王子とお話
「私の名前はギル。ギル=デリカ=ジャスカ。君をここに誘った張本人であり、この国の第一王子だよ。」
……よし、整理しよう。
まずギルドで新しいレシピが欲しいって依頼を受けた。
んで、揚げ物教えたらなんかバカ売れしたと。
そんで、王子様が目を付けたらしく、パーティで料理を出すことになったと。
そしたら、なんか目の前にその王子様が来ました。
ふむ、流れは分かるがこんなの俺の人生じゃない。
そもそも王城にいるだけでソワソワするのに、これどうしよ。
「あのー、王子様?が、何か私にご用で?」
「いや、僕が頼んだ料理はどんな感じかなと思ってね。まぁ一番の目的は、最近噂になってたこれを食べたかったんだよね。しかし、カズキ。これ美味しいね。」
「あ、はい。お口に合ってよかったです。」
「このフライもそうだけど、三つのソースがまたいいね。君の故郷の料理なんだっけ?」
「あ、はい。」
「けど、今までこんな料理なんて聞いたことないけど、一体君の故郷はどこだっていうんだい?」
「え、あ、その、一応秘匿するよう言われているのでちょっと。」
「あ、そう。それは残念。あとさ――」
なんだろう。
さっきまでどんなお偉いさんかと思ったけど、話してみるとすげえ普通。
てか話し方が心なしか所帯じみてる。
しかもガツガツ質問ばっかしてくるけど、親戚のおばさんか、お前は。
なんて口が裂けても言えないな。
「それで、本当はどんな御用ですか?」
「あらら、つれないね。ちょっと色々と聞きたいことがあるから、明日もう一回城に来てくれないかな?妹さんと一緒に。この場ではちょっとね。その時に今回のお礼も渡すからさ。」
ふむ、ただ料理してただけなのに王子様が何を聞きたいって言うんだろうか。
接点もないし、心当たりがない。
まぁ観光もそろそろネタ切れになってきてたし、暇だから別に構わないけどな。
それに、まだ分からんけどこの王子様、なんか別に悪いやつじゃなさそうだし、固っ苦しさもないから友達感覚で接っせれそう。
ふむ。
「ルナは構わないか?」
「ん。おっけ。」
「というわけなんで、特に構わないですよ。」
「そっか。じゃあ明日のいつでもいいから来てね。今日と同じく、正面入り口の兵士に言っとくから、声かけてくれればいいから。」
「はい、分かりました。」
そういうと「じゃあね。」と軽く声をかけて去っていく王子様。
ほんとになんだったのやら。
まぁ明日話を聞けば分かるだろうと考えて、気持ちを切り替える。
取り敢えず無事完売したし、片づけをしよう。
まだパーティは続いていたが、ルナと一緒に片づけをして、休憩していたガント夫妻のもとに向かい、合流する。
無事全部売れたことを告げると凄く喜んでくれた。
王子様も直々に食べに来てくれたことなどを教えたら、物凄く驚かれた。
他にも色々勧誘があった話もしたら、これから来るであろう勧誘の嵐に憂鬱になるガントさん。
健闘を祈る。
そんな感じで、まぁちょっとゴタゴタがあったけど、無事王城での調理は成功したので良かった。
その日は、肉体的にも精神的にもまいって、宿に帰って体を拭く暇もなくベッドに突っ伏した。
ルナもさすがに今日はアニメを見る元気がなかったらしい。
体を拭くと、すぐに爆睡したそうな。
――――――――――――――――――――
次の日の昼過ぎ、昨日同様王城の前にまで来ていた。
今日はルナと二人だったので、途中少し道に迷ってしまった。
しかし、何度来ても王城のこの大きさは慣れる気がしないな。
入り口の兵士に話しかけると、違う兵士を呼んで、「ここを任せた。」と告げて、王城内へと誘導してくれた。
昨日はキッチンとパーティ会場くらいしか見ていなかったが、今日はおそらく応接室とかがあるようなとこに行くのだろう。
全然雰囲気が違って、昨日来たばかりなはずなのに異世界に迷い込んだように感じた。
あ、そもそもここ異世界か。
そんな一人コントを脳内で繰り広げていると、一つの部屋に連れてこられた。
「今からお呼びするので、こちらにお座りになってお待ちください。」
「あ、はい。」
王子様のお客様という扱いだからだろう。
昨日より兵士の態度が丁寧だった。
さて、じゃあお言葉通り座って待つとするか。
ルナは迷わず今いるところから近い所に座る。
俺はその隣にでも座ろうと思ったが、ここでふと思った。
こういう時って確か入り口から一番近いのが下座だよな。
じゃあ座るのはここで問題ないか。
そんなくだらないことを考えて待つこと5分。
コンコンッ
「はい。」
「失礼するよ。」
入ってきたのは、昨日のイケメン王子様。
確かギルとか言ったっけ?
昨日と変わらずイケメンで、見ていると相変わらずキレそうになる
「やぁ、昨日ぶりだね。」
「はい、そうですね。」
「ん、こんにちは。」
「ん、カズキ、そんな固っ苦しい喋り方しなくていいよ。君、そういうの嫌いでしょ?」
「……その根拠は?」
「見ただけで無理してるってか、めんどくさそうなのが顔に出てるよ。」
「まじっすか?」
「うん、まじ。」
頑張って隠してたと思ってたんだけどな。
まぁ頑張ってるって時点で王子様にはバレバレだったんだろうな。
「……はぁ。じゃあ普通にさせてもらうよ。」
「うん、構わないよ。」
俺としては楽だからいいんだけど、いくらなんでもフレンドリーすぎるだろ。
こんなんが国のトップってどうなんだ?
「ちなみに呼び方はなんと呼べば?」
「うん、普通に呼び捨てでギルでいいよ。あ、ルナちゃんも気軽にギルって呼んでね。」
「ん、分かった。ギル。よろ。」
「うん、よろしくね。」
まぁこれで豊かで友好的な国が築けてるんだからいいのか。
俺としても楽だから不満ないしな。
そんなことはどうでもいいとして。
「それで、ギル。今日わざわざ呼び出したのは一体全体どういう要件だ?」
「うん、それなんだけどね……デビルクラーケン。」
ビクッ
な、なぜその名前が?
「うん、その反応ってことは間違いないみたいだね。」
「……いったい何のことかな?」
「ふふ、とぼけても駄目だよ。さっきのやりとりでも思ったけど、君はほんとに嘘が下手だね。」
「……そんな分かりやすいのかなぁ。」
まぁそもそも絶対にばれちゃいけない嘘なわけじゃないから本気で隠そうともしてないしな。
「んで、どうして分かったの?」
「うん、実はたまたま会った知り合いに聞いてね。」
「知り合い?」
「うん、入ってきていいよ。」
いるのかよ。
ったく、誰かに見られてるとは思わなかったな。
この様子だと他の人には伝えてはいなそうとは思うが、ちょっと告げ口したやつには文句を言ってやらないと気が済まなそうだ。
そう思って入口の方を見る。
「アクア?それにフォンも。」
入ってきたのは同じ宿に泊まっている同胞であった。
これはまさかだが、それならクラーケンの件はばれるわな。
しかし、この野郎共。
なにばらしてんだよ。
「すみません。カズキさん。つい懐かしい顔を見てしまったので声をかけてしまってですね。その後、話に花を咲かせていたら、ポロっと零してしまいました。テヘッ。」
「よし、アクア。お前うめぼしの刑な。」
「え、うめぼし?って、きゃああぁぁぁぁぁ痛い!痛いですカズキさん!」
グリグリとこめかみを攻撃してやった。
痛い痛い叫んでるが、無視して30秒くらい続けてやった。
「うぅ、カズキさん、鬼畜です。」
「ん、追加か、アクア?」
「何でもないです!」
「全く。」
「あはは、出会ってそんな経ってないはずなのに、随分仲良いみたいだね。」
笑いながらこちらを見るギル。
言われてみればまだ会って一ヶ月も経ってないしな。
まぁそれ言ったらルナも二か月程度だし、そんなもんだろ。
「あ、フォンは監督不届きで貸一な。」
「なんですと!?」
ぬおぉぉぉぉぉとか唸ってるけど、どうでもいいので無視。
体罰じゃない分マシだと思え。
「それで、ギルはどこまで聞いたんだ?」
「うん、出会って早々にルナちゃんが魔法をぶっ放して蹂躙したことかな。」
「ふむ、聞いた話はそれだけか?」
「うんそれだけだよ。何?何か他にもあるの?」
「いんや、別に。」
この様子だと車のこととか魔法のカバン(実際は違うけど)のことは話してないみたいだな。
ルナの魔法は別に秘匿するようなことでもないし、構わんな。
「んで、その話を聞いてギルはどうするんだ?」
「ん?別にどうもしないよ?ただ、都市の平和を守ってくれたシャイな人にお礼をしようかなって思っただけだよ。あとは昨日のお礼もしないとだしね。」
そう言うと、ヴァルトが何やら大きな袋を持って入ってきた。
チャリンチャリン音するし、多分お金だろう。
もう片手には、書状みたいな何かを持っていた。
それを持って王子の傍らに立つ。
「それじゃあ、一緒になっちゃって悪いけど、昨日のお礼300000ファルと、クラーケンの分のお礼5000000ファル、合わせて5300000ファルね。あと、これはクラーケン討伐の分として受け取って欲しいんだけど、ジャスカの国証ね。国の認めた人材って証明になるから、もし何かあったらこれを出せばいいと思うよ。」
そう言って5300000ファル、金貨53枚とジャスカの国証らしい一枚の書状を渡してきた。
ふむ、なにやら一気にお金持ちになったし、国に認められる要人みたいになってしまった。
「ちなみにこれって顔バレしたりします?出来れば厄介事は勘弁願いたいんで、隠しといてもらえると助かるんですが。」
「うん、そうだと思ってこの会談は極秘になってるから安心していいよ。」
それなら良かった。
貴族とかにばれたら超だるいの必須だしな。
「あ、あともしよければなんだけど、クラーケンの素材って持ってたりする?もしよければ買い取りたいんだけど。」
「あ、うん。持ってるよ。ってかその発言からして、このカバンのことも聞いてたのか?」
「うん。まぁ他の人に言う気はないから安心して。」
ふむ、これはアクアの罰は追加かな?
「そんじゃああとで広い場所で出すさ。足の一本だけは貰ってもいいか?」
「もちろん。狩ったのは君らなんだから、その権利は君らにあるさ。」
「おっけ、じゃあ早速広い場所に行こうか。」
「うん、じゃあ案内するよ。」
その後、ギルに連れられて大きい広場に向かった。
他の人を追い出してもらって、早速クラーケンを出すことに。
全長30mはあろうクラーケンが、腰の小さなポーチから出てくる光景は異常以外の何物でもないだろう。
足一本を残して全て出すことに。
うん、改めて見るとでけぇな。
「これは、なんというか、壮観だね。」
「うん、正直このサイズがここから出てくる姿はシュールだったわ。」
「それもそうだけど、ほんとにこれが一瞬でボコされたと思うと……。ルナちゃんはほんとに魔法が凄いんだね。」
「えぇ、自慢の妹です。」
「仲が良いんだね。それじゃあ、査定しておくから明日にでもヴァルトに運ばせるね。」
「ありがとうございます。あ、ついでなんだけど他の魔物も査定してもらっていい?あんまり目立ちたくないから、ギルドで換金したくないんだよね。」
「ん、別にいいよ。名前は伏せて査定するからさ。」
「お、さんきゅ。それじゃ早速。」
そう言って、これから食べることになるであろう分以外、全ての魔物をその場に出す。
出して出して出して……、うん、一山出来ました。
あまりの量に、先程より驚愕したギル。
てか、アクアとフォンもこんな量になっているとは思っていなかったんだろう。
ちょっと引いていた。
そしてヴァルトは、顎が外れそうなくらいに口を開いていた。
まぁなんとなく期待通りのリアクションだったので問題はない。
ちなみにルナは表情一つ変えず、欠伸をするぐらい平然としていた。
「黙っててくれるんだよな?」
「う、うん。もちろん。」
若干脅しも入れてギルに確認を取る。
まぁ別に定住する気無いから何言われても気にしないけど。
取り敢えず、これでボックス内の整理が出来たし、良かった良かった。
「それじゃあ、もうお互い用は済んだだろうしこれで失礼するよ。」
「うん、じゃあちょっとこの量は明日までには厳しいからさ、明後日まで待ってもらっていい?」
「おう。分かった、待ってるわ。部屋の場所は分かる?」
「うむ、そちらに関しては調べがついているから大丈夫。」
「ん、じゃあよろしく。」
そう告げて、ルナ、アクア、フォンを連れて王城を後にする。
ふむ、お金もいっぱい手に入ったし、ボックスも整理できたし、コネ?らしきものも手に入れたし、今日はいい日だったな。
一人は意気揚々に、一人はいつも通りのテンションで、二人は若干疲れたような顔をして宿への道を進んだ。




