ある朝の恋
「なんで起こしてくれなかったのよ」
そういって彼女は、毎朝僕を睨みつける。
「今日も学校遅刻しちゃうじゃんっ!」
手早く制服と学生鞄を用意しながら、イライラと頭をかきむしる彼女。
今朝でもう、一か月は同じ台詞を言われている。
夜寝るとき、「明日こそは起こしてよね」と言われる僕。
それに笑顔で頷く僕を見て、彼女は毎晩少し安心した顔をする。
そしていつも、裏切られる。
「なんでいっつもいっつも起こしてくれないの!?」
ぐしゃぐしゃになった髪の毛を手で整えながら、彼女が再び僕に尋ねてきた。
「だって、眠そうだったから……」
「そりゃずっと寝ていたいけどね!?起きなきゃダメなのよ!」
ああああっと天井を向いて咆哮したあと、ドアノブに手をかける彼女。
もう振り向いてはくれない。
「もういやっ」
バタン、と。
ドアが彼女の心を語るかのように閉められた。
毎日毎朝、こんな日々が続く。
僕が彼女を、言われた通りに起こせばいいだけなのだ。
寝相の悪い彼女をたたき起して、大欠伸をするのを眺めればいいだけ。
僕と彼女が同じ部屋で生活するようになった初日にしたように。
そうすれば彼女は、遅刻することもイライラすることもない。
僕も怒鳴られなくてすむ。
それでも僕は、彼女を起こしはしないだろう。
大欠伸をしながら君が呟いた一言が、忘れられないから。
「ねむたい」
だから僕は、今夜も君に約束する。
「明日は起こすよ」
そしてまた、裏切ろう。
「お母さん」
「あの目覚まし時計、やっぱ壊れてるみたい」
「今日、帰りに新しいの買ってくるわ」
思いつき短編でした。読んで下さってありがとうございます。