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九月半ばの休日

 

 買い物を済ませ駐車場に車を停めて、荷物を手に車を降りると、すっかり熱を失ってからりとした風が頬なで、髪を揺らす。

 その風の中をハァハァと息を切らし薄茶色の毛むくじゃらの塊が近づいてきた。モップを思わせる長いふわふわの毛並み、長い耳、くりくりの黒い目の犬。

 その犬につながれた細い赤のリードを握っていたのは頬を緩ませた高井だった。

「おう、買い物か?」しゃがんで犬を撫で、佐倉を見上げて、にっこり微笑む。

「うん、そのわんこ、どうしたの?」思いがあふれてしまいそうで、高井の顔を見ることが出来ない。

「実家で飼ってる。マジかわいくてお利口さんだ」わしわしとなでるとごろりとその犬は転がり、もっとなでてといわんばかりにおなかを見せている。

「さわってもいい?なんて犬?」顔を見られたくなくて、高井の横にしゃがみこむ。ふわふわの毛は、手入れが行き届いているのかつやつやと光り、なでるとやわらかく滑らかで、そのおなかは温かかった。

「アメリカンコッカースパニエルのみーちゃん、一歳だ」

「みーちゃん……」この犬の名前だった、高井に気づかれないよう、そっと大きく息を吐く。

「ミミロンだって、親父のセンス、どうかしてるだろ?」薄茶の毛に覆われた顔よりも長い耳を指に挟み、ぱたぱたさせている。

「耳が長い……?」

「頼むから気付かないでくれ。父親の安易さにうんざりする」大げさに肩をすくませる。思わず頬が緩む、ミミロンのおなかをなでながら、高井は笑ったなと小さくいい、ふと佐倉の前髪に手を伸ばす、ほんの少し短いそこに軽く触れて、

「ちゃんとライター使えよ」そういって微笑む。

 佐倉の胸がドキリと打つ、ぱっと立ち上がり、食材の詰まったエコバックを持ちあげる。

「食材が痛むとだめだから行くね」

 高井が何か言っていたけれど、その場を逃げ出し、あわてて階段を上がる。息を弾ませて部屋に入り、混乱した頭をなんとかしようと軽く振って、そのまま玄関に座り込んでしまった。

 高井の前だけでなく、誰かの前で、タバコを吸ってたことはない。誰にも話したことはない、タバコのことは誰も知らないはず。

 高井はいつ、気がついたのだろう。臭いが残っていたのだろうか。

 隠していたことを、誰かが知っていることは、とても落ち着かない。隠し事はこうやって、いつの間にか知られてしまうものなのだろうか。


更新は明日の正午を予定しております。


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