3.困った子供たち 9
「それにしても驚いたなぁ」
ミリアが出て行った後、二人は酒盛りを続けていた。樽はとっくに空っぽ、新しく下からくすねてきた酒もそろそろ終わりだ。
「何がだよ」
アマドはすっかり出来上がって耳まで赤い。
「お前、顔真っ赤だぞ。そろそろやめとけよ」
「いーやっ、まだ飲むんだっ。気持ちいいんだから水さすなよぉ」
杯に新しい酒を注ぐ。手元が狂って外にこぼれる量のほうが多い。
「やめとけって。こぼれてるだろうが。まったく……二日酔いになっても知らないぞ。明日早いんだろ?」
「だぁいじょーぶだってば。俺が毎日何時に起きてると思うんだよ。日の出前だぜ? ほら、お前も飲めよ」
「お、おい。こぼすなよ」
なみなみとあふれそうになるのをすする。
「どこで覚えたんだよ、まったく。神殿で飲まされてるんじゃないだろうな」
するとアマドは口を尖らせた。
「神殿で飲めないからここで飲んでるんじゃないかっ。見習いの間は飲酒禁止だとかゆーからさぁ」
「それ、神殿の外でも飲んだらまずいんじゃないのか?」
「いーんだよっ、ばれなきゃ」
そういってけらけら笑いながら飲む友に、オスレイルは肩をすくめた。
「ま、いっか。お前の親父さんが太陽神殿の神官だったことに驚いたって話だよ」
「あー、そりゃ俺だって驚いたよ。お袋まで神殿関係者だとはさ」
「お前は忘れてただけだろうが」
「ちっちぇー子供の頃のことなんか覚えてるかよっ」
「やれやれ……でもまあ、ミリアさんの話で納得したよ。子供の頃にさ、なんで神官じゃない女性が神殿にいるんだろうって不思議に思ってたんだ」
「なんだ、お前。知ってたのか? って、当たり前か」
「まあ、な。俺の家はあそこにあるし、神殿の中は庭みたいなものだったし。よく神官の目を盗んであちこち冒険してたよ。そのときにたぶん、地下に迷い込んだんだろうな」
アマドは鼻を鳴らし、足元の空き瓶をごろりと転がした。
「俺さぁ、親父の顔、ぜんぜん覚えてないんだよな」
「十年前って言ってたっけ。俺が九つのときだから、お前は八つか」
「そ。十年前のお前のこととか、お袋のこととかはちゃんと覚えてるんだけどさ。親父のことだけがぽっかり抜け落ちてるんだ。顔も思い出せない」
「十年か……」
机の上で踊るランタンの炎に目をやった。窓の隙間から吹き込む風で時折揺れながら跳ねる。
「前の祭りの時には死人が出たとか言ってたよな」
「ああ、俺の親父もその一人だった」
十年前の葬送の光景だけは覚えていた。
町外れに立てられたいくつかの真新しい墓標。黒い旗をなびかせた野辺送りの行列。風に巻き上がる砂粒、肩に置かれた誰かの手。横で一緒に泣いてた、アマドと……。
「十歳まで一緒に暮らしてたのに、覚えてないなんてこと、あると思うか?」
オスレイルは立ち上がった。窓を開けて冷たい夜気に体を晒す。酔った頭を少しでも冷やしたい。
「なあ、覚えてるか?」
「ん?」
振り向く。アマドは赤い顔を上げた。
「十年前の葬送のこと」
「忘れられるわけ、ないだろ」
オスレイルはうなずいた。
「じゃあ、覚えてるか? あの時、お前の隣にもう一人いたのを」




