旅の醍醐味は寄り道だよね
異世界生活十六日目
あれから一週間。
バイクでゆったりと旅をしてきた。
魔物に出会っては、ルナの魔法の練習もかねて蹂躙したり、俺もたまに創造魔法やら身体能力の調整やらを試してきた。
そういえば、料理をする時に創造で竈を作ったりしてたんだけど、それを見て真似をしたのか、いつの間にか土魔法も使えるようになっていたルナ。
と言っても適正はないからそれくらいしか使い道がなかったけど。
それと、時間はいっぱいあったので、ご飯を作るときはルナに教えながら一緒に作ったりもした。
魔法のセンスはあるなとは思ってはいたけど、基本的にセンスの塊なのか、あっと言う間に包丁の使い方とかをマスターするルナ。
それでいて、応用力もあるもんだからもう俺より料理上手なんじゃないかってくらいだ。
ただまぁ、レシピに関してはまだまだ俺に利があるので、兄貴としての体裁は保てていると思う。
そんなこんなで、ゆったりと旅をしてきた。
道中、誰にも合わなかったり町も見かけなかったりと、ほんとにこっちの方向であっているのかが心配になってきた。
「しかし、あとどれくらいで着くのかねぇ。」
「ん、分かんない。」
「そりゃそうだ。」
ふむ、まぁ急ぐ旅でもないし気長に行くかな。
考えるのをやめて、夕食作りを始める。
今日のレシピはお好み焼き。
小麦粉に水と卵、ダシを入れて生地を作る。
そこに刻んだキャベツ、ネギを入れる。
鉄板に油を敷いて加熱し、薄切りにした肉を並べる。
その上から生地を流し入れ、片面をカリカリになるまで焼く。
ひっくり返して、火を弱めて上から蓋を被せる。
中まで火が通ったら皿に盛って、ここ一週間で作ったマヨネーズとソースもどきをかけて完成!
スープも添えて、はい出来上がり。
「そんじゃあ、今日もお疲れ様。いただきます。」
「いただきます。」
うん、中々な出来上がり。
しかし、どうせなら青のり、かつお節、紅ショウガ、天かすもあればいいのだけど。
こうして考えると、結構探したい食材やら調味料がいっぱいあるなぁ。
最悪、ググれば作り方はいくらでも探せるからどうにかなりそうだけど。
「おにぃ、今日も美味しい。」
「ん、それは良かった。」
こんな感じで、毎日グダグダ過ごしていた。
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異世界十八日目
二日後、目の前には山脈地帯が広がっていた。
今までの平野はバイクで走ってきたけど、さすがにバイクで山越えは無理だよなぁ。
「さて、これを超えないことにはこれ以上東には行けないし、どうするかねェ。」
「ん、回り道?」
「やっぱそうだよねー。」
どう考えても山の中には魔物とかいっぱいだろうし、下を通る方が楽だよね。
問題は北側を回るか、南側を回るか。
ふむ、こういう時はコイントスだな。
「ルナ、表と裏どっちがいい?当たれば北、外れたら南に行こう。」
「ん、じゃあ裏。」
「おっけぃ。」
ピーン、パシッ
「うん、残念。表だから南に行こうか。」
「ん、おけ。」
進行方向を変えて、南に進路を抜け、再びバイクを走らせる。
しかしこの山脈、見る限り果てが見えないんだけど何処まで続いてるんだろ?
回り道に何日かかることやら。
しばらく走らせていると、街が見えてきた。
最近野営ばっかだし、食材(肉は魔物がいっぱいアイテムボックスの中にあるから問題はない)もかなり減ってきたから調達したいからね。
前みたいな貴族との厄介事は勘弁願いたいので、街から離れた位置でバイクを降りて小さくしてしまう。
歩いて街に向かい、入場口を見つけたので列に並ぶ。
この町の名前はトマの町というらしい。
まぁ次来ることになるかもわからないので、特に覚える必要もないだろう。
問題なく入場し、今日の宿を探すことにする。
露店で食べ歩きをしながら、店の人にどこかおすすめの宿を聞いてみた。
「すみません。ここらでオススメの宿ってあります?」
「宿かい?それならここから少し行ったところに、美味しい料理を出してくれるところがあるからそこなんてどうだい?」
「ほんとですか?行ってみることにします。」
「あいよ。ありがとうございましたー。」
ちょっと歩くと、宿らしきものを見つけたのだが……。
「あの人が勧めたのって、このボロ宿か?」
「ん、他に、見当たらない。」
「だよねー。」
まぁ別にどこでもいいし、折角勧めてもらったからな。
「んじゃあここにすっか。」
「ん。」
入り口に手をかける。
ドアを開けて中に入ると、中も外と同じでボロボロだった。
てかこれ人いるのか?
「すみませーん。」
……………………ガラガラ
「あらまぁ、どちら様だい?」
奥の部屋から、おばあさんが出て来た。
店員さんかな?
「あの、ここって宿屋であってます?」
「えぇ、一応宿屋ではあるわ。」
「それじゃあ今日泊まりって大丈夫ですか?二人ですが。」
「あらまぁ、久しぶりのお客様だねぇ。それじゃあおばさん、張り切っちゃおうかしら。」
「程々にお願いします。」
なんかもうかなりお年を召していらっしゃるし、あんまり無理してもらうのも忍びない。
行為は嬉しいが無理をしないで欲しいものだ。
「それじゃあ、お部屋はこちらのお部屋を使ってくださいね。」
「ありがとうございます。」
「すぐに夕食も作っちゃいますから、待ってて頂戴ね。」
「はい。美味しいって聞いたので、楽しみにしてますね。」
「あら、嬉しいわ。」
部屋に入って、ゆっくりとくつろぐ。
最近は野営ばかりだったから、完全に疲れが取れなかったし、今日はゆっくりすることにしよう。
ルナと二人で部屋でくつろぎ始めて20分。
「あなたたち、夕ご飯が出来ましたよ。」
「あ、はい。」
部屋の外からおばあさんに呼ばれたので、食堂に向かう。
近づくにつれて、良い匂いがしてきた。
てか、この匂いどこかで嗅いだこと?
食堂に着くと、目の前には大きな蒸篭があった。
蒸篭といい、この匂いといい、もしや……
「肉まんか!?」
「あら、知ってらっしゃるのかしら?」
「えぇ、昔故郷で知り合いに作ってもらったので。」
「折角驚かそうと思ったんですけどねぇ。」
「いえ、十分驚きましたよ。」
ふむ、まぁ今はそんなことより久しぶりの肉まんを楽しもう。
食堂に入って席に着く。
「じゃあ、早速いただきますね。」
「いただきます。」
「はいはい、いっぱい作っちゃいましたし、いっぱい食べてくださいね。」
まずは一口、ジュワッと肉汁が溢れだしてくる。
うお、これやべえ。
中の肉は、ダシや刻んだ野菜も含めて良い味を出している。
それに加えて、外の皮もふんわりやや甘く、良くマッチしている。
向こうで食べたことある肉まんなんて、コンビニとかのばっかだったからこれは感動する。
おっ、こっちは甘い餡子が詰まってる。
あんまんもあるのか。
うん、この宿は確かに当たりだわ。
「ルナ、美味しいな。」
「ん!」
「この宿にしてよかったね。」
「ん。」
最初はこんなボロ宿どうかなんだと思ったけど、信じてよかったな。
しかし、こんなに美味しいのになんでこんなに不人気なんだろう?
「なんでこんなに美味しいのに、客がいないんですか?」
「えぇ、最近新しい宿が出来てね。みんなそっちに行っちゃったのよ。まぁ、私もそろそろ身体が限界だったから、丁度良かったのだけどね。」
あぁ、まぁみんな新しいもの好きだもんな。
それに行きつけでもなければ、こんなボロ宿よりかは新しい宿に行くわな。
おばあさんも別に辞めることは気にしていないみたいだからいいけど、この肉まんを食べれなくなるのはもったいないなぁ。
「そうですか。こんなに美味しい肉まんが食べれなくなるのは残念です。」
「あら、それなら私の娘がどこかで飲食店を始めたって言ってたから、いずれ会えば作ってもらえばいいわ。多分娘も作っていると思いますから。」
「え!?ほんとですか!その時には是非ごちそうになります!ちなみに、会った時ように、娘さんの名前を教えて頂いても良いですか?」
「えぇ、ミルって言うの。会ったらよろしくね。」
「はい、こちらこそ。」
おぉ、これはまた旅の目的が増えた。
しかも、飲食店を開いてるってことは、他にも何か美味しそうなものも食べれそうだし楽しみだ。
「ルナ、おばあさんの娘さんの店に絶対に食べに行こうね。」
「ん。楽しみ。」
その後も、おばあさん作の肉まんやあんまんを頂いた。
しかしおばあさん。
ちょっと張り切り過ぎじゃないだろうか?
さすがに二人でこんな量は食えません。
残してしまった分は、アイテムボックスに仕舞わせてもらうことにした。
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次の日、食材を買い込み、早速次の町に向かうことにした。
「それじゃあおばあさん。また会うことがあれば。」
「はいはい、ミルに会ったらよろしくね。」
「はい、それでは行ってきますね。」
「行ってらっしゃい。」
おばあさんに別れを告げ、宿を後にする。
町の外に出て、バイクにまたがる。
昨日までに引き続き、山脈沿いにバイクを走らせる。
しかし、ほんとにこの山脈はどこまで続いてるんだろう。
てか、これ普通の人は山の向こうにどうやって行ってるんだろうか。
もし米がこの山脈の向こうでしか育てられていないなら、あんまり一般的に広まっていないのも分かるかもしれない。
まぁ別に俺が食えればいいしいいけど。
ポツッポツッ
あ、なんか雨が降ってきた。
そういえばあんまり気にしてなかったけど、この世界に来て初めての雨だな。
雨降ってる中バイクで走るのは厳しいので、一旦止まる。
「よし、ルナ。ちょっと止まるな。」
「ん。」
さすがに雨の中でバイクは無理。
けど、移動は続けたい。
というわけで、早速創造しましょう。
あんまり大きいのを創造しても邪魔だし、そもそも車って言ったら大学時代に使ってたやつが一番想像しやすい。
そんなわけで想像しました。
ト○タ製の赤ヴ○ッツたんを創造。
うん、完璧。
MPはほぼ空になったけど。
「おにぃ、これ、何?」
「これは自動車って言ってな。まぁ乗れば分かるよ。」
「ん。」
助手席のドアを開けてやって、中に導く。
シートベルトも着けてあげようと思ったけど、そもそも警察いねえし、急に魔物とか現れた時に邪魔だと思って着けるのをやめた。
自分も運転席に戻ってさて出発。
「よーし、ルナ。出発進行!」
「ん!」
雨が降り続く中、旅を再開することにした。
てかバイクより見つかると厄介だから、その点は気を付けないとな。




