4.祭りの始まりは危険が一杯 12
あたりからどよめきと歓声が起こりはじめた。声につられて立ち上がると、まさに太陽が山の向こうに沈もうとしている。
「オスレイル、花は」
「ああ」
胸につけていた花を手に取り、光が当たるように高くかざしてやる。
アマドもオスレイルも、初めて見る儀式に胸をふくらませて花をじっと見つめていた。
太陽が最後の光を投げかけて山の向こうへ沈む。
光を受けた花は内側から光りだした。光はどんどん大きくなり、花をすっぽり包み込むと球状にまとまって手の中へと降りてきた。
「お、おい、なんだこれ」
光の珠の中に、体を丸めて眠っている小さい子供が見えた気がして、アマドは目をこすった。
『願いを』
そう、確かに聞こえた。くぐもって幾重にも重なった声が頭の中で響く。
「今の、頭の中で聞こえた?」
「俺にも聞こえた。ほら、オスレイル。願いを言えよ」
「お、俺は別に……」
「別に、じゃなくて。ほら、早く。消えちまうぞ」
『願いを』
繰り返し響く声。
オスレイルは光をじっと見つめていたが、意を決して口を開いた。
「じゃあ……教えてくれ。俺は、神官になれるのか……?」
『それは願いではない』
「俺は……自分が何なのか、何をすればいいのか知りたいんだ。それが願いだ」
自分は思った者になれるのか――。それこそが今一番知りたいことだ。
しばらく間を置いて、応えが響いた。
『それでは正式な願いとはならないが……そなたゆえ教えよう。あとで願いを』
「分かった」
『そなたが何者か、何をすべきかは祭りが終われば全て明らかになる。全てが明らかになれば、それを拒むことはできない。全てが明らかになった時、運命の輪は回り始めるだろう』
「運命?」
「そうだ。そなたの、そしてこの星の……さあ、願いを』
「願い……そうだ、ある人の行方を知らないか。ヴィーの行方を」
オスレイルはずっと気になっていた人の名前を告げた。
『知っている』
「どこにいる?」
『この街のどこかに……』
「本当に?」
長く眠らせたままだった思いがこみ上げてきて、オスレイルはこみ上げる涙を堪えられなかった。
「オスレイル……」
「会いたい。俺、言わなきゃならないことがあるんだ」
堰を切ったようにあふれてくる涙。
『その願い、聞き届けよう。祭りの間に』
光はそう告げ、手のひらから空高く舞い上がっていった。
見えなくなるまで見送り、我に返ると、同じように涙にむせぶ人や、喜びに満ちた笑顔が塔の上にあふれていた。
「帰るか」
大きく伸びをして、アマドは振り向いた。
「そうだな。ミリアさんも待ってるだろうから」
「どうかなぁ。お袋のことだ、誰かいい男を見つけて俺らのことなんかきれーさっぱり忘れてるかも知れないぜ」
「それも許される十年祭なんだろ?」
それもそうだ、とアマドは笑った。
「でも、日が変わる前に帰って来いって言われたしな。今日は素直に帰ろう」
暗くなった中を小さな明かりだけを頼りに階段を降りるのは、結構骨が折れた。
外壁から町に通じる扉を開けると、町はまだ眠りそうにない喧騒に包まれていた。
「しっかし、よくわからないお告げだったな。全ては祭りが終わってから、とか」
「ああ」
星の運命。その一言がオスレイルにはひっかかっていた。
俺の運命、星の運命。それがどう関係するのか、想像もつかなかった。




