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見知らぬ空間で

「何をする!」


 強い光に目を眩ませたエアハルトは、次の瞬間には、気づくと知らない空間にいた。

 どこまでも続く果てのない真っ白い空間に、驚くエアハルトの前に、見知らぬ男がいた。


「ここはどこだ?」


 エアハルトは己と相手しかいない空間に普戒しながらも、男に問いかけた。


「ここは、世界と世界の狭間の空間だ。私は地球の神。お前が我らが世界、地球に降り立つ前にいくつかの説明をするため、一時的にここに呼び出した」

「世界の狭間? 地球? 一体どういうことだ。私は確か、城で聖女召喚を行っていたはず」

「そして何が起こったか、覚えているか?」


 神と名乗った男に問われて、エアハルトはその時のことを思い出した。

 国を教うため、悲願ともいえる聖女召喚を強行し、そして成功した。召喚の光が落ち着くと、陣の中には変わった服装をした年若い少女が立っており、古文書にあった通りの黒髪黒目の少女の降臨に聖堂は沸いた。

 エアハルトは少女を怯えさせないようにと、素早く前に出ると、己の名を告げ、国の救済を願い出たのだ。そして。


「聖女様から指を向けられ、そして、魔法陣が」

「そうだ。お前は彼女の神意スキル、異世界転移によって、異世界に飛ばされたのだ」

「は?」


 神の言葉に、エアハルトはぽかりと口を開け固まった。

 王太子としてあるまじき行為だったが、それほどにエアハルトが受けた衝撃は大きかった。優秀な脳が言葉を理解し、現状を理解したが、心はそれを拒絶した。


「お前がこれから降り立つのは、その聖女が元居た世界、地球だ。そこには魔法を魔物もないため、お前が混乱しないよう、神である私からある程度の説明をすることとなった。これは、そちらの世界の女神の願いだ」

「ま、待ってくれ!」


 淡々と話す男の言葉を、エアハルトは遮った。


「何故、私が異世界に飛ばされなければならない。貴方が神というのなら、今すぐ元の世界に戻してくれ。私は、しなければならないことがたくさんあるんだ」


 焦りながらエアハルトは神に懇願した。


「我が国シュテルンは今、厳しい立場に置かれている。国が一丸となって立ち向かわなければ、民が苦しむことになるのだ」

「無理だ」


 エアハルトの懇願を、神は一蹴した。


「何故!」

「人間の体も魂も脆い。世界を超えることは負担がかかる。その負荷に耐えられるのはせいぜい一回。次に世界を超えたら、お前の体も魂も消滅するだろう」

「そんな……」


 嫌がらせでもなんでもいない理由に、エアハルトは呆然とした。


「何か、何か方法はないのか」

「ない」

「貴方は神なのだろう。ならば」

「神だからといって、なんでも出来るわけではない」


 神の言葉に、エアハルトは崩れ落ちるように膝をついた。


「何故、私なんだ。私にはこれから国を守り立て直すという使命がある。こんなところにいるわけにはいかないのに。何故」


 エアハルトの脳裏には、幼い弟の姿が浮かぶ。

 エアハルトは三兄弟の真ん中だった。弟王子はまだ十歳に満たない。今、自分がいなくなれば次の立太子は弟になるが、どれだけ早くとも五年はかかるだろう。

 何より、まだ幼い弟に全てを押し付けることになってしまう。それだけは、エアハルトが絶対に避けたいことだった。


(私が、私が立て直さなければならないのに)


 未だに現状が呑み込めず、何故こんなことになったのかということばかりが頭を駆け巡る。


「聖女様は何故こんな惨いことを」

「何故何故うるせえ。単に報復されただけだろうが」


 額に手を当てて苦悩していたエアハルトに、苛立たし気な声が投げかけられた。荒々しくなった口調が、神の怒りを表しているようだった。


「報復?」

「勝手に異世界に呼び出されて、一生帰れませんって立派な犯罪だろ。だから相手がキレてやり返された。ただそれだけの話だ」

「……そんなことで?」

「はあ、お前さあ」


 神は呆れの滲ませたため息をつき、改めてエアハルトと向き合った。


「さっき自分で惨いことって言ってただろう。それが相手にも当てはまるってどうして思えないかな。聖女様は自分たちの願いをなんでも叶えてくれて、救ってくれる都合のいい存在だとでも思ってるのか? そんな彼女たちはどこからくる? 神の世界か? 神だってそんな都合のいい奴いないぞ」


 言われたエアハルトは、呆然と神を見上げていた。


「お前たちの行ったのは聖女召喚という名の、異世界召喚だ。聖女として適正の高い少女を異世界から適当に見繕って強制召映する、いわゆる誘拐。禁術扱いだったのはそのせいだ。大昔、国のためと言って異世界の少女を馬鹿みたいに召喚しまくっていた時代があったからな」

「なっ」

「聖女たちがみんな喜んでお前たちを救いにやってきてるとでも思ってたのか? 都合良すぎるだろうが。貴方を救いに来ましたって異世界から美少女がやってくるって、どんなご都合小説だよ」

「ですが、古文書には、救国の聖女が現れると」

「その古文書書いたやつが昔の妄想野郎だったんだろ。大昔も聖女として誘拐されて喜んだやつもいれば悲しんだやつ、絶望したやつだっていた」


 神の言葉はどれも正しく、エアハルト心に深く突き刺さった。


「今回お前たちが召喚した少女にだって、元の世界では家族も友人もいたし、将来の夢も希望もあった。それらを全て奪ったうえで、自分たちを救って欲しいと願うことの傲慢さに気づかず、その恩恵を当たり前のように享受しようとしたことの代償だと思うんだな」

「代償……」

「あの子は、女神から与えられる恩恵の全てをお前への報復へ振り込んだ。あの子自身、その結果をこれから受けることになる。お前も、己の行為の結果を受け止めるんだな」


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― 新着の感想 ―
地球から誘拐されてるのに倫理観終わってる相手にちゃんと説明してくれるし地球の神様すごくえらい! 王子がスラムのど真ん中に墜ちますように……
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