3.困った子供たち 10
「忘れるわけ、ないだろ?」
アマドは杯を卓に叩きつけた。
きれいな金の瞳、蜂蜜頭の暴れん坊。ミツバチにちなんでヴィーとか呼んでからかってた。
「神殿の裏で一緒に遊んだろ。覚えてるよ。……そうだよ、俺、神殿の宿舎に住んでた!」
アマドはいきなり上体を起こした。
「お前と俺と、あいつと。隣同士だったよな? 思い出した。そうだよ、葬送の後、お袋と一緒にここに引っ越してきたんだ。なんで忘れてたんだろう」
「隣同士?」
オスレイルは首をかしげた。その記憶は彼にはなかった。
「ああ、覚えてないかなぁ。確か隣だったと思う。よく三人でつるんで遊んでたよな。どうしてるんだろう、あいつ。あの後ぜんぜん会わなくなって」
「あいつ、な」
アマドは思い出したのが嬉しいのか、いい笑顔をしてる。が、オスレイルは視線を外した。
「……親父の知り合いとかいう人に引き取られていったよ」
何があったのか、教えてはもらえなかった。アマドが引っ越して、気がつけばもう一人の幼馴染もいなくなっていた。さよならも言えなかった。
「引き取られてって……なんでだよ! 何で今まで教えてくれなかったんだよっ!」
アマドの怒りが突き刺さる。 オスレイルは頭を下げた。
「ごめん。誰にも話すなと親父に釘を刺されたんだ。それに、ミリアさんの話を聞くまで、十年前のこと自体、思い出しもしなかったんだよ」
「……お前にとってはその程度だったってことかよ、俺も、あいつも」
「そんなつもりじゃない。俺にだってわからないんだ……」
何で肝心な部分の記憶がないのか。なぜ今まできれいさっぱり忘れていたのか。
「……覚えてるのは、あいつのことは二度と聞くな口に出すなと親父に殴られたことだけだ」
「あの親父さんが? 珍しいな」
うなずく。親父に殴られたのは、後にも先にもあの一回きりだ。
「俺、明日神殿に行ったときにもう一度聞いてみるよ」
「俺も一緒に行く」
アマドは立ち上がり、窓に歩み寄った。酔いはもうさめているようだ。
「アマド」
「行って、あいつがどこに引き取られていって、今どうしてるか、聞きたい。もしかしたら知ってるかもしれないだろ? お前の親父さん」
「そうだな……今どこでどうしてるんだろうな」
「案外この町にいたりしてな」
アマドはそういって窓の外に眼をやった。闇に浮かぶ蜂蜜色の灯火が美しかった。




