レッツパーリー
今日は、昨日兵隊さんから指示された通り、王城で料理を振る舞うことになった。
店でガントさんたちと合流し、一緒に王城に向かうことに。
ちなみにガントさんも王城に行くのは初めてらしく、緊張していた。
王城は店から歩いて約30分くらいの位置にある、のだが――
「……でけぇ。」
「俺も改めて見たが、これは壮観だな。」
今までは遠目にしか見たことがなかったから分からなかったが、近づいて改めて見ると相当な大きさ。
これ、何人くらい働いてるんだろう。
人件費相当物凄いことになってそう。
呆気にとられながらも、正面入り口の兵隊のもとに向かっていく。
「すいません。今日料理を作るように王子様に呼ばれたものですが。」
「む、確認を取るので、ちょっと待ってもらおう。」
他の兵隊を呼んで確認に向かわせる。
それから5分程して、昨日の兵隊さんがやってきた。
「うむ、待たせたな。昨日ぶりだな。それではこちらだ。」
「あ、はい。」
連れられて場内に入って行く。
そういえば昨日も話してたけど、この人の名前聞いてなかったな。
「あの、そういえば名前を聞き忘れてたのですが、聞いてもよろしいですか?」
「ふむ、言われてみればそうだな。私は第一王子就きの近衛兵、ヴァルトと申す。以後よろしく頼む。」
「ヴァルトさんですね。ご存知かと思いますが、自分はカズキといいます。こちらは妹のルナです。」
「ん、ルナです。」
「じ、自分はガントといいます。」
「私はガントの妻、ラフィと申します。」
「うむ、カズキにルナにガントにラフィだな。今日は頼んだぞ。」
そういえばガントの奥さんの名前初めて知ったな。
ラフィさんか。
よく今まで知る機会がなかったな。
兵隊さんの名前はヴァルトというらしい。
なんかこの世界の名前ってゲームの中の人みたいでいちいちカッコよくて羨ましい。
その後、ヴァルトに誘導されて、城内のキッチンに誘導された。
さすがというかなんというか、ここのキッチン相当デカい。
口の字の形に通路が広がっており、周りには竈のようなものがいくつも並んでいて、その数が意味分からない。
ひぃ、ふぅ、みぃ、……うんキモい。
そこに今夜の準備をしているのか、火をつけて料理をしている人がもうすでに何人もいる。
口の字の内側はテーブルになっており、そこでは野菜を切ったり、肉に下味をつけたりと、各々が別の仕事をしていた。
その一角に案内される。
その途中、周りのコックのような人々に、珍しいものを見る目で見られてちょっと居心地が悪い。
「それでは調理は基本的にここで行ってほしい。材料は一通りがあの角にある貯蔵室に保存してあるから好きなように使ってくれ。もし足りなければ買いに行かせるから、その時は兵を呼んで頼んでくれ。他には何かあるか?」
「あのう、今日作る料理は出来立てが一番美味しいので、出来れば会場で調理したいのですが出来ます?」
「うむ、まぁ出来ないことはないが。」
「場所だけあれば道具も全部自分で準備しますんで。」
「分かった。会場の一角を空けておこう。もう大丈夫か?」
「はい。」
「うむ、それじゃあよろしく頼むな。」
そう言って去っていくヴァルト。
それじゃあ早速下準備でもしますか。
「じゃあ取り敢えずソースとマヨネーズとタルタルソースを作ろう。カツとかは最後でいいだろう。」
「じゃあ俺とカズキが力仕事のマヨネーズ作りだな。ルナとラフィはソースを作って、マヨネーズが出来次第、タルタルソースを作り始めてくれ。」
「はい。」
「ん。りょ-かい。」
「そんじゃあ準備頑張ろう。」
「「「おー!」」」
その後は、手が攣りそうになるのを必死にこらえてマヨネーズを作り続けたり、トンカツと白身フライ、エビフライ、あとはホタテっぽい貝のフライの四種類作ることにしたのでその下拵え、パンからわざわざパン粉を作る手間など、色々な手間がかかった。
始めること5時間、さりげなく回復魔法を使ったりなどして、ようやく揚げるだけの状態にまで至った。
「こ、この後は、これを揚げ続けるだけなんだよな。」
「あ、あぁ。もうつらい思いをしなくていいんだよ。」
「ん、もう、無理。」
「ええ、疲れましたね。もう動けそうにありません。」
聞くに、そろそろパーティの時間になるそうなので、会場に行って準備をすることにした。
ガントさん夫婦はもう力尽きていたので、パーティ中はルナと二人で調理することに。
二人を休憩できる場所において、会場に向かうことに。
行く直前、ヴァルトに執事服とメイド服を渡されて着替えさせられた。
さすがにそこらへんで売っていた服では不味かったようだ。
着替え終わった後、まだ準備をしている使用人しかいないパーティ会場の、宛がわれた一角に向かう。
会場は一つのサッカーのコートくらいの広さがあり、今自分がいるのはステージから見てほぼ反対側に位置しているので、まぁそこまで目立つこともないだろう。
そこで、出来るだけ人目につかないように、
・ガスコンロ(大)ver魔力
・フライヤー代わりの大鍋
・コンロの熱がお客様の方に行かないようにするチート耐熱版
・出来た揚げ物の油を切るようのパット
など、その他小物を創造して、いつでも調理できるよう準備する。
それからしばらくすると、会場にお偉いさんのような人が多数入ってきた。
ゾロゾロ入ってくるその波は中々止まらなず、気づけば会場が貴族やらお偉いさんでいっぱいになった。
入り口の扉が閉まり、パーティ会場が一気に静まった。
なんだなんだ?と思っていたら、ステージの上に一人の男が上がってきた。
胸元まで伸びる縛った髭に、物凄い風格を感じる。
そして凄くダンディだ。
俺も歳とったらあれくらいになりたいものだ。
「皆の衆、私はグラート=デリカ=ジャスカ。本日は我が息子であり、第一王子であるギル=デリカ=ジャスカの誕生日パーティに集まっていただき、誠に感謝する。ギルは――」
ふむ、まぁ王城でのパーティだし、そりゃ王様出てくるわな。
それにしてもいきなり呼び出されたときはなんのこっちゃと思ったけど、王子様誕生日だったのね。
王様の挨拶が終わって、続いて第一王子が出てくる。
おぉ、イケメンだ。
背も高いし、引き締まってそうな身体、切れ長の目に声もカッコいい。
なんというかキレそう。
これだから世の中は理不尽だ。
等と考えていると、隣にいたルナが肩をポンッと叩いてきた。
ますます惨めになった。
「皆の衆、先程父から紹介にあった――」
王子様も長々と話し始めたが、正直固っ苦しい挨拶だから興味ない。
右から左に聞き流して、第一王子の挨拶が終わる。
「それでは皆、今日は楽しんでいってくれ。」
その言葉が終わると、皆一斉に動き始める。
俺が知っているパーティは、始まると同時に料理の奪い合いみたいな低俗なものしか知らない。
しかし、目の前では料理を奪い合う姿ではなく、お偉いさん同士の挨拶の応酬であった。
ふむ、これはよくあるあれか。
パーティはお偉いさんとのコネを作るためのものって考えなのかね。
始まって30分経って、いまだに誰一人食べに来ないので、物凄く暇だ。
これ余ったら金とか取られるのかなぁ。
それは嫌だな。
けど販促するわけにもいかないし、そもそもこんなお偉いさんばかりの空気で突っ込んでいく自信はない。
挨拶が落ち着いてきたのだろうか、ちらほら暇を持て余した人が増えてきて、そういう人たちは少しずつ料理に手を伸ばし始めている。
すると、一人の男性がこちらに寄ってきた。
「お、こちらは何をやっているんだい?」
「あ、はい。こちらでは揚げ物と言って、肉や魚、白身を調理してサクサクになったものに特別なソースを付けて食べるものです。」
「ふーん。良く分かんないけど、じゃあ一通り貰っていいかな?」
「あ、はい、かしこまりました。少々お待ちください。」
早速温まっている油に、仕込み済みの肉、白身、エビ、貝を投入。
約5分程揚げて完成。
パットで油を切って、ちぎった野菜の乗ったお皿に並べていく。
そこに、ルナが準備したソース、マヨネーズ、タルタルソースの小鉢に添えて完成。
「お待たせしました。お好みでこちらの三種類のソースに付けてお召し上がりください。あと、お熱いので十分に気を付けてください。」
「うん、ありがとう。」
そう言ってお皿を持って去っていく男性。
男性が去って行って数分。
「あ、すみません。あのフライとかいうのはこちらでいいんでしょうか?」
「はい、そうですよ。」
「あ、じゃあ友達の分とで二つください。」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください。」
同様に調理をして受け渡す。
うん、揚げ物は同時に作れるから大量に作るのが簡単でいいね。
「お待たせしました。お好みでこちらの三種類のソースに付けてお召し上がりください。あと、お熱いので十分に気を付けてください。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
ふむ、こんなペースで全部消費できるのかな。
と、そんなことを考えて数分後。
なんか行列が出来ていた。
「はい、お待たせしました。お熱いので気を付けてくださいね。」
「ん、おにぃ。揚がったよ。」
「おっけ。はい、お待たせしました。――」
最初に食べた男性が、何やらそこそこな爵位を持った家の息子だったらしく、ましてや美味しそうな匂いが食欲をそそったのだろう。
その後に来た女性は、大勢で話している中で食べていたため、そこにいた人がつられてきたのだろう。
気付いたらこんなに行列になっていた。
てか、王子様の誕生日パーティ会場なのにいいのかこれ。
俺は作ってるだけだから関係ないと願いたい。
あと、食べた貴族共の勧誘がウザったくて仕方がない。
「君、お金は出すからうちの専属のシェフにならないか?」
「是非我が家で働かないか?」
「このレシピを教えて頂きたい!」
等々。
レシピは教えすぎると、このレシピは俺が思いついたものだとか言い張る馬鹿とかが出てきそうだしな。
現代だったら特許なり著作権なりいろいろな制限があったからよかったけどな。
そして専属のシェフ?
めんどくさくてやってられない。
貴族とか固っ苦しくて無理だし、出来ることならそんなめんどくさい世界に関わりたくない。
貴族共をやんわりと流しながら、列を捌くこと早2時間。
列もほとんどなくなり、そろそろ材料も無くなりそうになってきた。
「はい、お待たせしました。」
「うむ、ありがとう。」
そんな感じでどんどん捌く。
「うむ、これがフライか。サクサクホクホクで美味いな。」
しっかしずっと火の前にいるから随分と汗をかいてしまった。
隣のルナも凄く暑そうに顔を火照らせていた。
「おぉ、このたるたるとか言うのが良く合う!」
早いとこ終わらせてシャワーでも浴びたいものだ。
いや、いっそ風呂に入りたい。
「む、このカツというのは、ソースが一番合う。」
露天風呂とかいいな。
この世界、基本的に風呂って概念無いから、天然の露天風呂探すしかないかな。
「この貝にまよとやらの組み合わせは酒が欲しくなる。」
よし、あと材料は10人前。
しっかし案外売れるもんだな。
「ふむ、ちょっといいかな。」
もう今並んでる分で終わりかな。
ルナに頼んで、もう終わりですと告げてくる。
申し訳ないが、材料がないからな。
「おーい、もし。聞こえているかな。」
残りが揚げ終わり、盛り付けたものを出す。
これで終わりっと。
ふぅ、終わった終わった。
やっと解放される。
「これは、集中しすぎて聞こえていないのかな。もし、カズキといったか。聞こえていたら返事をして欲しいのだが。」
「ふぇ?どちら様?」
途中から客の顔を見る暇もなく、ずっと下を向いて作業をしていたので全く気付いていなかった。
そう思って、顔をあげて声の主を見る。
「おぉ、やっと気づいてくれた。」
目の前にはイケメンがいた。
憎いほどのイケメンがいた。
はて、この顔、どこかで見たような。
あれ?と首をかしげていると、隣にいたルナが袖をクイクイッと引っ張って、その後ステージを指差した。
ん?
「はは、妹さんはもう気づいてるみたいだね。」
イケメンも笑ってそう言う。
なんのこっちゃ?
「覚えてないようだし、改めて自己紹介しようかな。私の名前はギル。ギル=デリカ=ジャスカ。君をここに誘った張本人であり、この国の第一王子だよ。」




