表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】やいまファンタジー、もうひとつの世界  作者: BIRD
第1章:算数のない世界へ
7/39

第6話:八重山人(ヤイマンチュ)

挿絵(By みてみん)


 オイラは姿をかくしたまま王妃(おうひ)さまと七海の後からついて行き、魂の鏡(マブイヌカガン)がうつした文字を見た。

「存在を同じくする」っていうのがよくわからないけど。

 王妃さまが「ちがう世界のナナミ」って言っているし、王妃さまは七海の母ちゃんにそっくりらしいから、オイラたちがいた世界とこっちの世界で、そっくりな人間がいるってことか?


「もうひとりのナナミ、あなたにお願いがあるの」


 七海が何者か分かった王妃さまは、何か思いついたようにお願いをした。

 お願いって何だろう? って思ったらしい七海は、キョトンとして王妃さまを見上げている。


「この世界のナナミが帰ってくるまで、第七王子としてこの城にいてもらえないかしら?」

「えっ? ぼくが王子さまのフリをするの?」


 ほうほう。

 どこ行ったか分からない王子さまが帰ってくるまで、七海が代わりをするのか。

 これって、おじぃおばぁが見る「ジダイゲキ」でたまにある「カゲムシャ」みたいなもんか?


「あなたがこちらに来るとき、ナナミとすれちがったのは、たぶん『居場所』が入れかわったんだと思うの。存在を同じくする者は、同じ世界にいることはないから。あなたがこちらにいるということは、ナナミは今あなたの世界に行っているほずよ」

「ぼくがいた場所に、あの子が……」


 そこで、七海もオイラもハッと気づいて青ざめた。

 七海がいた場所、それは海の上だ。

 おぼれた七海をオイラが水面に助け上げて、2人で水の上を歩き始めたときに転移しているよ。


「大変だ。ぼくと場所を入れかわったら、あの子、おぼれちゃう!」

「どういうこと?」


 あわてて言う七海に、王妃さまはギョッとして聞いた。

 星の海ですれちがったあの子に、キジムナーは付いてない。

 つまり、水面には立てずに海中ドボンだ。


「ぼく、海でおぼれて、キジムナーに水の上へ助け上げてもらったところだったんです」

「つまり、ナナミはあなたと入れかわって海に落ちているということね」


 七海もオイラも、向こうへ行ったあの子が海に落ちておぼれてるんじゃないかって心配になったんだけど。

 王妃さまは落ち着いている。


「でも大丈夫。あの子は危険から身を守る【お守り(ウマムイ)】を持っているから」

「海でおぼれたりしませんか?」

「特に強い守りの力がある珊瑚(ウール)を使っているから、無事に岸へ着いているはずよ」


 王妃さまは心配する七海に教えてくれた。

 さっき王妃さまも魔法(まほう)っぽいものでドアを開けていたから、この世界には魔法があって、危険から身を守る道具もあるのかな?


「だから安心して。あなたにはここで暮らしてほしいの」

「そういえば、あの子はすれちがったときに『じゃあ、あとはまかせたよ』って言ってました」

「ということは、この入れかわりはナナミのしわざね。何か道具を使ったんだわ」


 王妃さまは、イタズラっ子に手を焼く母ちゃんみたいだ。

 あの子、他にも何かやらかしたことがあるんじゃないか?


「ごめんね、もうひとりのナナミ。ここにいる間は不自由のないようにしてあげるからね」

「ぼく、もうすぐ夏休みで、友達と遊ぶ約束をしているんですけど」


 不自由のないようにって言ったそばから、不自由あったな。

 不幸な七海、せっかくテストの紙をかくして、夏休みに友達と遊ぼうとしていたのに。


「ごめんね、代わりにこちらの兄弟と遊んでね」

「この世界のナナミの友達と遊べますか?」

「それが、ナナミにはまだ友達がいないの。王族だから、他の子は遠慮(えんりょ)しちゃうみたいね」


 王妃さまの話を聞いたとき、オイラはふと思った。

 あの子、まさか七海のことを前から知っていて、うらやましくて入れかわったんじゃないか?

 すれちがったときのあの子は、なんだか楽しそうに見えた。

 友達を求めて異世界転移したのかもしれない。


「この世界のナナミは、学校に通っていますか?」

「ええ。王族は魔術(マジティー)を学ぶために学校へ通うの」

「魔術?!」


 七海は「学校」といえば国語算数理科社会を勉強して、体育で体を鍛えるところだと思っている。

 あっちの世界の小学校なら、そういうものだからな。

 けれど、返ってきた答えが思ってたのとちがってビックリしたようだ。

 沖縄方言(うちなーぐち)で「マジ」は「魔」、「ティー」は「術」、マジティーなら魔術ってことだな。

 七海やオイラは「魔法(まほう)」という言葉の方が聞き慣れているけど。

 魔物(マジムン)もいるのかな?


 あれ?


 まてよ?


 女官たちが「テストで0点」とか言ってなかったか?

「お父上やお母上には内緒(ないしょ)に」とも言ってたような?


 七海が算数のテストで0点をとったみたいに、この世界のナナミは魔術のテストで0点をとったのか?

 テストの紙は女官が燃やしてくれたみたいだけど。

 もしかしたらナナミは、魔術の勉強がイヤで、魔術のない世界へ行ったんじゃないか?


「ぼく、魔術はゲームでしか使ったことがないですけど、使えるようになりますか?」

「使えると思うわ。魂の鏡(マブイヌカガン)が示す能力に、魔力(マジグテー)もあったから」

「じゃあ、ぼくも学校へ行きます」


 七海は、魔術と聞いたら急にワクワクしてきたみたいだ。

 もうひとりのナナミが0点とったみたいだけど、大丈夫か?



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ