選択1
「かごめ、かごめ……」
あの日、私の世界はその歌声だけで完結していた。
村の広場。午後の柔らかな陽光が、地面に描かれた歪な円を照らしている。私は円の中心でうずくまり、両手で目を覆っていた。遮断された視界の裏側で、友だちの足音が砂を噛む音、幼い喉から溢れる無邪気な旋律、そして遠くで鳴く鳥の声が、心地よいリズムとなって私の意識を包み込んでいた。
「籠の中の鳥は、いついつ出やる……」
この歌が、自分たちの運命を暗示しているなど、誰が想像できただろう。私たちはムーの、この穏やかな大地という「籠」の中で、永遠に守られた雛鳥でいられると信じて疑わなかった。
歌が終わる。最後の一句が、誰かの悪戯っぽい声で響く。
「後ろの正面、だーれ?」
私はゆっくりと手を離し、立ち上がった。期待に胸を膨らませ、振り返る。
だが、そこにいたのは、さっきまで笑い合っていた友だちではなかった。
――「白」だった。
それは、この世のどんな太陽よりも眩しく、そしてどんな氷よりも冷徹な、強烈な白。アトランティス軍が放つ、理解を超えた科学。
光。
刹那、空が引き裂かれるような轟音が世界を貫いた。機械的で、無機質で、生命の介在を一切拒絶するような不快な高周波。
「……ッ!」
悲鳴さえ上げられなかった。
爆風が広場の砂を巻き上げ、友だちの姿を霧散させる。逃げ惑う大人たちの怒号、崩れ去る家々の音。平和だった「籠」は、外側から飛来した圧倒的な暴力によって、一瞬にして粉砕されたのだ。
「 走れ!」
誰かに強く腕を引かれ、体が宙に浮いた。屈強な戦士か、あるいは必死な親だったのか。私の視界は激しく上下に揺れ、流れる景色の中へ放り込まれる。
ふと見上げると、村の空には黄金色の、淡く黄色い光の膜が展開されていた。
ムーの防衛陣が展開した、空間共鳴型のバリア。アトランティス軍が撃ち込む白い光線がその黄色い膜に触れるたび、幾何学的な紋様が空中に浮かび上がり、火花となって散っていく。
「白」はすべてを塗りつぶし、均一化しようと迫り、「黄」は多様な命を守ろうと必死に空間を繋ぎ止めている。その激突の真下に、私たちはいた。
「どうして……?」
その問いは、轟音にかき消された。子供の私には、なぜ彼らが攻めてくるのか、なぜ私たちが殺されなければならないのか、その「理屈」は一つもわからなかった。ただ、あの白い光の奥に潜む、冷たい意志への本能的な恐怖だけが、小さな心臓を握り潰していた。
逃げる群衆の流れに逆らって、戦場へと向かう者たちがいた。
「私」を抱えて走る者の肩越しに、その姿が見えた。
彼らは、私が知る「人」の姿をしていなかった。
あるいは、それこそが生命の本来の、多種多様な美しさだったのかもしれない。
黄金のたてがみをなびかせ、大地を爆走する、筋骨逞しい馬のような者たち。その蹄が地面を蹴るたびに、バリアを補強する力強い振動が伝わってくる。
全身を虹色の鱗で覆い、杖を高く掲げる爬虫類のような賢者たち。彼らが発する低い「声」は、アトランティスの機械音を中和し、空間を癒していく。
そして空には、巨大な翼を広げ、白い光線の雨の中を恐れることなく突き進む、鳥の化身のような戦士たち。
彼らは、ある者は吠え、ある者は歌い、ある者は無言で、死地へと急いでいた。
「馬」が私と目が合った。その力強い瞳には、恐怖ではなく、託された命への深い愛が宿っていた。
「爬虫類」の賢者が、走り去る私に向けて、わずかに手を振った。
彼らは知っていたのだ。この戦いが、単なる領土争いではないことを。
これは、生命という多様な輝きを守るための、防衛線であることを。
「私」を運ぶ足取りは、いつしか深い森の中へと入り込んでいた。
背後で鳴り響く白と黄の衝突音。
多様な仲間たちが散っていく気配。
私は、涙で歪む視界の中で、遠ざかっていく「黄色い光の籠」を見つめ続けていた。
その先に、私の命を預かることになる「あの人」が待っていることも知らずに。
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