邪ノ道ハ蛇 参
黒羽は、友人の煙ノ藍蘭と共に、香良洲枯森羅の入口に立っていた。
深夜の香良洲枯は、闇のせいか、無音のせいか、邪気や妖気がより強く感じられた。
常任には暗すぎる闇だが、黒羽にも、藍蘭にも関係はない。
この地域に、【煙ノ三兄弟】の名を知らない者はいない。
古くから最強と呼ばれ、数々の闇師を殺し、更に名高い術師を多く生み出した【煙ノ一族】。
その一族の中でも強大な力を持つとされる煙ノ劉嵐は、三人の子を産んだ。
藍蘭は、その三兄弟の長男である。
「随分と強い妖気だねえ」
葉巻に火をつけながら、藍蘭がのんびりと口にする。
闇の中でぼんやりと光る彼の藍色の髪は、腰の近くで軽く結われている。
「奥にいるのは二級以上の闇師かもねえ」
黒羽は、頷くことで同意を示した。
「今日の相手は蛇を使うんだろう?僕は蛇は嫌いだねえ」
悲しげに首を振り、ふわりと煙を吐き出す。
『煙ノ』一族とは言うが、全員が煙を操るわけではない。
むしろ、それ以外の術を使う術師が多い。
しかし、藍蘭は煙を操る。
もう一度煙を吐き出すと、指でそれを絡め取る。
その手をゆらりと黒羽に向けると、煙は黒羽に向かい、絡まり、そして吸収された。
黒羽の中に、何かが繋がった感覚が生まれる。
『聞こえるかい?』
頭の中に、藍蘭の声が入ってきた。
『この煙を纏っていれば、声に出さず会話をすることができる』
『・・・・・・知っている』
静かに答えれば、フフッと笑い声が聞こえる。
勿論、頭の中に、だ。
『そういえば三回目だったね。いや、君は変わらないね』
ふわりと笑みを浮かべ、また藍蘭は煙を吐いた。
「そろそろ行くか」
黒羽が口にする。藍蘭も頷く。
丑三つ時の香良洲枯に、二人は足を入れた。
黒羽と博蘭は途中で二手に分かれ、更に藍蘭の煙が邪ノ道への入口を探す。
『その入口はどう見つけるんだい?』
藍蘭は邪ノ道について何も知らない。
一方黒羽には、少量ではあるが知識が備わっていた。
『糸杉・・・・・・二股の糸杉』
『それが目印か。了解だ。
それにしても静かな森だね。不気味なくらいだ』
風の音も何もしない森では、静かな藍蘭の声が大きなくらいだった。
『生きている物の気配がない』
『僕もそう感じる。これも邪ノ道のせいなのかい?』
『恐らく』
『やっぱり、二級以上だね。
お・・・・・・』
不意に藍蘭が黙る。
『僕の煙が、見つけたみたいだよ。二股の糸杉。
君の近くだ。道のりを送る。僕もすぐに行こう』
藍蘭の声が消え、代わりに煙が漂い始めた。
黒羽の真横の道が煙に覆われる。
煙を辿ると、二股の糸杉が見えた。
ゆっくりと糸杉の下を潜ると、周りの景色が、一瞬にして消えた。
代わりに地面から出てきた糸杉で出来た道を、やはりゆっくりと歩くと、糸杉で囲まれた大きなフィールドに出た。
その中央に、大きな蛇を一匹従えた赤い髪の男。
「やっと来たか、霊剣士さんよぉ」
男はニヤリと笑うと、大蛇の頭を撫でる。