BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました
腐女子発言が苦手な方はご注意ください。
僕の名前は『天地央』。
二度目の人生を謳歌している。
前世は女で二十歳くらいで交通事故で死んだっぽい。
所謂転生というやつだ。
気がついたのは中学三年の冬だ。
つい最近のことである。
僕には二つ年上の兄がいる。
名前は『天地真』
兄は成績優秀、スポーツ万能のイケメンで漫画やゲームの主人公のような人だ。
身長もそこそこ高く、天然茶髪のサラサラヘアー。
きりっとした目は二重で碧眼。
きらきらと爽やかな汗を光らせてテニスをしているところを見たときは我が兄ながらどこの青春映画から飛び出してきたんだと思ったものだ。
いや、まあ……本当に正真正銘『主人公』だったのだが。
BLゲームの、だけど。
勿論『R』付の。
だが、割と青春モノというか、行為自体は激しかったように思うが犯罪紛いなものは一部のバッドエンドに入るルートにしかない、健全な方の人気作だったと記憶している。
BLゲームがやりたいならこれから、というような入門編的な存在であったはずだ。
それでも、思い出した時は本当に雷に打たれたような衝撃が頭から足の爪先まで一気に駆け抜けた。
そして思い出したきっかも、『そっち』方面の出来事だったので衝撃プラス衝撃のコンボで昇天しかけた。
今思い出しただけでも頭痛がする。
その日、僕は学校から帰ってきて、いつものように自分の部屋に直行しようとした。
玄関には兄の同級生であり幼馴染でもある『櫻井春樹』の靴があったので、彼が遊びに来ていることが分かった。
春樹は僕にとっても兄のような存在で、兄より背が高くバスケが上手くて格好良いスポーツマンイケメンだ。
黒の短髪できりっとした強い目が男らしくて当然モテる。
僕の部屋は家の二階にあり、兄の部屋と隣だ。
暇なので一緒に遊んで貰おうと兄の部屋に行くことにした。
春樹が遊びに来ていることは良くあり、いつもは階段を上っていると賑やかな声が聞こえてきたのだがその日は静かだった。
勉強でもしているかもしれないと思ったので、邪魔にならないように静かに部屋に近づいた。
部屋のドアは少し開いていて、中に人の気配がすることが分かった。
こっそり、音を立てずに覗いて見ると、そこには……。
「……ッ!!」
なんと部屋の中で兄と春樹はキスをしていた。
春樹が兄を押し倒したのか、覆いかぶさるような体制になっていた。
かなり濃厚なやつをしている。
このままいけば多分……何とは言わないがいたす事は間違いないだろう。
まじか……兄ちゃん、ホモだ……。
兄ちゃんだけじゃない。
春樹兄とホモだ……まじか……。
ホモだよ……父さんと母さんにばれたらどうするんだよ……。
友達にもバレたらどうするんだよ……ホモだ! って……。
頭の中は『ホモ』という字でいっぱいになっていた。
その時、頭がずきっと痛んだ。
思わず声を出しそうになってしまったので口を押さえ、後ずさりする。
この部屋の近くにいてはいけない。
見てしまったことがバレてはいけない。
どんどん後ろに下がる。
動揺して階段があることを忘れていた。
がっくっと下がる片足。
バランスを崩して落ちる身体。
やばっ!
手すりを掴もうと手を伸ばしたが空を切り、上手に尻で踊り場までの五段をとんとんとんっと下っていった。
一段降りるごとに増す痛み。
尻が割れる!
「いってえええええ!!!!」
叫ばないなんて……無理だった。
ああ、尻が……割れる……最初から割れてるなんて言わないで欲しい。
四つくらいに割れそうだ。
「央!?」
「どうした!?」
兄と春樹が情事を中断して飛び出てきた。
「だ、大丈夫! ちょっと階段踏み外して落ちた……いってえ」
「何やってんだよ……」
春樹が近寄って起こしてくれようとするのが分かったが、なんとなく気まずくなり、シップを貼ってくるとそそくさと階段を下って一階のトイレに逃げた。
トイレに座り、頭を抱える。
色々なショックで気持ち悪くなってきた。
頭の中がぐちゃぐちゃになり、色んな音が混じって聞こえる。
その中でさっき覗き見た映像も見えた。
いや……違う。
さっきの場面に似ているが、兄達が絵になっているし、選択肢のような文章まで見え、まるでゲームの様な……。
「げー……む?」
その瞬間、頭の中でぐちゃぐちゃになっていたものが一気に整頓されていくような感覚がした。
音もそうだ。
声や音楽。
どれも聞き覚えがある。
そして理解した。
これは『Flowering Season ―黒き薔薇の学び舎ー』というBLゲームの世界だ、と。
それが分かり、今の状況が理解出来た。
「春樹ルートのグッドエンド後、か」
兄は主人公で攻略キャラは四人。
それぞれ『春夏秋冬』の内一字が入っている。
『春』は兄の幼馴染の『櫻井春樹』で、彼と結ばれるルートで今に至ったのだと推測出来た。
季節のイベントは春兄と行っていたし、つい最近二人は珍しくケンカをしていた。
内容は知らなかったが、二人が結ばれる最後のイベントであったのだろう。
少し記憶は曖昧だが、春兄と兄は一度肉体関係を持ったがそれは成り行きで、その時はまだ気持ちが追いついていなかった。
だが、春兄は気持ちに気づいて再度兄を求めたが兄は拒絶。
春兄はこれに傷ついたが、兄のことを想って考えた結果距離を置くことに。
しかし、離れたことで春兄への気持ちに気がついた兄が告白して張れて二人は気持ちも身体もゴートゥベッド! ってあれ……すでに兄は少なくとも二回はヤッ……気づいちゃったよ僕。
そうですか、兄ちゃん……開通後ですか……。
ま、まあ、前世は腐女子と呼ばれる存在だったので嫌悪感はないしむしろ興味深々で、二人が出来上がっていくところをリアルタイムでこの曇りに曇った邪眼で見たかったくらいだが、反面健全な男子として今まで生きてきた土台があるので心中複雑でもある。
僕自身は今は特に恋愛に興味はないが、付き合うなら女の子がいいし、掘るのも掘られるのも全身全霊でご遠慮願いたい。
そう思ったところで思い出した。
そういえば、ホモといえば……あと残りの攻略キャラの三人は……。
三人とも兄に惚れる設定であったと思う。
なので、兄たちが付き合い始めて間もないというのなら今頃三人は失恋で胸を痛めているはずだ。
……それでか。
実は三人と僕は面識がある。
そして三人は最近、僕に兄の様子を聞きにきたり探るようなことを聞いてきていた。
心中お察しします。
失恋、せつないですね。
どこかの芸能人がテレビで言っていました。
失った恋を癒せるのは新しい恋だけだと。
新しい恋、見つかるといいですね。
失恋ホモ達を心の中で励ましつつ、時は過ぎ、今に至る。
僕は高校生になった。
兄達は高校三年生で僕は一年生。
同じ高校に通っている。
やっぱり兄の人気は凄い。
ですが兄にきゃーきゃー言ってるお嬢さん方には気の毒ですが兄には素敵な彼がいるのですよ。
いやあしかし、僕も僕で大変だったのですよ!
兄とその幼馴染がホモカップルだと気がついてからはドキドキの連続だった。
家に帰ってきて玄関に春兄の靴があっただけで呼吸困難になりそうになる。
はあああ、今日も今日とて来てるじゃないかあお盛んですなあ!って。
こっそり兄達に気づかれないように自分の部屋に入り、静かに聞き耳を立てていると兄の艶かしい声が聞こえてくることがあってパニックになることがあった。
あわよくばこれを聞いてやろうと思っていたので成功といえば成功なのだがいざ始まると非常に気まずい。
兄はイケメンで、そんなに背も低くはないし女性的でもない。
そんな兄のイイ声はゲームで聞くよりずっと良かった。
天使の産声か……。
何が良いのかと言われれば難しいが、腐女子だった頃の私なら『クソかわ死ぬ!!!マジ掘りてえ!!!』と悶え苦しんでいたことだろう。
だが今はそっとスマホを取り出して、ヘッドフォンをつけて音楽を聴きながら寝ちゃった僕を演出する心遣いが出来る子になった。
実際、僕が帰ってきていたことに驚いた兄が部屋を見に来て、寝ている(フリの)僕を見て安心していた。
ごめん、兄ちゃん。
本当は音楽かけずにがっつり聞いてました。
最後の一声、良かったですよ!
それにしても兄達は隠す気があるのかないのか分からない。
割と無防備だ。
バレてもいいっていうスタンスでやっているのだろうか。
密かにどうカミングアウトしてくれるのか楽しみにしているんだけどなあ。
「ねえ。最近お兄ちゃんの様子がおかしいの」
今は学校に登校中だ。
そしてほら、ここにも察知している子がいますよ。
僕と同級生の女の子、『櫻井雛』。
そう、春兄の妹だ。
「どうおかしいんだ?」
「なんか浮かれてるっていうか……彼女でも出来たのかな? 真兄とか聞いてないかな?」
そのうちの兄が彼女というか彼氏なわけですが。
「さあ? 今日は帰ったら聞いてみるよ」
「うん、ありがと」
聞いたら、どんな反応するんだろう。
本当に聞いてみよう。
ちょっと楽しみだ。
学校から帰宅。
今日もありますね、春兄の靴。
今日も励んでいるのかは分からないが話が聞きたい。
僕が帰ってきたことを分からせるために無駄に一階でがしゃがしゃ音を立てて動いてからお菓子を持って二階に向かう。
「兄ちゃん、春兄! お菓子食う?」
階段をゆっくり上がりながら声を掛けると二人が兄の部屋から顔を見せた。
「食べるよ、下で食べよう」
前世から持ち込んだ邪眼のせいかもしれないが二人とも少し息が乱れ、ツヤツヤしているように見える。
「兄ちゃんとこで食べようよ」
少し意地悪をしてみる。
さあ、僕に現場検証させておくれ!
窓を開けて換気したくらいじゃ無駄だぞ!
「いや、下で食べるよ! 飲み物も欲しいしな! な?」
「そ、そうそう!」
はい、黒です。
十分だ、許してやろう……くっくっく。
まだ、お楽しみはこれからだしな。
お菓子を広げ、それぞれ飲み物を用意して雑談を始める。
無駄な話はいらない。
早速直球を投げた。
「春兄、雛が心配してたよ。なんか最近様子がおかしいって。彼女でも出来たんじゃないかって」
「ぐふっ」
飲んでいた炭酸のジュースにむせる春兄。
兄を見ると優雅にコーヒーを飲んでるように見えるが、よく見るとカップを持つ手が力んでいる。
「そういえば兄ちゃんもなんかおかしいよな? 兄ちゃんも彼女出来たとか?」
「「……」」
二人は完全に黙ってしまった。
「っていうか最近良く来てるよね、春兄。もう毎日じゃない? そんなんじゃ彼女なんていないかな?」
さあ、どう返してくるか。
意地が悪いのは分かっている物凄く楽しい!
にやにやするのを堪えるのに必死だ。
「俺達のことより、お前はどうなんだよ。クラスの女子がお前のこと可愛いって騒いでたぞ。結構モテてるんじゃないか?」
確かに、自分で言うのもなんだが、兄と似ているし外見はいい方だ。
だが、兄は僕よりもカリスマ性があるのか、顔は同じ造形なのに魅力値は僕とは桁違いだと思う。
春兄もスポーツが出来るカッコイイ男子で当然モテている。
そんな二人からモテてると言われても嫌味でしかないと思う。
と、いうかだ。
話を逸らそうとするな!
兄もそれに乗るつもりのようだが逃がさないぞ。
「僕のことはいいんだよ。モテるといえば二人の方こそだろ! なあ、どうなんだ? 周りからもいつも聞かれて大変なんだぞ」
「お前が恋バナ好きとは知らなかったよ」
「お前もこういうことに興味持つようになったんだな」
「そんな母さんみたいなこと言ってないで教えてよ。誰にも言わないからさ!」
二人はどう答えるか迷っているようだ。
目を合わせて困った顔をしている。
なんですか、アイコンタクトですか?
仲が良いですね見せ付けてくれますね!
あ、どう答えるか相談したいなら作戦タイムをとってもいいですよ?
嘘をつくか、無難にやり過ごすか、はたまたいっそカミングアウトするか。
難しいですな。
ゲームなら間違いなく分岐点だ。
「実はね……オレ達付き合ってるんだよ」
春兄が素敵な笑顔で話した。
え、まじですか?
まさかカミングアウトコースですか!?
誤魔化されると思っていたからどうリアクションとっていいか分からない。
ぽかんと間抜けな顔をするしかない。
「……なんてな」
にやりと春兄は笑った。
もしかして……あれですか。
冗談として言って見て様子を伺うってやつか?
「本当だったらどうする?」
ぎこちなく兄が笑いながら問いかけてきた。
少し緊張しているような感じがした。
いや、かなり緊張している。
少し手が震えている。
僕は黙って兄を見ることしか出来ない。
「……なんてね」
間に耐え切れなくなったのか、兄が冗談ということで終わらせた。
だが…… 兄ちゃん大丈夫!?
物凄くコーヒーカップがカタカタいってますけど!
完全無欠の兄がこんなに動揺するなんて……。
ひょっとして……僕に嫌われたくないって、思ってる?
あー……ごめん、兄ちゃん。
申し訳ない気持ちになった。
二人は真剣なのに、ふざけすぎたな……。
物凄く自己嫌悪だ。
僕と兄は凄く仲が良い。
両親が共働きだから帰宅してからはずっと兄と二人だったし、兄が中学になってからは夕飯は兄が作ってくれていた。
何か困ったことや相談したいことがあったら両親よりもまず兄に相談するくらい僕は兄を頼っていたし大好きだし、兄も僕を可愛がってくれていた。
そんな弟にもし反対されたら……。
『気持ち悪い!』とか言われてしまったら……。
そりゃ、怖いよね。
「……別にいいんじゃない? なんか不思議じゃないし」
「「え?」」
二人が同じ表情で固まった。
僕の反応が予想外だったようだ。
「昔っから兄ちゃん達ニコイチっていうか、いっつも一緒じゃん。だからなんか違和感ないっていうか。まあ、びっくりするからとりあえずダッシュで雛に話にいくけど!」
自分も冗談交じりで本当のことを話すことにした。
今はまだ真面目に話す段階でもないような気がしたからどう言おうか迷ったけど、ちゃんと自分の思っていることをそれとなく伝えたい。
さっき言ったことは今まで生きてきた今の自分が兄達に思う本音だ。
多分、前世のことを思い出していなくても同じことを言うような気がする。
「はっ! それでいいのかよ」
「お前らしいな」
二人は呆れたように笑いながらも少し嬉しそうだった。
二人の関係に否定的ではないことは伝わったようだ。
今日は冗談交じりだったけど、きっといつか二人からちゃんと話してくれる日がくるだろう。
前途多難な二人にはもう少し時間が必要だろうから大人しく見守りたい。
弟は応援してるよって伝えたいけど、それはまだもう少しとっておくことにした。
でも見守る間も少し覗きはさせて頂きます。
雛には彼女はいないみたいだけど好きな人でも出来たんじゃない? と言っておいた。
じゃあそれが誰なのか調べないさいよと言われたが、『分かってるけど言えない』なんて言えず……。
春兄、自分の身内は自分で頑張ってくれ。
多分春兄サイドの方が前途多難だな。
兄達のことは僕の中で一区切りがついた。
暖かく見守るというスタンスで。
二人のことが落ち着いたら今度は、失恋ホモ達のことが気になった。
何せ僕には邪眼がある。
邪眼が次の獲物をよこせと疼くのである。
残り三人もタイプは違うが見目麗しいというところは共通している。
綺麗なホモが身近にあるなんて、これはもう邪眼が発動しないわけがない。
ということで、それとなく三人に近づき、楽しもうとしたのが間違いだった。
ホモ充したい! で頭の中がいっぱいで迂闊だった。
忘れていた。
僕は兄に似ているということを。
BLゲームの世界と思われるところで、失恋した相手に似ている弟が近寄ってきたらどうなるか……。
それは……。
僕はホモになりたいんじゃない!
ホモは必要だがなりたいわけじゃないんだー!!
僕が失恋ホモ達から操を守るべく危険な日々を送るのはまた別の話である。
弟は2ndでは主人公だった、なんてね