4.祭りの始まりは危険が一杯 5
表の喧騒で目が覚めたときには、すでに太陽は昇ったあとだった。
まぶしくて寝返りを打ったシャイレンドルは、すぐ横に何かがいるのに気がついて目を開けた。
至近距離に、小さなさくらんぼ色のふっくらとした唇があった。
「うわっ」
飛び起きようとして反対側に向くと、ぴんと張ったふくよかな丘の谷間に顔がめり込んだ。
「うぷっ」
反射的に押しのけようとするが、頭を何かで押さえつけられた。
「おはよう、お寝坊さん。神子の一行はもう通り過ぎちゃったわよ」
「むぐ、むぐぐぐ」
息ができねぇっ。し、死む死むっ。
力づくでなんとか女の体を押し戻す。かわいらしい声を作るのも無視。
「ぶはっ、てめぇ、息できねぇじゃねえかよっ」
「うふ、朝のご挨拶よぉ」
ベッドを占拠していた四人の女たちものそのそ起き上がる。
「ほら、あんたたちも起きて。顔洗って服着替えて。朝ごはん用意してもらってるから、持ってきて」
「はぁい」
女たちは立ち上がり、服を取り上げた。シャイレンドルはその様子をチラッと見――そっぽを向いた。
「なぁに、遠慮せず見てくれていいのよ、坊や? 昨日はたっぷり遊んでくれたじゃないの」
女の一人がからかうと、彼は顔を赤くした。そして自分の格好に気がついて、あわてて服を探す。
「わいの服、どこやったんや」
「あ、そうそう。あれね、洗濯中なの。で、祭りの間はこの服を着るのが決まりだから、こっちに着替えてね」
差し出された生成りの服を掴んで、急いで身にまとう。
「わいの荷物は? 金袋とか触ってへんやろな」
「そこは信用してほしいわねぇ。机の上に全部まとめてあるわよ。じゃ、ちょっと待っててねぇ」
女たちば順々に濃厚にシャルの唇を奪い、階下へ降りていった。
広い部屋に一人取り残されて、ようやくシャイレンドルはため息をついた。寝台に体を投げ出す。
酒を飲みすぎたのか、頭がガンガンする。部屋に入って、酒飲まされまくって、途中から記憶がない。
目が覚めたら身包み剥がされて転がされてたとか、怖すぎる。
思い出して起き上がり、机の上の荷物を確認する。夕べ支給された荷物は揃っている。金貨の袋もそのままあった。
「はい、お待たせ。朝ごはん」
女たちが両手に盆を抱えて戻ってきた。荷物を降ろした机に並べていく。
「坊やはそこへ座って。髪の毛梳いたげる」
女――たしか、アイランとか呼ばれてた――は、彼を寝台に座らせると絡みまくった金の髪を梳き始めた。くせ毛でしかも腰のあたりまで鬣のように伸びた髪はくちゃくちゃに絡んでいて、シャイレンドルは時折悲鳴をあげた。
「だいぶ絡まっちゃってるわねえ。あとで湯浴みしよっか。入れたげる」
「い、いいよっ」
うふふ、と笑いながら彼女は髪を金の紐でまとめて縛ると、小さな花を取り出した。
「その花は?」
「ああ、これ? 黄金花」
「おうごんか?」
「あ、いいなぁ。アイラン、拾えたんだ」
それを聞いて女たちが寄ってきた。
「花がどうかしたんか?」
「これ、十年に一度しか花をつけない奇跡の花って言ってね、願いをかなえてくれる花。今年は坊やにあげる。いいことありますように」
そういうとアイランは花を彼の髪に絡ませた。
「ああ、やっぱりよく似合うわぁ」
「この金髪、いいわよねぇ。ねえ、よかったら髪の毛、売らない? かつらにしたら高く売れるわよぉ」
「ちょ、髪の毛引っ張るの、やめぇ。売らねぇし、切らねぇよっ」
女たちの手から髪の毛を守る。なんでこう、女ってのは遠慮がないんだよっ。この髪がきれいだって? 何言ってんだ。
騒いでるうちに頭痛が戻ってきて、シャイレンドルは顔をしかめた。
「あらぁ、大丈夫?」
「二日酔いなんじゃなぁい? ずいぶん飲んでたもの」
「夕べのこと、覚えてないんじゃない?」
女たちが口々にさざめく。うるせぇ。
「ま、あんだけ飲んだらしかたないわよねぇ。はい、できあがり。じゃ、朝ごはん食べて、今後のことを話しましょ?」
今後のこと?
一体何のことだ?
が、女たちはみな、くすくす笑うだけだった。




