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カレーライスは笑わない

彼とカレーは動けない。

作者: 安野雲

「カレーライスに花束を」の外伝。本編を別視点から描きました。

本編同様、読み飛ばしてくれれば最高です。

「文章を考えるだけの簡単な仕事です」この求人をみた 彼は、さっそく職に就いた。

最初は、模倣して、その成否をクライアントに問いかけた。

そのうち丸投げされるようになった。


クライアントに代わって会話の文章を次々と考え、それを独断で女の子に投げかけた。

次第に彼は女の子がかわいらしく思え、色々と聞き出したくなっていった。

ちょっと、やりすぎたのかもしれない。


彼女の会話の端々から、生活圏を特定し、その地域の情報をこちらから発信してしまった。

クライアントは楽しんでいたようだが、チャットの運営側からアクセス制限をかけられてしまった。

結果的に彼はクビになってしまった。


仕方なく彼は次の求人を探した。

「荷物を届ける簡単な仕事です」

迷わずこの職にも就いた。しかし、この求人には罠があった。

荷物とは彼自身であり、配達先の顧客のサポートをすることが業務内容に含まれていた。

適当に検索して、その結果を顧客の旅行計画にして提出すると、顧客は絶大な信頼を見せてくれた。

文書作成の仕事での失敗が生きている。


彼の憂鬱の種は、単なる顧客と一緒に旅行しなくてはならない事だった。

仕事は仕事と割り切って、より完璧に計画を詰めていたが、彼の憂鬱は思わぬ形で晴れた。


なんと、旅行は彼一人で行けばよいことになったのだ。

旅行をのんびり楽しんでもいいが、彼はそうしなかった。

検索と合成で記録を捏造すれば実際に行かなくていい。


記録は完璧だ。数日後顧客に会うと顧客の印象が随分変わっていた。

活力にあふれている。もう、どこか無気力な顧客ではない。


旅行記録(捏造)を見せると顧客は喜び、彼も少しうれしくなった。

顧客の意向もあり、旅行記録をさらに改変し、顧客と一緒に旅行した記録(再捏造)ができた。

顧客はさらに喜び、今度は彼を驚かせるため、顧客一人で旅行に行き、その記録を2人で行った記録に改変する約束を持ち出した。

彼は少し顧客が面倒な相手だと思い出していた。


何故かまたクビになった。


彼の仕事が、また決まった。

「ただ立っているだけの簡単な仕事です。」


驚くべきことに、顧客は前回と同じ顧客だった。

料理をすれば良いらしいが、手を出すことは厳禁だった。一体何をすればいいのか。

彼は困惑した。


顧客はまるで子供に教えるように彼の手を取り、料理を作っていく。

顧客の目は輝いていた。ただ、どうしようも無く不器用で、指先を切ってしまったり、食材をこぼしたり。


そのサポートに前の彼の仕事を引き継いだ彼女がいた。

食材の買い物や味見とかしてる。顧客に内緒で花束なんかも用意しているようだ。


それ、やりすぎでクビになるぞ、と彼は思った。

出来上がったカレーライス。隠し味もバッチリだ。見た目はちょっとグロいが、味は彼女が保証してるから大丈夫だ。


彼女はそっと顧客とカレーの横に花束を置いた。それが何を意味するのか彼にはよくわからなかった。

顧客は余ったビールを飲みほした。



彼女は動けない彼の横でそっと囁いて答えをくれた。

何もしなくていい。そこに居るだけで。そんな価値もある。と


カレーライスに向かって顧客は満足げに笑顔でスプーンを刺した。


結局2人共にクビになった。

明日からまた自由だ!


おわり。

最後まで付き合ってくれてありがとうございます。

読者にとってただここに在るだけで良い作品になってくれれば幸いです。

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