面倒事ダメ絶対
一旦車を止めて車を降りる。
もうどうせ逃げるのは無理だろうし、昨日考えていたランクの高い魔物(目の前にいるタコもどきがどうかは知らない)が美味いのかどうかを確かめるのに丁度良いだろう。
「あの、私の間違えじゃなければあの魔物、こちらに向かってきてますよね?」
「うん、来てるね。」
「いや、あの、なんでそんなに冷静なのだカズキ殿。あれほどの魔物、早く逃げないとまずいのでは?」
「そ、そうですよ!早く陸の方に逃げましょう!」
フォンさんや。
人のこと冷静とか言うが、あなたも大概な気もするぞ。
「うん、まぁ多分ルナ一人でどうにでもなると思うし、大丈夫だよ。」
「さすがにルナ殿でも――ズガァァァァン――……はい。」
さすがルナさん。
人とは違う道を行く天才ですね。
危なげもなく一撃で倒すのは分かってました。
前に教えた雷を纏った氷槍にはまったのか、結構な頻度で使っている気がする。
だから雷と氷の魔法のレベルが同じくらい上がってるのか。
あとこの魔法「雷纏氷槍」って名前にしたらしい。
そのまんまだね。
なんにせよ、自分の発想で出来た魔法をいっぱい使ってくれるのは、なんだか嬉しいものですな。
でもね、ルナさん。
なんか見ててフォンが可哀想だからさ、せめて倒す前に一言かけてあげようか。
もうフォンの顔もアクアの顔もポカーンって声が聞こえてきそうな感じになっちゃってるよ。
それを見ても「何か問題でも?」と、疑問符が着きそうな感じに首をコテッっとさせる。
歪みねぇな。
しかし最近の俺は戦闘に関して一向に出番がない。
運転と料理(とたまに詐術)しかしてない。
まぁ特に問題はないけど。
「それじゃあちょっとめんどくさいけど、陸に上げて足の根元で切り取ってもらっていい?さすがに丸々仕舞うと、取り出すときに厄介だからさ。」
「ん。」
「はい、分かりました。」
「うむ、任された。」
一人一人が別々の足を切り取りに向かった。
この魔物、フォンに聞いたら“デビルクラーケン”という名前らしいことが分かった。
Sランクの化け物らしい。
最初タコっぽい見た目だと思ったんだけど、足が10本あったから多分イカなんだろうな。
でも見た目はやっぱりタコなんだよなぁ。
そんなこんなで剥ぎ取りが終わったので、ボックスに仕舞っていく。
ちなみに、アクアとフォンにはギルドの人に説明したみたいに、腰のアイテムポーチのせいと説明しておいた。
最後に本体を仕舞って終了。
「それじゃあタコ野郎も始末したし、旅を再開しようか。」
「ん。」
「なんか、随分あっけなかったですね……。Sランクの魔物なのに……。」
「まあまあ、フォン。いいじゃないですか。無事なんですし。」
「……そうですね。」
と、まだフォンは腑に落ちていないようだが、そんなことは旅には関係ないし、そもそもフォンの意志などどうでもいいので旅を再開。
その後は、クラーケンのようなわけ分からんボスキャラみたいのには襲われることなく、無事に海岸線沿いのドライブを楽しんだ。
ちなみに、その日の夜。
早速クラーケンを調理してみたが、どう考えても味がタコだったので、自分の中でクラーケン=タコとすることで無理やり納得した。
刺身は美味しかったけど、少し大味な感じもしたので、こいつは唐揚げとか酢漬けとかにした方がいい気がした。
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タコ野郎ことクラーケンを狩った日から2日。
夕方頃に、海洋国家ジャスカに到着した。
いつも通り、近づいてきた辺りで車を収納し、徒歩で向かった。
都市への入り口で、そういえばこの二人どうしようか?と思ったけど、内密な旅行とかをする時用のギルドカードがあるらしいので、特に問題なく都市へと入ることが出来た。
都市に入って、まずは荷物を置きたいので宿を取ることにした。
アクアが以前に来たことがあるらしく、どこに何があるかが大まかに分かるとのことだったので、宿場街のような所へと向かうことにした。
向かっている途中、街の至る所で絶えずガヤガヤしていた。
今までの町と違って大きい都市だから、やっぱ活気があるんだなと思いながらも宿へと向かう。
ここら辺がそうですとアクアが言い張るところに到着すると、確かにいくつもの宿が見かけられた。
折角の大きな都市だし、今回は少しは長く居座ろうかと思っているので、治安の良いちゃんとした宿にしようと思い、そこそこ高めの宿を探すことにした。
探していると、そこそこ高めで清潔そうな見た目の宿を見かけたので、ここでいいかと思って入ることにした。
中に入ると、そこそこ高級なホテルみたいな見た目なので、ここなら治安も悪くないだろう。
「いらっしゃいませ。お泊りでしょうか?」
「はい、4人で取り敢えず7日間お願いします。」
「はい。お食事はいかがいたしますか?」
「あ、毎日朝食だけお願いしていいですか?」
「はい。お部屋は…2つでよろしいですね?」
「それでお願いします。」
「はい、かしこまりました。こちらが部屋のカギになります。それではごゆっくり。」
鍵を受け取って部屋へと向かう。
男女で分かれて部屋に荷物を置く。
その後、4人で合流して夕食を食べに行くことに。
勿論、この時もアクアが自信満々にこちらに美味しい店があるんですよ!というので、その自慢の店に向かうことにした。
到着すると、王族、貴族御用達の店へと連れてこられた。
当然入るわけがないだろう。
ペシッとアクアの頭を小突き文句を言うことにする。
「あほぅ。こんなとこ来たら、お前が王族ですよって言ってるようなもんだろ。」
「イタッ。何するんですか。」
涙目で聞いてくるアクア。
ちょっとその姿が可愛かったので、許してはやろう。
「半指名手配状態なのに、ましてやお前ら二人は認識阻害がかかっていて、怪しさ満点。そんな状態でこんな店入れるか。」
「うぅ、そうでした。美味しかったのでいいと思ったんですが。」
「美味しくても後々の面倒考えたら絶対に無理。というわけで、フォンは何か知らない?」
「うむ、私は来たことがないから何とも。」
「ぐぬぬ、仕方ない。適当に探して入るか。」
その後、道行く人にレストランとかが多くありそうなところを聞き、なんとか店を見つけた。
海洋国家ということもあり、海鮮系の店が多いのか、適当に選んだこの店も海鮮系をメインとした店だった。
メニューを見ると、色々と種類があったが、いかんせん魚の名前が分からない。
なので、フォンとアクアにオススメの料理を選んでもらうことに。
注文して15分後くらいに、料理が運ばれてきた。
煮込み、焼き魚、焼き貝、あとは練り物らしきものを入れたスープのようなものが2つずつとあとはパン。
煮込みは20cm位のタイみたいな魚が、醤油ベースで煮込まれていて凄く美味しい。
焼き魚はシンプルに塩焼きだったが、炭焼きのような香ばしさがする。
焼き貝は醤油じゃなくて、塩水を入れて焼いたのだろう、磯の香りが凄くする。
練り物のスープは、塩と磯の風味がしていて余計なものがないザ・海鮮スープって感じ。
うん、どれも良い味出してるんだけど素材の味って感じのが多いのと、パンじゃなくてご飯が欲しくなるのが正直なところ。
まぁ異世界食卓事情に文句言っても無駄だよね。
ちなみに最近俺は夕食を食べながらお酒を飲むようになった。
そのせいか、あんまり多くは食べないため、今回の料理もほぼ三人で食べる形になっている。
正直な話、よくそんなに食えるよなって感じ。
とまぁそんなこんなで、今日も満足いく夕食になりましたとさ。
そして、その後はいつも通りアニメを見ていたら三人揃って寝ていて、もはや部屋は一つでいいのでは?と、朝にアクアが言い出したが、フォンが顔を赤くして断固として別の部屋を主張したそうな。
――――――――――――――――――――
ジャスカに到着して次の日、俺とルナ、アクアとフォンに分かれて行動することに。
何かあると大変かなと思ったが、この間渡したイヤリングはイヤリングを持っている人に加えて俺にも念話が出来るらしいので、心置きなく別行動が出来た。
というわけで、俺とルナはまずギルドに来ていた。
ここに来るまでの魔物の死体がかなりボックスに眠っていたので、少しずつ売ることに。
ただ、一気に売るとギルドの人に驚かれるし、ポーチを使っても驚かれるので、どっか人目につかない所で出して、台車にでも載せて運ぶことにした。
適当なサイズの台車を創造して、そこに載せれるだけの魔物を載せていく。
クラーケンはSランクということもあって、納品したら厄介事間違いなし。
そう思って、クラーケンは納品するのはやめた。
ギルドに着いて素材を納品するために倉庫に向かう。
ポーチを使わなかったため、騒がれることもなく査定を頼み、討伐報酬部位が残っていたので、「これは討伐報酬貰えるよ?」と言ってもらえたので、表に行って納品することにしよう。
ギルドに入ると、中は何やらすごくざわついていた。
何かあったのかなーと考えて、すぐにもしや?と思い思考を停止させる。
討伐報酬をもらうため、依頼の受付カウンターに行く。
「すみません。」
「え、あ、はい。なんでしょう?」
「あのー、これ倉庫で査定頼んでいたら、これを渡せば討伐報酬貰えるとのことで持ってきたのですが。」
「あ、はい。少々お待ちください。――はい、確かにこちらは討伐依頼がありますので、報酬が出ます。こちらアイアンリザードが三体で12000ファル、ホブゴブリンが五体で2500ファル、キングベアー一体5000ファルなので、計19500ファルになりますね。」
「はい、ありがとうございます。ところで、なんだかギルド内が騒がしい気がするのですが……。」
「えぇ、それなのですが、なにやら近くの海でデビルクラーケンが発見されたらしくて。あ、デビルクラーケンって言うのは普段は沖にしかいないSランクの魔物なんですが。何の拍子なのか近海にまで来てしまったらしく、都市に被害が出ないか心配されているのです。ちなみに緊急依頼としても出ているのですが、いかんせん受ける人が少なくてみな困っているのですよ。」
「なるほど。」
うん、想像はついていました。
あんな船を軽く沈めて、下手したら陸地にも被害が出そうな魔物がそう簡単にいたら困るからな。
ふむ、しかしどうしたものか。
倒したことを(後々面倒だから)伝えるわけにもいかないし、まぁ放置してればその内落ち着くかな。
この話題は、これ以上触れると墓穴を掘りそうだったので、やめることにする。
「それは大変ですね。まぁ自分には無理そうなので、あんまり海には近寄らないようにします。」
「はい、是非そうしてください。」
そう言って受付から離れる。
改めて依頼を見るためにルナを連れて掲示板の前に向かう。
「よっしゃ、ルナ。なんかやりたい依頼ある?」
「ん?んー……」
依頼掲示板に見入るルナ。
さて、俺も見てみるかな。
ふむふむ、際立つのはやっぱりクラーケンの依頼だね。
そういえば雑用依頼ってやったことないけどなんか面白そうなものってあるかな?
雑用
・引っ越しを手伝ってほしい(-)×3
・食堂の手伝い(-)×2
・網引き漁の手伝い(-)
・魚の仕分け作業(-)
・旅行に行くので、その間の留守番を(C)
・新しい料理のアイデアを(-)
…etc
おぉ、なんか色々あって面白そうだな。
特にこの世界の食事事情を考えたら、新しい料理のアイデアとか面白そう。
ルナが決まらなかったらこれにするかな。
「ルナ、なんかあった?」
「ん、魔物、名前分かんないから、決まんない。」
「そっか、じゃあこの雑用依頼やってみないか?もし案が採用されたら、作りながら一緒に料理教えられそうだし。」
「ん。そうしよ。」
よし、ルナも良いらしいので、この依頼を受けることに。
依頼用紙をはがして受付に向かう。
「すみません。これ受けたいのですけど。」
「はいはい。あら、これ依頼出されたの随分前じゃない。依頼主さん、きっと喜ぶわ。」
「あ、じゃあ是非良いアイデア出さないとですね。」
「そうですね。良いアイデア出たら是非食べに行かせてもらいますね。」
「はい、頑張ってきます。」
場所を聞いた(だけでは分からなそうだったので、地図貰いました)ので、ギルドを出て依頼主さんのお店に向かう。
まだ昼前であったので、ついでにそこでお昼ご飯でも食べようかな。
地図を辿って目的後に向かう。
いや、しかしこの都市は海辺なだけあって風が気持ちいいな。
風を楽しみながら10分程歩いて、目的の場所に到着した。




