3.困った子供たち 5
「あら、だって……」
ミリアは口をつぐんだ。
「お袋には話したことあったよな。神学校では規定の課程を修めれば、あとは年に一度の属性判定試験、通称『悟り』で進むべき神殿が決まるって」
杯に目を落としたまま、アマドが口を開いた。
「ええ」
「こいつ、去年の悟りで属性が決まらなかったんだ」
オスレイルは拳を握り、奥歯をかみしめた。
「そうだったの……。てっきりもうどこかの神殿にお勤めしてるんだと思い込んでたよ。アマドより一つ年上だったし」
ミリアはオスレイルに向き直って頭を下げた。
「ごめんね、無神経なこと言っちゃって」
オスレイルは首を振った。
「いえ、俺のほうこそちゃんと話しておくべきでした」
「で、今は何やってるんだよ」
アマドは暗い雰囲気を払拭しようと、ことさら明るく聞いた。
「すでに課程は終わってるから、この一年は年少組の指導を手伝わされたり、教師の雑用を手伝ったり、あとは図書館の整理をさせられたり」
今年も属性が決まらなければ教師として残ってはどうか、といわれた校長の言葉を思い出す。
「先生たちの助手かぁ。そりゃ大変だ。で、今年の悟りはいつなんだ?」
オスレイルは樽に手を伸ばした。
「今年は十年祭と日が重なったから、終わってからになるらしい。まあ、もしだめでも神学校の教師の道があるから、大丈夫だよ」
心配そうな顔をする二人に、オスレイルは笑って見せた。
「そうね、オスレイルならいい先生になれるような気がするわ。そういえば、お父様にはご挨拶してきたの?」
父、という言葉でオスレイルの表情がかたくなった。
「いえ……神殿には行ってみたのですが、宿舎のほうへは立ち入りが禁じられているらしくて、会えずじまいでした」
「あら、もう?」
「ええ、神殿の神官たちが潔斎中らしくて、警備に当たっていたのは他所の神殿から手伝いに来た神官でした」
「そう。……やっぱりそうなのかしら」
ミリアはそういい、黙り込んだ。
「だぁっ、もう。まだるっこしぃなぁ。お袋、何知ってるんだよ」
痺れを切らしてアマドは声を荒げた。樽を叩き始める。
「オスレイルの親父さんに関することなんだろ? そもそも、今年の太陽祭りはなんか違う。十年祭って何が違うんだよ」
「おだまり愚息。騒ぐんじゃないよ。まったく、あんたは声だけはでかいんだから。十年祭ね……あんたたち、十年前のこと、覚えてるかい?」
ミリアは真剣なまなざしで二人を見た。
「十年前のことなんて、あんまり覚えてないよ。なんか騒がしかったような気はするけど」
「俺も。十年前なら神殿の宿舎に住んでたはずなんだけど……」
「そう」
二人の答えを聞いて、ミリアはため息をついた。酒を注ぎ足し、一気にあおる。
「お袋?」
「ま、当たり前さね。十年前はお前たち、まだ子供だったものね。十年祭ってのはね、数えで十八歳にならないと参加できない決まりがあるんだよ。だから、あんたたちは今回が初めての十年祭ってわけ」
おかわり、と杯をつきだす。
「じゃあ、お袋は今回で四回目……?」
「馬鹿を言うんじゃないよ。あたしゃまだ三回目だよっ」
鼻をぐいと引っ張られ、アマドは悲鳴をあげた。
「十年祭っていうのはねえ、太陽神殿に安置されてる聖像に由来してるのさ。アマドは見たことないだろうけど、オスレイルは覚えてるんじゃないかい?」
オスレイルはうなずいてかすかな記憶を辿る。奥殿には立ち入るなと言われていたが、一度だけ地下に迷い込んだことがあった。
「あれはね、一千年前に神々と戦ったと言われてる聖獣の体なんだよ」




