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黒翼  作者: 牛方巴
1/5

プロローグ

初ファンタジーとなります。

苦手な分野なので、おかしな表現、伝えきれない部分など問題点は多々あると思います。そのような場所はご指摘いただけると幸いです……

 暗い森には、悪寒がするほど不気味な邪気が立ち込めていた。

 

 もう百キロは歩いただろうか。黒羽(クロバ)は、森に入ってから初めて、その足を止めた。

 闇に紛れたヒトのにおい、闇に漂う邪気や妖気の中に、微かに紛れ込んだヒトの気配。黒羽の霊力は、それらをはっきりと察知していた。

 草が、木が、森が、震え始める。闇は、森の全てを支配していた。

 無意識で、背中の剣の所在を確認していた。黒羽だけのために作られた霊剣〝(ミオ)〟の柄は、いつも通り黒羽の手にぴたりとおさまった。

 気配が、近づいた。音はしないが、背後の茂みが動いたのを黒羽は感じ取った。

 右腕に刻まれた、あの恨めしき模様が光ったことは、夏場でも変わらない黒羽の紫と黒のローブの上からでもわかった。


 刹那、鋭い音が森を駆け巡る。

 茂みから飛び出してきた男が、空中で黒羽に術を放ったのだ。雷系の技なのだろうか、閃光が走り、不気味な光が黒羽に迫っていく。

 即座に霊剣を取り出し、光を切り裂く。ジュッという鈍い音がし、茶色い染みが剣に一瞬浮かんでは消えていった。

 術を破られたことに驚いたのか、男は着地の体勢を崩した。茂みは、まだ揺れている。

 柄を握り直し、黒羽は男に飛びかかる。

 男は黒羽を恐れるそぶりも見せず、しゃがんだ状態で右手を黒羽のほうへ伸ばすと、何かを掴むような仕草をした。濃紺のローブの袖はずり落ち、下に隠された模様を露わにする。着地の際にひねったのだろうか、左手は足首に添えられていたが、その下にも同じような模様があるのだろう。

 男は崩れた体勢のまま両足着地をしたので、両足とも使いにくいはずだ。そのことを把握しながらも、黒羽は己の優越を感じることが出来なかった。

 

 瞬間、空気がゆがむ。

 そこは、黒羽が居る、いや、直前まで黒羽が居たであろう場所。右手が何かを掴んだ瞬間、黒羽は感覚で右へ跳んだ。それが、黒羽の命を救ったのだ。 

 同じタイミングで、風で流れてきた木の葉が、誰かの代わりに潰れた。

 横目でその光景を捉えながら、黒羽は更に地面を蹴る。

 例え百キロ歩こうが、千キロ歩こうが、黒羽の瞬発力が衰えることはない。それは、脚力や体力においても同じだ。森に入る以前、村を出た直後と同じ動き、同じ速さで、黒羽は跳ぶ。

 再び伸ばされた男の手を払いのけ、剣を振るう。一気に距離を縮め、辛うじて届いた刃の先端が、男の胸をかすった。

 霊剣がつけた傷は浅かったが、流れる霊力がそれを深くする。男のローブを、濃厚な赤が侵食していった。

 

 男が倒れこんだ場所には、わずかに光が差し込んでいた。

 光に照らされた男の顔は苦痛に歪み、同時に姿形がはっきり見えてきた黒羽に対する恐怖も映し出していた。

 殺される

 そんな不安が、胸の傷をなぞるように堕ちていく。

 男は必死で黒羽を避けようとするが、体が動かない。動く筈もなかった。

 そんな男に御構い無く近づき、黒羽は両袖を切り裂いた。左右の腕どちらにも何の模様も浮かんでいないのを確認すると、黒羽は立ち上がって霊剣を男の喉元に突き付けた。

 彼の目からは、何の感情も感じられなかった。


「伊吹」

 感情のない、冷酷な声が、男の恐怖をさらに煽る。

 湿り気のある漆黒の髪、感情の読み取れない蒼い目、ローブの隙間から除く特殊な模様。

 そのすべてが、男を闇へ陥れている。

 これは、免れることのできない事実なのだ。

 感情のない、霊剣師・黒羽

 伊吹は、彼の手にかかってしまった。

 伊吹に残された道は、死、それだけ。


 空気を切り裂くような、尖鋭な音が森に響いた。

 暗い深緑に赤い跡を残し、黒羽はその森を去った。

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