3.困った子供たち 6
「アマド、聖獣ってのはなんだか分かるかい? オスレイルは知ってたね。そう。金色の獅子だよ。地中深いところに、金聖獣の体が保管してあるんだ」
だんだん思い出してきた。ずいぶんぐるぐると地下を降りていった。そこに、右前足を上げ、今にも動き出しそうな獅子の像があった。
「保管って……それ、本当の話かよ? ただの石像じゃなくて?」
「違うわよ。ちゃんと生きてるって神官たちは言ってたわ。一千年経ってるとは思えないほどきれいでねえ。体は腐りもしてないし、動き出しそうな姿でねえ。金色の毛並みが実にきれいだったよ」
「金色の……獅子の剥製とかじゃないのか?」
「違う違う。母親の言葉ぐらい信用しなさいよ」
「でも、お袋。何でそんなこと知ってるんだよ。普通の人は知らないんだろ? なのに、なんで見たことあるなんて」
驚く息子に笑顔を返しながら、やっぱり鼻をつまむ。
「いてっ、何すんだよっ」
「あんたは本当にあの人そっくりになったねえ。あと二十歳若ければ、もう一度恋をしちまうところだよ」
「アマドの親父さんのことですか?」
オスレイルは横から口を挟んだ。ミリアはうなずき、目を閉じた。
「ああ。あたしたちを残して十年前に逝っちまったけどね。アマドには言ったことがあったろう? あの人は太陽神殿の神官だったんだよ」
「ええっ!」
二人の声が重なる。ミリアはむっと唇を突き出した。
「なんだいその声は。アマド、あんたまで忘れてたのかい?」
「あ、う、その、ごめん」
「ま、いいけどさ。あんたは火の神官になっちまったけど、あの人と同じ道を選んだのも、血かねぇ、それとも宿命ってやつかねえ」
ミリアは窓の外に目をやった。
「当時あたしは神殿の使い女だったのさ。使い女と言っても下っ端の召使のことじゃないよ。水神殿の巫女のような役目さ。うちの家系は代々、女は神殿の巫女として太陽神殿に仕えてきた。いにしえからの血による契約ってやつでねぇ。ま、そうやって神殿に入った女は、たいてい神殿の神官とくっついて嫁いでいくんだけどね。あたしもその一人ってわけさ、アマド」
「そういや聞かされたことあったっけ……じゃあ、なんでお袋は宿屋なんてやってるんだよ」
「なんでって、ここはあたしの生まれた家だもの。当たり前さね」
三杯目を自分で注いで、ミリアはふぅとため息をついた。
「あの人は天涯孤独の身でねえ。あの人が亡くなった後、ここに戻ってきてクソ親父のあとを継いだってわけ。結婚した使い女は神殿にとっては用なしだから、ひもじい思いをしないためにも、あんたを育て上げるためにも、一生懸命働いてきたのさ」
ミリアは愚息に向き直った。
「いずれあんたにも子供が出来るだろうから先に言っておくよ。アマド、あんたの子供が娘なら、十五歳になったら太陽神殿に出仕させなければならないよ。だからそのつもりで育てなさい。ううん、いっそのこと娘が生まれたらあたしに預けなさい。立派に育てるから」
「お、お袋なに言ってんだよっ」
アマドはうろたえて口ごもる。
「いーから。あんたに任せたらろくなことになりそうにないもの。まぁ、それは置いといて、うちの家系はそうすることで、代々神官の血を入れてきたの。それも契約の一つってやつでね。あんたがまさか火の属性を持ってるとは気がつかなかったよ。誰の属性を受け継いだのかねえ」
ミリアは楽しげにに笑った。




