話をしましょう
服屋を出て歩き始めて十分。
俺が泊まっている“ぼんやり亭”に到着。
俺の分の金は払ってあるのでルナの分を追加しないとな、と考えながら宿のドアを開ける。
「はーい、いらっしゃ――あ、カズキさんおかえりなさーい。あれ、その娘は?」
「あぁ、依頼の途中で見つけましてね。行くところもないらしいから面倒見ようと思って。一緒の部屋にしようと思うんだけど大きな部屋に移動ってできます?」
「はい、出来ますよ。じゃあ泊まりは同じ日数でいいのでしょう?それなら4泊分で20000ファルです。」
「うん、それでお願いします。はいこれお金。あと202号室の鍵です。」
「はい、確かに。じゃあこれ新しい部屋の鍵です。301号室だから三階になりますので。前の部屋に荷物とかあるなら運んじゃいますけどどうします?」
「うんにゃ、別に荷物何にもないし大丈夫です。」
「そうですか?分かりました。それじゃごゆっくりどうぞ。」
「ありがとうございます。」
ルナを連れて部屋へと向かう。
新しい部屋は一人部屋よりやや広く、ベッドが二つある。
ただ広さまで倍というわけでもないので、前より空いたスペースは少し小さい。
まぁ別にずっと住むわけでもないからいいけど。
さて、まずは荷物を置いてルナの身体を綺麗にしないとな。
「ルナ、身体洗いに行こうか。」
「ん。」
買った服を部屋に置き、部屋の鍵を閉めて朝に水浴びをした井戸に向かう。
人から見られるのも嫌なので簡易のシャワー室のようなものを作るかな。
――ほい創造っと。
「っ!?」ビクッ
「よーしルナ、こっちおいで。髪洗ってあげるから。」
突然変なものが井戸があった場所に現れたもんだからビクッってなった妹様。
うん新鮮。
大きめのバスタオルと朝使ったシャンプー、リンス、あとは木でできた風呂椅子と桶を創造する。
うん、なんかこんなに何でもできちゃうともう山奥で籠った生活でいい気がしてきたな。
「じゃあ服脱いでこのタオルで身体隠したら教えてな。俺は後ろ向いてるから。」
「……ん。」
シュルシュルっと衣擦れの音が聞こえる。
うむ、いつもなら緊張でドキドキしてしまうチキンハートだが、あいにく今は子供の面倒を見ている気分なので特にドキドキはしない。
「おにぃ、出来た。」
「おし、じゃあこの椅子に座って良いって言うまで目を瞑っててな。髪洗うけどくすぐったかったりしたら遠慮なく言ってな。」
「ん。」
さて、まずは井戸の水を桶に汲んで、ルナの頭に上からかけてやり、髪を湿らす。
シャンプーを手に取り髪を洗う。
折角の綺麗な髪なので、傷つけないように丁寧に洗う。
なんか美容師さんになった気分だなこれ。
一通り洗い終わったので、水を2、3回髪にかけてあげて泡を落とす。
お次にリンスを手に取り、綺麗な銀髪に馴染ませるようにしてあげてまたお湯でサッと洗い流す。
うん、これだけでかなりサラサラになった。
洗いながらシャンプーとリンスのことを教えてあげたので、これからは毎日しっかり自分で洗ってもらおう。
軽く髪の水分を落としてやってこれで完了っと。
「ルナー、もう目を開けてもいいぞー。」
「ん、気持ち良かった。」
そう言うとルナは自分の髪を触って驚いている。
そりゃあまぁさっきと比べたら雲泥の差だもんな。
自分の髪なのに、新しいおもちゃを手に入れた子供のように目を輝かせていじっている姿は何とも微笑ましい。
「よーし、自分の髪に驚くのもいいけど濡れた格好でずっといると風邪引くからそれくらいにしときなね。ここに身体洗う用の液体とタオル置いとくから身体も洗ってなー。あ、あと新品の服も。それじゃあ外で待ってるから。」
そう言ってボディーソープと小さめのタオル、今日買った着替えを置いて外に出る。
外に出るとビックリしたといった顔で宿のお姉さんがこちらを見ていた。
目が合うと近づいてきたし、これが何か聞きたいんだろう。
「えっと、これ何ですか?」
「いや、井戸で水浴びしてたんですけど、ルナの裸をどっかの知らねえ野郎に見せるわけにいかないのでそれ用にと。」
「ええ、それは分かるのだけどそんなもの持ってたのね。荷物少なそうだったのだけど。」
「あぁ、内緒なんですけど、このウエストポーチって魔法の品でして色々と収納できるんですよ。」
「それってそんなに小さいものだったかしら…。」
等々、宿のお姉さんと会話をしていると、身体を洗い終えたのか新品の服に着替えたルナがシャワー室から出てくる。
そういえば渇いたバスタオル渡してなかったけどどうやって身体拭いたんだろうか。
「じゃあルナが洗い終わったんで、自分も身体洗ってきますね。」
「ええ、行ってらっしゃい。」
「じゃあルナ、サッと身体洗っちゃうからちょっと待っててな。」
「ん。」
そう言ってシャワー室に入る。
ふむ、さすがに薬草採取したり熊もどきと戦闘(と言えるのかは定かではない)したから汗かいてベタベタするな。
ササッと髪を洗い流して身体も洗う。
5分もせずに外に出ると何やらルナとお姉さんが二人で話している。
何を話していったんだろうか。
「ほいほい、洗い終わりましたよっと。」
「ん、おかえり。」
「あらあら、早いんですね。もう少しゆっくりしていてもよかったんですよ?」
む、なんか短い時間なのに二人が結構仲良くなっている。
ちょっと悔しい。
そして何を話していたのかも気になる。
「いえいえ、お待たせするのもどうかと思いましてね。」
「そうですか。それではお兄さんが戻ってきたみたいですし、私もそろそろお仕事に戻りますね。また話そうね、ルナちゃん。」
ニコッっと笑顔を残してお姉さんは宿に戻って行った。
ふむ、――
「なぁ、ルナ。お姉さんと何話してたんだ?」
「ん、内緒。」
「えー、ルナのケチんぼー。」
「ふふ。」
ぐぬぬ、なんか早くも妹様に尻に敷かれそうな気が…。
まぁルナが楽しいならいっか。
「よーし、俺らも部屋戻ろうぜ。」
「ん。」
心なしかルンルンしてるルナを連れて部屋に戻ることにした。
――――――――――――――――――――
さてさて部屋に戻ってきました。
ふむ、夕食までまだ結構時間がありそうだな。
「唐突だがルナ、つらいかもだけど捨てられた経緯とか聞いてもいいかな?」
ルナが捨てた実家に復讐をしたいかどうか。
これだけは確認しておかないとだから、そのためにはきちんと話を聞かないとな。
「……ん、平気。私、ラザレス家、公爵家に生まれた。けど、魔力無くて、お父さん、お母さん、いらないって。…もしかしたら魔力あるかもって、地下の牢屋にいた。けど、弟が優秀だから、もういらないって言われて…。」
「うん、分かった。それじゃあちょっと話変わるけど、これからやってみたいこととかはある?例えば……捨てた家族に復讐とか。」
「ん、復讐は、しなくていい。」
「どうして?恨みとかはないの?」
「ん、なくはない。…でも、おかげで、おにぃと会えた。だから別にいい。」
「ん、そっか。」
うん、なんで親は糞なのにこんなにいい娘が生まれたのかね。
ルナには親に対する復讐心は無いらしいし、しばらくは安心かな。
しんみりした空気になったので、この空気を吹き飛ばすために話題を変える。
「よし、じゃあ次!ルナが俺に聞きたいこととかないか?答えられる範囲ならなんでも答えるぞ!」
「…じゃあ、聞きたい。おにぃ、ほんとに人間?」
「おっと、まさかのいきなり人外認定。」
「だって、魔物、素手で殴り飛ばした。聞いたことない魔法使う。普通、じゃない。」
ぐぬぬ、言われてみれば確かに普通じゃないが、なんかこう、心が抉られるな。
「それはだなぁ、……ここだけの話なんだけどな、物凄い偉い人がちょっとしたミスをしてな。その時に俺が大きな迷惑をこうむったんだよ。そしたらお詫びですって言ってこの力をくれたんだ。」
「偉い人、って?」
「ふむ、残念ながらそこはオフレコなのだよルナちゃんよ。」
「オフ…レコ?」
「内緒ってこと。」
「むぅ。」
「まぁいつか話すから今は勘弁な。」
「ん。」
さてさて、じゃあ次は今一番聞きたいことを聞きますかね。
「じゃあルナ、次の質問だ。」
「ん!」
「――明日から何したい?」
「……決まってないの?」
「うむ、何を隠そう、これから何をするかという目標が全く決まっていない。昨日少しは考えたんだが、何をしようにも、取りあえず金稼がないとと思って思考を断念した。」
「昨日は、何を、考えてたの?」
「大きく6つでな。ギルドで最強を目指す。家を買って平凡に暮らす。商人か何かになって世界を旅する。どっかの国で仕事に就く。人里離れて暮らす。店もしくは国を作る。ってとこかな。」
「……お金無い、から、まず、旅してお金貯める、がいい。」
「うん、やっぱそうだよな。そんじゃ明日からは当面は依頼受けてお金を貯めよっか。それからのことは貯まってから考えるか。」
「ん。」
ふむ、そうと分かればルナが安心に依頼を受けれるよう万全の準備をしなくてはな。
魔物なんぞに傷一つつけさせんくらいの装備を作ってやらないと。
ぐふふ、俺の創造魔法が火を噴くぜ。
それからお互いのことを話すこと30分。
――っと、そろそろ夕食の時間か。
「ルナ、そろそろ夕食の時間だから話すのはまたにしてご飯食べに行こうか。」
「ん。」
二人で仲良く食堂に向かうことにした。
カズキ、シャワーなう
「ルナちゃん。」
ビクッ「ん。」
「カズキさんと依頼の途中で会ったんですってね。どんな感じで出会ったのかしら?」
「…私、魔物に追われてた。逃げてて、でも転んじゃって。」
「あら、それじゃあそこを助けられたってことかしらね。」
「ん。」
「あらあら。青春ね。でもいくらそれでも、出会った当日に一緒の宿に泊まるなんて、実はカズキさんは狼さんなのかしら?」
「ん、私、なんで森にいたか、覚えてない。」
「あら。」
「けど、カズキ、言ってくれた。一人だった私と、一緒にいてくれるって。」
「お人よしさんなんですね。」
「それで、一緒なら、家族みたいって、だから、私、妹。カズキはおにぃ。」
「あらあら、ルナさんはカズキさん、いえ、お兄さんが大好きなんですね。」
「ん///。」コクリ
「ふふ、カズキさんは良い人そうですし、安心して甘えて良いと思いますよ。」
「ん、そうする。」
「うふふ、素敵すぎてお姉さんなんだか嫉妬しちゃいそう。」
「ん!おにぃはあげない。」
「あらあら、取らないから安心してください。ルナちゃん。」
「ん。」
こんな会話があったり無かったり。