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翠の瞳 ~塔の魔術師 外伝~  作者: と〜や
困った子供たち ――祭の前日
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3.困った子供たち 13

 さて。

 塔の問題児、シャイレンドルは市壁に近い小奇麗な店にいた。


「ぶぇっくしっ!」


 派手なくしゃみ。女たちのくすくす笑いが聞こえてきた。まだむずむずする。


「だんなぁ、大丈夫ですかい? さっきから何度もくしゃみしてるようだけど」


 店主の心配そうな声に笑ってみせる。


「だいじょーぶだいじょーぶ。どっかで誰かが噂しとるだけや」

「そうかい? まぁ、だんなは別嬪だからなぁ。女たちがほっとかないだろうし、他所で女泣かせてきたんじゃないですかぁ? はいよっと、お待たせ」

「別嬪ってなぁ……女じゃねえっての」


 酒のお代わりに手を伸ばす。


「いや、だってさぁ、だんな。あっちの奥、見ておくんなさいよ」


 店主はにやにやしながら店の奥を指差した。そこにはきれいに着飾った女性たちが十人以上、好奇や嫉妬の目を彼に向けていた。


「なんや?」

「だんながあんまりに別嬪だから、見とれてるんですよ、このあたりじゃその色の髪は珍しいですからねぇ」

「え? 右端の人も金髪やろ?」


 店主は首を振った。


「あれは天然じゃありませんよ。薬で色を抜いてるんです。だからぱさぱさ。だんなのは生来の色でしょう? うらやましいんですよ。肌の色もその瞳も。自分よりきれいだから、気後れしてるんでしょう」


 どれもうちの自慢の看板娘なんですけどねぇ、と店主は苦笑する。


「ふぅん、わいはこの姿、好きやないんやけどなぁ」


 参ったな、とつぶやいてジョッキを空ける。

 またか。

 黒髪に黒い瞳が一般的なこの町でこの姿は目立ちすぎる。昔向けられた蔑みの眼差し。記憶に残るこの町の唯一の記憶。

 この町に来ると知らされていれば、そもそも来るとはいわなかった。ここでは俺は異端児だ。

 祭りが終わるまで遊ばせてもらおうと思ってたが、これではどこにも行きようがない。

 せっかくあの間抜けな監視役を出し抜いて逃げてきたのに。

 刺すような視線を四六時中感じる。あの野郎、遠見で監視してやがる。


「覗き見しとんやないわっ」


 視線を感じたほうへシャイレンドルは金色の瞳をひらめかせた。金色であったはずの瞳が、あざやかな翠に変化する。

 邪眼と呼ばれ、この地域では特に忌み嫌われる緑色の瞳。人一人にらみ殺すこともできる、特殊な力を彼は遠慮容赦なくぶちまけた。

 朝からのしかかっていた視線が消える。相手はどうせあのいけ好かない男だろう。死ぬほどの力は込めなかったが、二、三日はのた打ち回ることだろう。

 いい気味だ。


「わいは好きなようにさせてもらうで」

「お好みの娘を選んでいいですよ。なんでしたら二人でも三人でも」


 シャイレンドルのつぶやきを店主は勘違いしたのだろう。手をもみながら寄ってくる。


「は? 選んで何するんや」

「なに言ってるんですか。決まってるでしょう? ここは娼婦の館なんですから」




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