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雨降る世界のこちらから

作者:
掲載日:2026/08/20

武 頼庵(藤谷 K介)様の【みずに纏わる物語企画】参加作品となります。


企画、運営して頂き、ありがとうございます。

 夏だと言うのに、雨のせいで肌寒くて。半袖のポロシャツから伸びる腕に、僅かに浮き出る鳥肌。

 小さな抵抗で、両腕を手で(さす)る。

 可愛くないけれど、スカートの下に体操着を着ていた友人の気持ちが理解出来てしまう。


「先輩……いますか?」


 校舎の三階。端の小さな教室に割り当てられた生徒会室。

 そこには、いつもの定位置に座っている三年の先輩。

 優しくて、つい頼ってしまう雰囲気。私も生徒会長という肩書が着けば、先輩みたいになれるのだろうか──なんて淡い期待なんかして。


「あれ……どうしたの。今日、生徒会は休みって連絡した気がしたけど」

「先輩だって生徒会室に来てるじゃないですか」


 先輩が座る、斜め前。私の定位置に腰かける。

 先輩は雨降る窓の向こう側を見続け、私はその横顔を眺める。窓に雨が打ち付ける音と、エアコンの僅かな機械音。

 静寂に近い生徒会室の中で、私から先輩に話しかける。


「先輩。私……気持ち、伝えてこようかと思います」


 そう口にした瞬間、取り返しのつかない事を、選択肢を間違えたような気がした。

 言うべきだったのは、違う言葉だったのではないか。

 しかし、吐いた言葉は取り消せず。


「君が、ずっと話してくれてた『先輩』に、ってことだよね」


 窓から視線を外し、私へと向けた先輩の表情はどこか辛そうで。

 いつもの私なら、無遠慮にその理由を問いただしていたはずなのに。今日の私の口は開くことを拒み。唾を飲み込む回数だけが増えていく。


「はい! 今まで、相談乗って下さってありがとうございました」


 先輩へと頭を下げる。

 そうやって、一歩、また一歩、告白へのカウントダウンが近付いていくと胸が苦しくなる。

 緊張、だろうか。いや、そんな純粋な痛みじゃない。

 

「ははっ。これで君の『自慢話』も聞かなくてよくなるのかな?」

「いえ! 明日からは『惚気話』に付き合ってください!」


 何故だろう。

 明日。この時間に、この生徒会室に、先輩の姿はない気がした。

 私の表面はいつも通りなのに。心の内が警告を鳴らす。

 後悔。そして、自責の感情。

 

「せ、先輩──」


 何か言わないと。何か……何を?

 自分の気持ちにすら答えが出せず、まるで金魚のように、開いては閉じるだけの情けない私の口。


「告白、頑張ってね」


 先輩が応援してくれる。

 嬉しいはずなのに。私の心は、その声援を拒絶する。


「成功することを僕も陰ながら応援してるよ」


 背中を押さないで下さい。

 私の心が、嫌だ嫌だ、とまるで子供のように。


「先輩! 行ってきます!」


 生徒会室への滞在時間なんて、たったの三十分。でも、授業の三十分とは違って一瞬で過ぎ去ってしまって。

 窓際から、部屋を出ていく私を見送る先輩。

 先輩の表情を、正面から見る機会はもうない気がする。そんな、根拠もない予想。

 私は生徒会室の扉を静かに閉める。

 廊下では、遠くから生徒の笑い声が聞こえ、生徒会室より圧倒的に賑やかなはずなのに。冷たさが身体を覆う。

 重い足取り。

 告白へのプレッシャーか。

 いや、足が重い訳ではなくて──引かれる後ろ髪から目を逸らし、私は『先輩』と約束した場所へと向かう。


***

 大雨。

 一世一代の告白は、蓋を開けてみればあっけなく成功し。そのはずなのに、私の心は、目の前に広がる景色の様で。


「人、多いので少し先で待ってますね」


 関係が彼氏となった人へと声を掛ける。ずっと好きだった人。そのはずなのに。

 色とりどりのマーブル模様の傘。妹からプレゼントしてもらった私の宝物。高校生にしては可愛い過ぎるその傘を開き、雨降る外へ。

 そう言えば、先輩にも、この傘を可愛いと言ってもらったことがあったな──なんて思いながら校舎へと振り返る。

 校舎の三階。端の小さな教室に割り当てられた生徒会室。

 そこには、窓際で外を眺める先輩のシルエットが見えて。

 

 『可愛い傘だね』


 いつだったか、そう笑ってくれた先輩の声を思い出す。

 今日だって、最後まで私の背中を押してくれた。

 なのに。


「あぁ……そっか」


 始まりは、恋愛相談。生徒会の仕事も相まって、先輩との時間は増えて。

 私は、私の気付かぬうちに。好きな人を言い訳に、先輩との時間を増やして。

 ずっと……ずっと前から私は──。


「ごめん、お待たせ。帰ろっか」


 緑色の傘を持った彼氏。そんな、記号のような人を前に、私は表情だけでも笑顔を向ける。


「はい。早く、帰りましょ」


 後から気付いてしまった後悔から目を逸らすように、私は学校を後にする。

【雨降る窓の向こう側】も併せて読んで頂ければ幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
いや、これもう連載形式かシリーズ化にするしかないのでは……ʕ•ᴥ•;ʔ このあと、告白された男子側の視点も書いて── で、さらに完結編とか。 好きじゃない人と付き合っても上手くいかなくなっていくのは …
 読ませていただきましたぁ  どうして先輩に告白するって報告に行こうと思ったのかですよね。そこからたぶんこの恋の結末は見えていたんじゃないかなぁって、個人的には思うんですが、その時には気が付いてなか…
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