身支度を整えましょう
「よし、このままここにいたら魔物に襲われるだろうし、街に戻ろうか。」
「ん、分かった。」
ルナの手を引いて元来た道を戻っていく。
服はボロボロで、見た目あれだったので、ローブのようなものを適当に創造して着せてあげた。
しかし落ち着いてみて、改めてルナを見返すと凄く小柄だ。
日本だったら絶対小学生にしか見えないぞ。
こんな小さな子を捨てるとか、この世界イカれてるんじゃないか?
この世界ってか捨てた馬鹿貴族がか。
髪の色はきれいな腰ほどまでの長さの銀髪。
ぼさぼさだから宿に帰ったら洗ってあげないとな。
そして握っている手は折れてしまいそうにやせ細っている。
多分まともなもの食べさせてもらえてなかったんだろうし、街に行ったらたらふく食べさせてあげよう。
そんなことを考えながら、二人は街へと歩みを進めた。
――――――――――――――――――――
ルナの入場料で銀貨一枚を払い、二人は街の中にいた。
まずはルナの身分証を作らないとだな。
あ、そうだ。
「ルナ、今からギルドに行って身分証を作るんだけどその前にルナの設定を決めよう。」
「……設定?」
「おう、さすがにバカ正直に貴族の娘だけど捨てられましたなんて言ったら大騒ぎになりそうだし、生きていることが分かったらその貴族様とやらがどう出てくるか分からないからね。」
「ん、なる。」
「そこで考えたんだけど、ルナは最近までの記憶がない、つまり記憶喪失ってやつだな。そのせいで何故かは知らないけど、北の森の中で目が覚めたが、森を彷徨ううちに魔物に見つかり追われていたと。俺はたまたまそこで出会って、ルナを連れて無事魔物から逃げおおせたけど、記憶がなく持ち物とかもないから身元がはっきりしない。そこで当面は俺が面倒見ることにした。と、こんなところでどうだ?」
「魔物…倒したじゃだめなの?」
「それなんだがな、俺が北の森に来たのは薬草採取のためなんだよ。だから大した装備もしていなかったし、そんな状態で魔物を倒すなんて普通は無理だろうから、逃げたってことにするんだよ。幸い俺の得意属性は風だから、逃げ足には定評がありますとかなんとか言っとけば何とかなるだろうし。」
「ん、分かった。」
よし、これでまぁそんなに大きな問題はないだろう。
目立ってもいいけど、面倒事は御免だからな。
せめて後ろ盾かそれ相応のランクになってからならいいんだが。
最悪、街に未練なんぞないから、逃げて別の町なり国を目指せばいいんだけどね。
指名手配は御免だからやりたくはないが。
そんなこんなでギルドに到着っと。
「あ、受付のお姉さんこんにちは。」
「あら、昨日登録したカズキ様ではないですか。どうなさいました?」
「いや、今日依頼で北の森に薬草を取りに行ったんですけど、その時にこの娘が魔物に追われていたんで連れて逃げたんですが、そしたらこの娘、森に来るまでの記憶がすっぽり受け落ちているらしく、自分の名前くらいしか覚えてないらしいんですよ。なので、身元とかがはっきりするまで面倒を見ようと思いましてね。取り敢えず身分証がないことにはあれなので、この娘の登録をお願いしたいんですけど。」
「あら、そうなんですか。大変でしたね。それでは先日同様こちらの用紙にご記入ください。」
「はーい。」
用紙を受け取りルナに軽く説明をする。
説明を理解したのか、こくりと頷いてペンを走らせ始めた。
1分もしないうちに書き終わったみたいなので、ちらっと内容を盗み見てみる。
※名前:ルナ
※年齢:18
※性別:女
※種族:人間
出身地:
得意武器:
魔法属性:
うんまぁギルド的には問題ないだろう。
問題なのは――
「え、18歳!?え!?」
「…?」
いやいや、ルナさん。
そんな小学生みたいなロリ体型であなた18歳とかどんな詐欺ですか!?
あれですか!?
アニメとかで言う合法ロリを素で行っちゃう感じなんですか!?
……うん、まぁいいや。
本人が言ってるから本当のことなんだろうし。
そんな俺の内心を知らず、ルナはスッと受付のお姉さんに用紙を差し出す。
「ん。お願い、します。」
「はい。ありがとうございます。……え!?18!?」
うんやっぱり突っ込みますよね。
分かってましたとも。
しかしさすがプロ、すぐに外向きの顔を取り繕い業務を進行する。
「え、えー、では登録料が10000ファルになります。」
「はい、これで。」
銀貨10枚を差し出すと前回同様ナイフとカードを取り出す。
「それではルナ様、こちらのギルドカードに血を一滴垂らしていただくことで登録完了となりますのでお願いします。」
ん、と返事をして迷うことなく自分の指先を切りつけ血を垂らす。
迷いなく行くルナさんぱねぇっす。
カードが青く光るのを確認してお姉さんは再度話し始める。
「はい、これで登録完了となります。ご説明はお聞きになりますか?」
「ん。」コクリ
その後、俺がしてもらった内容と同じ内容を説明してもらった。
毎度毎度お疲れ様ですホント。
「それではお二人とも頑張ってくださいね。」
よし、これでルナの登録は終わったし、取り敢えず薬草を納品しようかな。
依頼受付のお姉さんのもとに向かう。
「すみません。依頼の完了報告したいんですが。」
「あ、はい。えっと薬草の採取でよろしかったですね。」
「はい。ここに出せばいいですか?」
「あ、裏手の倉庫で出してもらいたいのですが……というか薬草はどちらにお持ちで?」
「薬草ならこのポーチに入ってますよ。」
そう言って腰にぶら下げたウエストポーチを指す。
昨日今日と街の人を鑑定していて思ったが、アイテムボックスなんて持ってる人はいなかったので、持っていることがばれたら面倒だろう。
そう考え、適当にウエストポーチを作って、そこから出すふりをしながらアイテムボックスから取り出せば問題ないだろう。
魔法の鞄見たいのはきっとあるはずだし。
「えっ?そんな小さなポーチの中にですか?」
「あ、はい。なんか魔法の品みたいで、結構多くものが入るみたいなんですよ。しかも重さも感じなくなりますし。」
呆然とする受付のお姉さん。
あれ、もしかしてまずった?
「あの、もしかしてこんなものって世の中になかったりします?」
「……いえ、あるにはありますが、もっと大きいものが普通なので。」
なんだ、それだけならそこまで大きな問題にはならなそうだな。
「それではこちらに出していただいてよろしいですか?」
「あ、はい。」
ウエストポーチから出すふりをしながら、アイテムボックスから薬草をどんどん取り出す。
受付のお姉さんは、最初は驚いた顔をしていただけだが、薬草の数が100を超えた辺りから険しい顔になっていく。
ちなみに出すときに10個ずつに揃えているので数えるのも容易だろう。
「……えっと、薬草250本ですね。(まだ出発してか半日も経ってないのに…)ぼそぼそ」
うん、このチートスペックな身体は耳まで良くなってるんですね。
ぼそぼそ呟いたのもしっかり聞こえました。
そしてやっぱり取りすぎでしたねテヘペロ。
「そ、それでは報酬に加え、追加報酬の分も合わせて15000ファルになります。」
「ありがとうございまーす。」
お礼を言って、ルナを連れてギルドを出る。
さて、本日の業務も終わりましたしまずは――
グゥー
「…///。」
「まずはご飯でも食べに行こっか。」
「ん。」コクリ
適当に近くの料理店に入り席に着く。
周りの人が食べている物を見て、改めて異世界だなぁと実感する。
「ルナ、何か食べたいものある?」
「ん、お肉!」
「あい、分かった。あ!すみませーん。」
店員さんを呼ぶとすぐにウェイトレスさんが駆け寄ってくる。
おい、店内走っていいのか?
「はい、お待たせしました。」
「あの、お肉料理でオススメの物って何がありますか?」
「それでしたら、ドレイク煮込みとオーガビーフのタン焼きがオススメですね。」
「あ、ではそれ一つずつとサラダみたいのがあればそれも適当にオススメ一つお願いします。」
「はい、かしこまりました。」
それから待つこと十分。
料理が出てきたので早速いただくことにしよう。
「それじゃ、ルナ遠慮せず食べてな。足りなかったらまた頼むから。いただきます。」
「ん、分かった。いただきます。」
まずはドレイクの煮込みとやらを一口。
うん、肉がトロトロになるまで煮込まれてて美味い。
味付けも単純に塩ベースの味付けだけど、野菜も一緒に煮込んでいたのか、それらの風味が染み込んでいて凄い良い。
次にオーガビーフのタン焼きを一口。
おぉ、噛む度に溢れだす肉汁。
味付けはシンプルに塩だけだけど直火か何かで焼いたのか、この香ばしさがまたいい。タンって堅そうなイメージだけどスッと歯が通るしこれはめっちゃ米が欲しくなるな。
お酒にも合いそうだなぁ。
そう言えばこの世界って美味しいお酒あるのかなぁ。
まぁ酒は後で探すことにしよう。
ふとルナを見れば一心不乱に食べている。
余程お腹が空いていたのか、どこにそんな量が入るんだよって量が瞬く間に吸い込まれていく。
こりゃあ足りなそうだなぁ。
店員さんを呼んで適当に追加の料理をいくつか頼む。
俺も食いそびれないようにちょくちょく頂く。
あ、サラダも美味しい。
そんなこんなで、ルナの勢いは追加の料理が無くなる直前まで続いた。
――――――――――――――――――――
食べ終わったので買い物に向かうために街中を歩いている。
いやぁしかし食べたなぁ。
二人で15000ファルって。
客単価7500円って日本じゃ高級店並みだよ。
てかさっきの報酬丸々消えたよ。
まぁ今日の稼ぎを見て、こちらの世界なら簡単にお金を稼げそうだしそんなに気にはならないけど。
お腹も満たされたことだし、早速買い物に行くことにしよう。
「よし、それじゃあお腹いっぱいになったし、まずルナの服でも買いに行こうか。」
「…いいの?」
「家族なんだから遠慮するなって言っただろ。ほらほら、色々見たいだろうし早く行こうぜ。」
ルナの背中を押し、駆け足で人混みを抜けて服屋を目指す。
はしゃいでも周りからは仲の良い兄妹にしか見えないだろうし大丈夫だろう。
日本だとあんまり調子に乗ると警察のお世話になってしまうが。
そんなこんなで服屋。
ここで気が利く兄貴なら「これとかいいんじゃないか?」なんてことが出来るが、あいにく俺は一般ぴーぷるなんでそんな度胸はありません。
「取り敢えず着替え分も含めて3、4着、下着も一緒に選んでおいで。」
「ん、おにぃも選んで。」
「あ、いや、すまんが俺センスとかないからパス。」
「――むぅ。」
そんなむくれなさんな。
その膨らんだほっぺ引っ張りたくなっちゃうだろ。
腑に落ちないといった表情をしつつも店内に入って行き、しっかり服を選んでいる辺りやっぱり女の子はこういう買い物は楽しいんだろう。
それから服選びが終わるまで30分かかったが、女の子にしては早い方なんじゃないかと思う。
俺は着れればいいから服買うのなんて10分もかからないが。
さてさて、買ってきたのは青いワンピースと白いワンピースを一つずつとシャツとショートパンツを一つずつ。
下着は見てないからわからないが、靴下もいくつか買ったらしい。
うむ、これで妹様のお腹も満たされたし、服も手に入ったし、日も暮れて来たから今日のところは宿に帰るとしようか。
歩き出すとルナが手を握ってきたので、握り返してあげて手を繋いで二人で宿へと向かった。
……決して変な意味の宿ではないからな!