おまけ
おまけです。
比較的穏やかな病棟、
ナースコールが鳴り響く回数もいつもより少なく、看護師たちはパソコンの前に座り、カタカタとキーボードをたたく。
高井は立ち上がり、
「じゃ、先にお昼休憩もらいます」
緩みそうになる頬をなんとかこらえる。
「はーい、ゆっくりどうぞ」
残り番の牧田はにこやかに言う。
休憩室のドアを開けると
レジ袋からお弁当を取りだし、電子レンジで温める平原がいた。
「何?何ニタニタしてるのよ?」怪訝そうに高井を見つめてくる。
「いや、何でもないっす」
何でもないわけないけれど、言葉にはできない。平原の視線を背中に感じつつ、鞄を手に取る。
早番の佐倉がついでだから、そう言って渡してくれた弁当が鞄の底に入っているのをしばらく眺めていた。
赤い布で包まれた弁当箱をそっと手に取る。
「あぁ〜、私、ほんとにヤダ。昼から仕事すんの、イヤになった。ニヤニヤ笑って、うっとり弁当箱眺めて、ほんとにヤダ」平原が叫ぶ。
「羨ましいでしょう、あげませんよ」包みをひろげて、蓋を開けると、彩りよくおかずがならび、ご飯の上には梅干しが乗っていた。
「私も、お弁当を作ってくれる彼女がほしい。いやいっそ、嫁がほしいっ!!」
平原はコンビニ弁当を前に項垂れている。
「え?平原さんってそっち?」
「例えよ、例え。はぁ、私も手作りのお弁当を食べたい」
「二丁目のお弁当屋さん、手作りっすよ」
「……そういう意味じゃないし」
「ですよね」
「玉子焼き、ちょうだい」
「え?ダメです」
「あんたは、これから何回もいつでも、食べれるじゃない、ケチ」
「なんと言われてもダメです」
「じゃ、佐倉ちゃん貸して?お弁当を作ってもらう」
「何言ってんすか?無理に決まってますから、そんな貸すとか貸せないとか、そんなんじゃないっすよ」
「高井のケチっ!」平原は頬杖をついて、弁当のご飯をつついている。
休憩室のドアが開いて、丸野が入ってきた。
「わ〜、高井さんがお弁当って珍しいですね」
「うん、まあね」
「高井さんって、お料理も得意なんですね。スゴい」じっと弁当箱を見つめる。
「……いや」え?ここは佐倉が作ったって言うべきか?ていうか、普通、気づくよな?
「丸野、これ自分で作ったわけじゃないから」
「えっ!違うんですか?お母さんとか?いや、高井さんって実家どこでしたっけ?遠くなかったですか?」
「実家は遠いよ、一人暮らしだから」
「お母さん、来てみえるんですか?」
「いや、来てない。今まで来たことないから」
「では、誰がお弁当を?」
「ハハハハハ〜、丸野、ほんとに笑えるわ。はぁ、高井に彼女が出来たのよ。彼女がお弁当を作ってくれたの」
「えぇ〜、そうなんですか?いい人ですねぇ、彼女さん」
「……おう」
「ハハハハハ〜、わかってないの丸野くらいだし。丸野のお陰で、昼からも頑張って仕事する気になったわ」
「えー、みんな誰か知ってるんですか?」
「……いや、報告して歩いたわけじゃないから、みんな知ってるってことはないと思う」そう信じたい。
「教えてくださいよう」
「……いや、無理」
「どうしてですか?」
「みんながみんな、丸野みたいに出来てないから。わかったら、聞いてくれていいし。あってたら、そう言うし」ここまでいったら、相手は佐倉だと言ってるようなものだと思う。
「ハハハハハ〜、マジ、笑えるわ。ほとんど答えだし」
「……ですよね」
全く検討の付かない丸野は首をかしげて、「教えてくださいよう」と平原にしなだれかかっている。
「すぐにわかるよ。高井がニヤニヤしてるから」
「わかりました。高井さんに気をつけて見てます!」
「いや、仕事してくれ……」
「丸野は仕事に集中したほうがいいわね。わかった、私が後でこっそり教えてあげるわ。まっ、手、振ったりしてるから、すぐわかるけどね」
「……見てたんすね」恥ずかしすぎる。
「いや、恥ずかしいの私だからっ」
「えー、彼女さんに手を振ったりするんですねぇ」丸野がうっとりしている。
「平原さん、俺、もう出るんで、それからにしてください」
「玉子焼き、くれなかったしなぁ」
あまりの恥ずかしさに、休憩室にいられず、食べ終えた弁当箱をさっさとしまい、休憩室を出る。
「……佐倉さん」
「……知ってるよね?やっぱり」
「丸わかりですから、誰が見たってわかりますよ」
「じゃあ、なんで?あのリアクション?」
「いじったら、よろこぶタイプかと思って……」
「……丸野。なんかあった?キャラ変わってるし」
「平原さん、私もいろいろありますから、高井さんで遊びたくなりますよ、ほんとに」
おしまい




