十一月上旬のラーメン
ググぅ~。
佐倉の耳元で高井のお腹が鳴る。
高井の顔を見上げる。
「……、ハラ減った」
「え?」
「なんか、ほっとしたら、ハラ減ったわ」
「ふふふ、何それ?」笑った拍子にホロリと涙が頬を伝う。
「なんか、食うか」高井に濡れた頬をそっと拭われ、その温かい手は頬を包み込む。
「ちょっと、待ってろ。な?すぐ、戻ってくるから」頭をぽんと撫でて、高井は部屋を出ていった。
時計の秒針がコチコチと響く。
全てが幻のようで、夢から覚めたようで、心細く、信じられない。夢なら、なんとも都合のいい夢なんだろう。静寂の中で高井の言葉を反芻する。
ガチャリと勢いよくドアが開いて、飛び込んできた高井は走ってきたのか、息をきらせている。手には袋のインスタントラーメンを持っていた。
「これ、一緒に食うか?」
高井は満面の笑みを浮かべ、佐倉の返事を聞く前にキッチンに立つ。
ノロノロと立ち上がり、高井の横に並ぶ。
「お湯、沸かして。どんぶりってあるか?」
「ん」鍋に水を入れてコンロにのせると、高井が火を付けた。佐倉の食器棚には、どんぶりはない。少し大きめのお椀がひとつあるだけだった。
「どんぶりって、持ってない。いつもこれ使ってるけど、一個しかないよ」
「ちっちゃいなぁ、よし、ちょっと、待ってろ」
また、高井は部屋を出ていった。
ほどなく、息をきらせて戻ってきたその手には、どんぶりを二皿、抱えていた。ラーメン屋にありそうな白い円錐形に、青い模様が縁に描かれている。
「これでよし」
カラカラとどんぶりの中にラーメンを入れて、お湯を注ぐ。
「お湯は少な目がうまい、玉子を入れてもうまいぞ」
「あるよ?玉子」
「よし、じゃ、佐倉のぶんは玉子入りな」冷蔵庫から取り出した玉子を高井に渡すと、コンと片手で割って入れる。お湯を注ぐと透明な白身がうっすら白くなる。どんぶりの上に鍋の蓋を乗せる。
「蓋、ひとつしかないよ」
「なんか、皿を貸して」いつも使う、白い平皿を高井のどんぶりに被せる。
「よし!完璧。後は三分待つ」
そろそろとテーブルに運び、どんぶりの前に座る。ちらりと高井を見る。
「ん?どうした?」
「うん、なんか久しぶり」
「俺?インスタントラーメン?」
「ラーメン……」
「あんま、食べない?うまいぞ。世界に誇る日本の味だから。もういいかな」
「まだ、早いよ?」
「硬めが好きだから、もういい。いただきます」手を合わせて、皿を取り、湯気をあげるラーメンをすする。ズルズルと音をたて頬張る笑顔を見ていた。
「もう、いい感じだと思うよ」
「うん」箸でゆっくりとかき混ぜ、麺をほぐす。箸で持ち上げ、息を吹き冷ます。久しぶりに食べたインスタントラーメンはするすると入って、しっとりと心を温めた。
湯気の向こうから高井がじっと見ている。
「あの、非常に食べにくいんですけど」
「いや、なんか嬉しい。何回も一緒に飯食ったけど、今日が一番、うまい」
「インスタントラーメンが?」
「インスタントラーメンは日本の誇りだぞ」
「……私もそう思うよ」
「日本の誇り?……うまい?」
「今日が一番、美味しい。きっとずっと忘れない」
「……佐倉」
高井にいきなり抱きしめられて、箸を落とした。
抗議をしようと口を開こうとしたけれど、高井の唇に塞がれた。
次、最終話となります。
21時、投稿します(*´-`)




