鋼の瞳
眼が覚めた。今日はいい感じの時間に起きれた。時間も申し分ない
居間には朝食が用意してあり、それを食べる。味噌汁が染み渡るようだ
「いってきます、今日も同じぐらいに帰ると思うから」
と言い、家をあとにする。
ここから学校までは20分ぐらい掛かる。今の時刻は7時10分
いつもと同じ時間に起きたのに出る時間が早くなっている
「・・・・もう年かな。月日が流れるのは怖いな」
学校に着いた。時刻は7時35分、周りにはいつも早い生徒しか見れない
教室のドアを開ける、まだ誰もいないよう・・・いや、この感じは
「よぉ、今日も早かったな。もう年なんじゃないか?」
祭、いちいち鋭いやつだ。そして、今日はもう一人いた
「そうだねぇ、千草くん時間に正確だけどいつも8時過ぎだったもん」
おっとりした口調で話してきたクラスメイトの女子。湯口 沙耶だ
彼女はいつも早いが、昨日は来る途中で一度忘れ物を取りに帰ったそうだ。彼女らしい。
僕と祭、沙耶はいつもつるんでいる。沙耶は小学3年からの付き合いになる
(たしか修学旅行もこのメンバーだったっけ・・・運命かな)
挨拶を交わし、自分の席に座り教科書をいれていく。ほとんど使わないのだが
持ってくるに越したことは無い、保険というやつだ。
「ところでよ、今日のニュース見たか?公園のやつ」
「ん?なんだよ、それ。」
「昨日またあったらしいよ、殺人事件。今度は隣町だってぇ」
そうだ、いつのと同じ時間に起きたけど早く出たんだった。
「で、内容は?また両腕がないとか」
「いや、今度はもっと酷いぜ。なんたって15人全員上半身右が抉られてたらしい」
―なっ!ありえない。とても人間のできることじゃない。
そいつは完全に狂っている。たぶん・・・
「次はここの町だよねぇ・・・たぶん」と、いきなり凄いことを言い出した沙耶。
「なんでそんなことわかるんだよ。ま、まさかぁぁぁ!!」
それを茶化す祭、こいつはこいつで馬鹿だ
「わわっ!そんなことないよぉ〜。ねぇ、式くんもそう思うでしょ?」
そろそろだと思っていたが話を振られた。確かにそうだろうがしかし・・・
「まさか・・・そんなことだったなんて・・・」
「わあぁぁぁ、二人がいじめたぁぁ・・・・」
ホントに泣き出す沙耶、まるで変わらない。あの日々とまったく同じ風景
そのときがいつまでも続けばいいのにと願ったあの時間。今更だな
「おい、どした。またボケたか」
祭と・・・沙耶と・・・・僕と・・・あれ、あと一人。誰だ、記憶にはある
そう、記憶にはあるんだ。でも、わからない。
「なぁ、あと1人。あと1人いつも一緒にいたよな。中学のときまで一緒に」
「え、あ・・・たしか。高校入学と同時に引っ越したんだよ。風鳴に」
そうだったのか、すっかり忘れていた。あんなに・・・あんなに時間を過ごしたのに
人間っていうのはこうも都合よくできてるのかな。
「名前は・・・あぁ・・・雛見だ、雛見 向」
「あ、そうだよぉ。読み方解からなかったからコウちゃんって読んでたんだっけ」
そうだ、彼だ。今なら彼の顔を思い出せる。よかった、ホントによかった
そう思うと心が開放されるようだった。
「たしか妹もいたんだよねぇ〜、いつも式くんにべったりで」
「そうだったな、向より好いてたからな。」
「し、しかたないだろ。ほっとけないだろ?」
顔を赤らめる。さすがに恥ずかしいさ、思い出だとしても恥ずかしい
そうさ、忘れたってあるんだ。思い出はいつもそこに、仲間がいるんだから。