4.祭りの始まりは危険が一杯 13
「しっかし、あいつがこの街にいるとか、予想外だなぁ」
アマドの言葉に、オスレイルはうなずいた。
「もしかしたら、十年祭だから戻ってきてるのかもしれないな」
「ありえるなぁ。もしかしたらもうどこかでもうすれ違ってたりして」
「これだけ人があふれてるとすれ違ってても気がつかないだろう」
「意外とこの辺りにいたりしてな」
笑いながら、アマドは辺りを見回した。
あんな目立つ蜂蜜色の髪を見逃すはずはない。だが、十年経ったヴィーを見つけることができるだろうか。あいつも今の俺たちに気がつかないかもしれない。
そんな会話を交わしながら、人のうねりに目をやる。あちこちから人が集まっているとはいえ、黒髪の割合のほうがやはり高い。それに夜の帳が降り、街は篝火の黄色い光に照らされている。赤や茶色は黒く、銀や白は黄色く見えるこの宵闇では、金の髪を見分けるのは困難だった。
西の壁伝いに大通りへ戻ってきた二人は、神殿とは逆の入り口――今朝、太陽の神子が入城してきた東の門あたりまできていた。
この辺りはどうやら元から歓楽街のようで、飲み屋や娼館が軒を連ねている。窓から女達が身を乗り出し、女は男にしなだれかかるようにしながら歩いている。
どの女も胸元を大きくはだけ、あからさまに誘う仕草を見せる。
二人はどぎまぎしながら女達をやり過ごしては後ろを振り向いた。
「すげぇな、今の姉ちゃんの乳」
「あ、アマド……鼻血出てる」
オスレイルに言われてアマドはぐいっと鼻の下をこすった。
「この先は娼館ばかりだったよな。戻ろう」
まだ少し名残惜しそうなアマドの腕を引っ張って、オスレイルは踵を返し、唐突に立ち止まった。
「どうかしたか?」
「アマド……あれ」
オスレイルは人の波の向こう側を歩いている男を指さした。
生成りの服は同じで、髪を後ろで束ねている男。うつむき加減で顔はよく見えないが、こぼれたうねる金髪が浅黒い顔を縁取っている。
「まさか。人違いだろ」
「いや、間違いない。あいつだ」
「おい、待てよ」
友の制止も聞かず、オスレイルは人の波に飛び込んだ。
「待てってば、オスレイル!」
アマドの声が聞こえたのか、金髪の男は足を止め、顔を上げた。
その視線がオスレイルと交差した途端――男は恐怖に顔をひきつらせ、すごい勢いで町の方へと逃げ出した。
「おい! 待てよ! 待てったら! シャイレンドル!」
その名を聞いた途端、男は立ち止まり、振り返った。
が、もっとすごい早さで走りだし、やがて人の波に飲まれて見えなくなった。
オスレイルは賑やかな大通りに出たところで立ち止まった。しばらくしてアマドが追いつくと、オスレイルは大通りの方をじっと見つめたままだった。
「オスレイル」
「あいつだった。間違いない。あの顔、見間違えるはずがないよ。でも……なんで、どうして……逃げるなんて」
「見間違いじゃないのか?」
だがオスレイルは首を横に振った。
「とにかく、一度戻ろうぜ。ここで待ってたって、ここを通るとは限らないだろ。ほら」
がっくりと肩を落として、オスレイルはうなずいた。
アマドに腕を取られて歩き出す。
しばらくの間、無言で歩いていたが、不意にアマドは笑い出した。
「なんだよ」
「いや、思い出したんだよ。黄金花の言葉をさ。二つ目の願い、ちゃんと叶ったじゃないか」
「あ……」
アマドはぽんと友の肩をたたいた。
「心配するなよ、オスレイル。おまえが見たのが間違いでないなら、あいつが生きてたってことがわかったんだし。生きてる限り、どこかでまた会えるだろ? それに、祭りが終わるまでまだ時間があるんだ。街からは出られやしないんだから、どっかでひょっこり出会うかも知れないし」
「それもそうだな……」
まだ、十年祭は始まったばかりだ。
オスレイルは顔を上げた。




