二人目が欲しいと言ったら、「あなたが産めばいいじゃない」と妻に特殊性癖BL本(男性妊娠系)を渡された。勘弁してください!
※タイトルにBL本って入ってますが、内容はBLじゃないです。
俺は、割合いい夫だと思う。
結婚前にした約束。家事はできる方ができることを分担する、というのを守ってるし。
妻ができないときは、家事をやってやってるからな。
妊娠中はいつも怠そうにしていたから、家事は俺がやってあげた。食事も作れないというときには、仕方ないから外食や総菜を買って済ませて。妻がこれなら食べられそうだというものを、わざわざ買いに行ってもやった。
子供が生まれてからは妻はいつも目の下に隈を作り、いつ見ても不機嫌そうだ。もっと身形に気を遣えばいいのに。
それに、ちょっとしたことで酷く怒ったりして、気が滅入って面倒だったが……これが、子育て中のガルガル期かと見守ってやった。
子供も、ようやくよちよち歩きができるようになって。抱っこする時間が減って手が掛からなくなって来た。
そんなとき、ふと思ったので言った。
「そろそろ、二人目が欲しいな。どうだ?」
すると妻は、
「ふふっ、ちょっと待っててね?」
クスクスと笑いながら部屋へ行き――――
「はい、これ読んで勉強してね?」
「は? って、なんだこれはっ!?」
俺に、所謂薄い本と称される……BL本を恥ずかしげも無く渡して、言った。
「わたしね、知ってるの。世の中は男女平等を謳っているけど、そんなのただの綺麗事だって。真の男女平等など、存在しない! そう、真の男女平等という世界を創り上げるには、男が妊娠出産をすべきなのよ! そうでなければ、平等足り得ない! というワケで、二人目が欲しいならあなたが産めばいいじゃない」
瞳孔のカッ開いた漆黒の、深淵を思わせる昏い目で笑いながら!
「はあっ!? 男が妊娠できるワケないだろっ!? なに言ってんだよっ!?」
「あら? 知らないの? 理論上は、男も妊娠して出産することは可能なのよ? もう、牡のマウスで臨床実験がされていて、牡のマウスの出産成功確率は約4%にもなるそうよ? もう既に、クローン人間が誕生しているんですもの。人間の男が、実際に子供を産めるようになるまであと数歩という段階に来ているはず! というワケで、それ読んで勉強してちょうだいね?」
「いやいやいや、ちょっと待てよっ!? 4%ってなんだ4パーって! あとの96パーどうしたっ!? 残り96パーは失敗してんじゃねぇかよっ!? つか、その96パーって生きてんのかっ!?」
「さあ? 知らない。成功が4%……研究論文には、そこまでの記述しか載ってないみたい」
「はあっ!? じゃあ、残り96パーのネズミは死んでる可能性もあるってことだよなっ!? そんな危険なことできるかっ!?」
「なに言ってるの? そもそも、太古の昔から妊娠出産は命懸けなのが当然のことよ? 文字通り、女は自分の身を削って我が子に、自分の命を分け与えて、お腹の中で育てるの。そして、命懸けで産む。妊娠出産が、死と隣り合わせなのは、ネズミも人間も変わらないことよ」
妻は、ぞっとする程冷静にそう返した。
「ねえ、なんで女性に骨粗鬆症が多いのか知ってる? 子供に、自分の血肉や骨から栄養を削って与えるから。その分、骨が脆くなるの。妊娠出産を繰り返すと、寿命が削られて行くの。それで、命懸けで産んで、更に母乳を与えるの。知ってる? 母乳って、母親の血液から作られるの。乳離れするまで毎日、血を我が子に分け与えるの。母親って、そうやってぼろぼろになって子供を育てるの」
そう、だったのか? 確かに。毎日つらそうにしているとは思っていたが、そんなの全く知らなかった……
「それを、『女は子供を産んでこそ一人前だ』とか宣う男は、自分も一度くらいは出産を経験してみればいいと思うの。子供を産んだら一人前になれるんでしょう? なら、男は半人前ってことでしょ。それにほら? 父親って、産まれたばかりの赤ちゃんには母親程に深い愛情を持てないって言うじゃない? でも、自分のお腹で育てて、痛めて産めば、子供にすっごく深く愛情を注げるようになると思うの。だから、二人目が欲しいならあなたが命懸けで産んでちょうだい? 大丈夫。子育ては二人でしましょうね? 今のあなたみたいに、自分の気が向いたときだけ子供を可愛がるような真似はしないわ」
漆黒の、光を吸い込むような深淵がじっと俺を覗き込む。
「ほら? これを読んでお勉強しましょう? 確か、ドラマもあったわよね? 男の人が妊娠できるようになったという世界のドラマ。後で一緒に見ましょうか?」
と、特殊性癖BL本(男性妊娠系)っ!? が差し出される。
そして、俺は――――
「すみませんでしたっ、勘弁してくださいっ!!」
と、心の底から土下座した。
それから、必死に妻の機嫌を取って以前よりも家事をしたり、子供の面倒を見ているが……全く許された気がしない。
お願いだから会社用の鞄の中に、特殊性癖BL本(男性妊娠系)をブックカバー無しの剥き出し(肌色成分多め)……かと思ったら、透明ブックカバー掛けて保護済みだった! 状態で忍ばせるのは、本当の本当に勘弁してください! 誰かに見られたら俺、もう会社行けなくなるから!
二人目……とも、もう気軽には言い出せない。
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
なんか、思い付いてしまったので……(*>∀<*)
まあ、真の男女平等を謳うなら、男が妊娠出産してみるしかないよねー? とは、結構本気で思ってます。陣痛に耐えられるのかとか、技術や身体構造的にどうなん? というのはひとまずおいといてですけど。ꉂ(ˊᗜˋ*)
世界三大激痛の一つ、尿管結石を経験した経産婦の方いわく、尿管結石の方が陣痛より痛かった(個人差はありますが)とのことなので、多分男も陣痛に耐えられるでしょう。死ぬ程の苦しみらしいですが。それとも出産は帝王切開になるのかな? よくわかりませんけど。
とりあえず、現在は『男女平等』という言葉が夢物語なことは確実でしょう。
あと、牡のマウスでの実験はマジで4%が帝王切開で出産に成功したらしいです。残りの失敗した96%がどうなったのか、という記述は本当に載ってないそうなので真相は闇の中なんですが……
命を落とすかもしれないという覚悟で女性に子供を産んでもらっているということを、男性はもっと自覚すべきだとも思いますね。奥さんを労らない旦那とか、マジでクズだし。
※子供を産む産まないは個人の自由なので、『子供を産まなければ一人前~』どうこうは、全く関係ないと思ってます。
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