9 幸福な降伏の吐息
そうして、出会ってから、半年。
「結婚しよう」
夜、自分の部屋で。
彼に後ろから抱きしめられて、耳元で言い聞かされて。
それは、結婚してください、と言うべきところじゃないのかなと、ちょっと思う。
そんな不満とも疑問ともいえないものに黙っていると、ちゅ、と耳の後ろにキスされて、体の前にまわった手が、不埒な動きをしだした。
「あ、ん、もうっ、真面目な話じゃないの!?」
「だって、焦らすから」
「焦らしてるんじゃなくて」
「じゃあ、素直じゃないから」
彼の方へ、くるりと向かされて、唇を重ねられる。簡単に割って入ってくる舌に絡めとられ、慣れ親しんだそれを、受け入れてしまう。
そうしてさんざん乱されて、何も言えなくなった頃に、彼はくすりと笑って言った。
「俺のこと、もう、結婚したくなるくらい、好きでしょう?」
と。
私はぐうの音も出ず、拗ねた目で彼を睨みつけるしかできなかった。
そこに、今度はなだめるようなキスが降ってくる。
「ねえ、ちゃんと返事をして。藍子の言葉で聞きたい」
彼は時々強引で勝手で。それでも、いつでもまっすぐに求められて、そのたびに息がとまる。
彼の気持ちに絡めとられて、彼の願いを叶えたくなってしまう。
どんな表情をしているのか見られたくなかった私は、彼の胸元に顔を埋めて答えた。
「結婚したいくらい、あなたが好きよ」
この先、どんな運命も、この人と分かち合いたいと願うくらいに。
私はどこよりも安心できる腕の中で、幸福な降伏の吐息をついた。
おしまい