5.二人の少女 4
宿に戻り、ミリアに食事を運んでくれるように頼んで部屋に上がる。
暑さ負けしたようで、ふたりとも冷たい床の上に転がって思い切り伸びをした。
足音がして、ミリアが上がってきた。
「なんだい、いい若い者がだらしないねえ。朝早くに出てったみたいだけど、神殿へ参ってきたのかい?」
「ああ、すっごい人だった」
並べられる食事のいい匂いにつられてオスレイルは身を起こした。
「ずいぶん長く待たされたよ。あんなに待たされると知ってたらちゃんと準備して行ったのに。腹が減って減って目が回りそうでさぁ」
アマドも起き上がって席についた。
「はい、召し上がれ。できたてだから美味しいわよ。酒も持ってこようか?」
「いや、いいよ。あ、そうだ。お袋、神殿の噂、聞いてない?」
「噂? いつの噂よ」
ミリアは首をかしげた。
「ごく最近の。ここ一月ぐらいでもいいや。何か知らない?」
「いいや、何も聞いてないけど」
「じゃあいいや」
ひらひらと手を振ると、ミリアは腰に手を当てて二人を見下ろした。
「な、なんだよお袋」
「あんたたち、何隠してるんだい」
冷ややかに。
「何って?」
「何じゃないよ!」
努めて冷静に食事を続ける息子たちに、ミリアは声を荒らげた。
「あんたたち、何考えてるんだい?」
「何にも。てか、どうしてそう思うんだよ」
「分かるに決まってんじゃないの。おまえがそんなことをあたしに聞いてくるなんて初めてだからよ。神殿の噂なんて今までちっともきにしなかったおまえが。言いな。何かあったのかい? 何を聞いてきたんだい?」
さすがにオスレイルも食事の手を止め、アマドを見た。アマドも同じ気持ちだったらしく、目が合うとオスレイルは悲しげに視線を逸らした。
それをアマドは否定と受け取って、首を振り、目の前のスープ皿に手を伸ばす。
「何もありゃしないよ。俺だって神殿に勤めてるんだぜ。よその神殿の噂が気になることだってあるよ。それに俺のところじゃこんな大規模な祭りはないからさ」
「そういう嘘はあたしの目を見ながら言いな」
喝破されてふたりとも顔を上げた。いつもは機嫌よく笑っているミリアが、青筋を立てて怒っている。オスレイルは怒ったミリアを見た記憶はなかったが、それでも心底怒っているのが伝わってきた。
「ごめん、ミリアさん」
先に謝ったのはオスレイルだった。
「オスレイル? いいのか?」
「ごめん、アマド。俺、母さんを知らないから、母親ってのがよくわからないけど、ミリアさんが俺に何くれとなく心を配ってくれてるのは分かる。これ以上、心配かけたくないよ。俺にとってもミリアさんは母さんみたいなものだから」
ごめん、と頭を下げるオスレイルに、ミリアはしょうがないねえ、と破顔した。
「いいよもう。頭を上げとくれよ、オスレイル。あたしもあんたを本当の息子だと思ってるよ。今でこそ大神官になっちまったけど、セイファードと死んだ亭主は仲が良くてね。セイファードは十年前に亭主が死んだ時、あたしが神殿を出てここに戻るのに骨を折ってくれたんだよ。あんたについてはセイファードからも託されてるし、何しろあんたはアマドの大切な友達だ。あまり迂闊なことをしてほしくないんだよ」
「うん、分かった。ごめん」
「アマドも! あんたに何かあったら死んだ父さんが悲しむだろ。自分のすることにはきちんと責任を持ちなさい。それと、母親に聞かれてまずいようなことは企てるんじゃないよ。母親に言えないってことは、お天道様に顔向け出来ないことと同じなんだからね。息子が犯罪者なんて聞きたくないからね」
「ん、肝に銘じとく」
アマドも、これほど激昂した母には気圧されたらしく、素直に答えた。
「で? なんだって?」




