オスレイル。あたしもあんたを本当の息子だと思ってるよ。今でこそ大神官になっちまったけど、セイファードと死んだ亭主は仲が良くてね。セイファードは十年前に亭主が死んだ時、あたしが神殿を出てここに戻るのに骨を折ってくれたんだよ。あんたについてはセイファードからも託されてるし、何しろあんたはアマドの大切な友達だ。あまり迂闊なことをしてほしくないんだよ」

「うん、分かった。ごめん」

「アマドも! あんたに何かあったら死んだ父さんが悲しむだろ。自分のすることにはきちんと責任を持ちなさい。それと、母親に聞かれてまずいようなことは企てるんじゃないよ。母親に言えないってことは、お天道様に顔向け出来ないことと同じなんだからね。息子が犯罪者なんて聞きたくないからね」

「ん、肝に銘じとく」


 アマドも、これほど激昂した母には気圧されたらしく、素直に答えた。


「で? なんだって?」

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