街に来てみた
異世界八日目
次の日の朝、目を覚ます。
まだ朝早いせいか、ルナは起きていない
ベッドを抜け、ちょっと早いけど顔を洗いに井戸に向かう。
家を出て外に出ると、井戸の近くにカリナさんがいた。
「あ、おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」
「あ、はい。ゆっくりさせていただきました。」
「それなら良かったわ。もう少ししたら朝ご飯が出来るから、ルナちゃんも連れてきてくださいね。」
「あ、はい。」
「ところで、随分と朝起きたら身体の調子が凄く良いんだけど、何か知らないかしら?首の黒すじも消えていたし。」
うわお、もうばれてーら。
嘘言っても仕方がないので、昨日の夜に勝手に治療したことを話して謝る。
治ったことをさりげなく伝えるが、プルプル震えるだけで他に反応がない。
やっぱり勝手にしたこと怒ってるのかな?
「あの、勝手にやってすいませんでした。治せると思って、アナに許可を取ってカリナさんが寝てるうちに勝手に治療やっちゃいました。でも俺が出来るかもってアナに促したんで、アナは責めないであげてください。」
「――あ、いえ、怒ってなんか、ないです。ただ、ビックリ、して。もう、ダメかと、思って、いたので。」
返答しながらも、泣きながらなせいかセリフが途切れ途切れになる。
まぁもうダメかと思ってた病気が治ったんだから泣きもするか。
こういう人が弱みを見せている時は、人と触れ合うのが大事ってどっかのお兄さんから聞いた記憶があるし、隣に座ってあげて、そのままカリナさんが落ち着くまで、しばらくなでなでしてあげる。
ふむ、しかし中々に恥ずかしいものがあるなこれは。
そのまま膝の上で泣き崩れるカリナさんを撫でてあげること、約5分。
ようやく落ち着いたのか、すっと膝の上から顔を避けて、顔を着ている服で拭うカリナさん。
しかし、美人が泣く姿も中々にそそるな。
あ。いや、別に狙うわけではないですよ?
「ごめんなさいね。年甲斐もなく泣いてしまって。」
「いえ、お気持ちはわかりますから大丈夫ですよ。」
「あら、優しいのね。アナじゃなくて私がお嫁さんとしてもらってもらおうかしら?」
「え、いや、な、何言ってんですか!冗談はやめてくださいよ!」
「あら、別に冗談じゃなくてもいいのよ?」
「もう、からかうのはやめてください!」
「うふふ。なんだか楽しくって。」
くそう、これが大人の余裕とかいうやつか。
しかし、もう落ち着いたようなのでよかった。
それに俺としても、ちゃんと仕事をしたのだから、ここに泊めてもらう罪悪感もなくなるしで良いこと尽くめである。
その後、カリナさんの朝食づくりを手伝いながら、色々とお話をした。
朝食が出来る頃になると、アナもルナも起きて来た。
「あ、お母さん!良かった。もう大丈夫そうだね!」
「ええ、カズキさんとルナさんのおかげよ。どうやったかは分からないけど、これでまだまだ生きることが出来るわ。ルナさんもありがとうね。」
「ん。」
「うふふ、それじゃあ朝ご飯にしましょうか。」
席について朝食を頂くことに。
朝食を食べながら、カリナさんが折角治ったので何かしたいことはないかと質問をしたら、まぁ出るわ出るわ。
朝食を食べ終わるまで、嬉々としたカリナさんのお話が続き、終わり頃にはさすがに三人の顔は苦笑いを浮かべることとなった。
カリナさん、結構パワフルなんだね。
――――――――――――――――――――
朝食を食べ終わり、街に行くことにする。
アナは街の案内がてら、着いて来てくれるらしい。
ありがたい話だ。
「それではカリナさん。行ってきますね。」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けてくださいね。」
バイクにまたがり、昨日同様に乗る。
街まではすぐなので歩いてもよかったかもしれないが、もう乗っちゃったしいいか。
今日も実にいい天気なので、風がすごく気持ちいい。
とか感傷に浸っていると、もう街についてしまった。
バイクを降りて、入り口の前に出来ている列に並ぶ。
バイクが珍しいのか、多くの人がこちらに興味津々そうな顔をして見てくる。
人からジロジロ見られるのってあんまりいい気分じゃないね。
しまったな、面倒事はごめんだし、後で小さくして隠しとかないと。
入場の手続きはそんなに時間がかからないのか、20人はいたであろう前の行列はすぐに消えてなくなり、自分たちの番になる。
「身分証の掲示をお願いしよう。」
「あ、はい。」
「―――うむ。ところでこの物体は一体……。危険なものなら持ち込むことが出来ないのだが。」
「これはなんというか魔法で走る馬のようなものです。」
「ほう、まぁそれなら問題はないようだな。犯罪歴もないようだしな。ようこそ、リアスの町へ。」
大した問題もなく、街に入場することが出来た。
随分とザルな警備だな。
こんなんで大丈夫かこの世界。
それにしても、獣人は嫌われていると聞いていたが別に変な対応をされるわけでもないのな。
クラスで嫌いな奴がいる、とかそんなレベルの嫌いなのだろうか?
何はともあれ、無事に町に入ることが出来た。
街に入ってすぐに路地に入ってバイクを小型化する。
「さて、じゃあ午前は街を案内してもらって、午後には依頼でも探してみるか。」
「ん。」
「任せてください!色々と紹介しますよ!」
その後、露店が広げられている広場やレストラン街のようなところ、お気に入りの雑貨店など色々と見て回った。
露店で売っていた何の肉かは分からない串焼きは凄く良い匂いがしたので、あとでお腹が空いてきたら買いにでも行こうかな。
ルナは雑貨屋でアナに色々紹介されて、その度に目を輝かせていた。
やっぱりどこの世界でも女の子はこういうのを見て回るのが好きなのだろう。
そんなこんなでお腹が減ってくるまで色々な店を回った。
お昼ご飯をどうするか二人に聞いてみるか。
「なあ、二人とも。そろそろお腹すいたんだけど何処で食べたい?露店で色々出てるのもあったし、レストラン街みたいのもあったし。」
「あ、私いい店知ってますよ!独特の料理なんですけど、これが結構おいしいんですよ。」
「お、じゃあそこにするか。ルナもそれでいいか?」
「ん。」
「よし、じゃあ早速案内お願い。」
「はい、こちらです!」
アナに誘導されて、店へと向かう。
先程のレストラン街とは別の方向にあるらしい。
ふむ、隠れた名店的な感じかな?
大きな通りを離れて、小さな通りに入って行く。
しばらくすると、一つの看板が目に入った。
あれかな?
当たりだったらしく、アナが着きました!と言ってくる。
腹減ってきたし楽しみだ。
店に入り席に着く。
よし、早速と思い皆一様にメニューを見る。
……これはもしや。
メニューには、カタカナではあったが~テイシヨクといった文字が縦にいくつも並んでいる。
俺の予想が当たっていれば、これは米が出てくるんじゃないだろうか?
取り敢えず、オススメテイシヨクと書かれていたものを注文する。
ルナたちも注文が決まったみたいなので、店員さんを呼んで注文をする。
注文してから約十分。
運ばれてきた料理を見て予想が当たっていたことを知る。
米だ!
こっちの世界にも米があった!
そのことに感動を覚えながら早速頂くことにする。
あぁ、この暖かさ。
噛めば噛むほど甘くなるこの感じ。
やっぱり米は最高だ!
しかし、その直後に感動が打ち砕かれる。
一緒に出て来たのはコーンスープのようなもの。
イモと豆を煮込んだもの。
それとサラダに、酢の物でおしまい。
いや、不味くはないよ。
美味しいことには美味しいのだが、こう、塩分の効いたものが欲しくなる。
唐揚げとか肉野菜炒め、トンカツとかも最高だな!
ちなみにルナとアナが頼んだものも、大体そのようなおかずが多い。
なんだこの店、米の素晴らしさをわかっていない。
まじでキレそう。
いや、まぁしかし米があることが知れただけでいい。
帰る前にでも店員さんにこの米がどこで手に入るか教えてもらおう。
そう考えて、目の前の食事を楽しむことにした。
――――――――――――――――――――
あの後店員さんに米のことを聞いたところ、ここからはるか東にペイルという町があり、そこの特産品だとか。
ふむ、この町の次はそっちを目指してみよう。
ちなみに、ご飯を食べたせいか無性にしょっぱいジャンキーなものを食べたくなったので、先程の広場で売っていた串焼きを購入した。
くぅ、これをさっきのご飯と食べたかったな。
食に関して色々と思考をはべらせながら、依頼を探すためにギルドに向かった。
ちなみにアナは買い物があるといって別行動になった。
ギルドに到着して中に入る。
依頼の掲示板のところに行き、何かいい依頼ないかなと探す。
ルナにも探してもらっているが、中々良い依頼が見当たらない。
まぁ贅沢してる余裕もないし、何でもいいかな。
そう思っていると新しく依頼が入ったのか、雑用以来の欄に一枚の依頼書が張られた。
どんな依頼かなと思って見てみる。
依頼:とある魔道具の持ち主を探して欲しい。
条件:持ち主を依頼主に紹介する。
報酬:金貨一枚
期日:-
依頼主:ハルバン子爵
詳細:先日、馬車で道を走る際に黒い物体に乗った人が物凄い速度で通過していった。おそらく、あの速さは魔道具によるものと思われる。声をかける間もなく去ってしまったのだが、もし見つけたらどうにか連れてきて欲しい。
うわー、これ絶対厄介事だよ。
世に言うフラグとかいうやつだよ。
ていうか昨日の今日でもう依頼が張り出されてるとか、どんだけだよ。
うん、面倒くさいから関わりたくない。
もちろん渡す気もさらさらないので、こんな依頼はもっての外である。
適当に討伐依頼を受けよう。
そう言えば、ウェアウルフがアイテムボックスに埋もれてたな。
討伐依頼も出てたみたいだし丁度いいや。
受付のお姉さんのところに行き、声をかける。
「すみません。ウェアウルフの討伐の確認をお願いしたいのですが。」
「あ、はい。かしこまりました。それでは証明の尾をお出しください。」
「はい。分かりました。」
腰のウエストポーチから次々と尾を出していく。
……ふむ、43匹も狩っていたのか。
ちなみにどんどんと尾が出てくるので、お姉さんは若干引いていた。
「魔法のカバンですか?随分と小さいんですね。」
「はい、祖父が冒険者をしていた時に見つけたもののようで、旅立つときに頂いてきました。」
「なるほど。分かりました。えー、それでは43匹のようですので、一匹2,000ファルですので、全部で86,000ファルになります。しかし、これほどの数をお狩りになるなんて、随分と強いのですね。」
「あ、いえ、妹が魔法が得意なので、私が気を引いて妹に攻撃してもらっただけですよ。それに一度に倒したわけではないですし。」
「あら、そうですか。ではポイントはお二方に割り振らないとですね。」
「はい、お願いします。」
貢献ポイントを分けてもらう。
そういえば前の町の時って分けてなかった気がする。
まぁいっか。
「はい、ギルドカードをお返ししますね。それとこちらは報酬の86,000ファルになります。」
「ありがとうございます。」
銀貨が入った袋を受け取り、ポーチにしまう。
よし、次は買い取りだな。
ギルドの裏にあるであろう倉庫に向かう。
中に入るとすぐにカウンターがあった。
てか作りが前のとこと変わってないな。
カウンターの男の人に話しかける。
「あ、すみません。魔物の買い取りお願いします。」
「はい分かりました。死体は外ですか?」
「あ、これ魔法のカバンでして、この中に全部入ってます。」
「ほう。随分と小さいものをお持ちで。」
いつものやりとりを軽く流し、ウェアウルフの死体を出していく。
食べてしまった分で一匹減って、42匹のウェアウルフを出していく。
男の人が引いているが、これもいつものことなのでスルーする。
「えっと、それでは査定を行いますので、また後ほど来ていただけますか?」
「あ、はい大丈夫です。」
さすがにこの量はすぐには終わらんか。
そう考え、倉庫を後にする。
さて、お金をもっと貯めないとなので、再び依頼掲示板に向かうことにしよう。
そう考えてギルドに戻ると、先程はいなかった集団がいた。
その中の一人は、THE金持ちみたいな身なりで、他の男たちは軽くではあるが武装している。
そして近づいて来る人皆に何か聞いて回っている。
こちらに気付くと、何やら向かってきたではないか。
うわー、絶対面倒事だよこれ。
このあと起こることを考えながら、憂鬱になった。