第4話:召し上がれ(オイショーリ)
やあみんな、オイラはムイだよ。
姿をかくして七海たちの後からコッソリついていったオイラは、だれにも気づかれずにお城の中を歩いているんだ。
七海は知らない人たちに知らないところへ連れていかれて、ちょっとこわがっていたな。
でも、あの人たちは七海に悪いことをする気はないから、心配しなくていい。
オイラはそれよりこのお城が気になるんだ。
こんなお城は、オイラと七海が住んでいる島にはなかったから。
七海といっしょにいる女の人たちは「女官」ってよばれる、お城で働く人たちだと思う。
そんな仕事をしている人は、オイラたちの島にはいなかった。
だから、ここはどこかちがう島、たぶん、ちがう世界だと思う。
その世界に七海そっくりな子がいたのは、どういうことなんだろう?
オイラは七海がおふろへ連れて行かれるのを見たあと、そっとはなれてお城探検に出た。
このお城、人間たちの図書館にある絵本で見た首里城に形がにているよ。
でも、色はちがうな。
絵本の首里城は赤い色をしているけれど、このお城は青色だ。
本に書いてある絵で見ただけだからよく分からないけど、もしかしたら大きさもちがうかもしれない。
お、なんかいいにおいがするぞ。
魚で作るスープのにおいだな。
オイラは魚が大好物なんだ。
においがする方へ歩いていくと、魚と水を入れたナベが火にかけられている部屋があった。
大台所っていう部屋だな。
たしか、王さまとその家族の食事を作る場所だ。
大きなナベの中には、丸ごとの魚が入っている。
赤色の魚は、アカマチかな?
あれはスープにするとうまいんだ。
オイラの島の人たちは、アラでスープを作っていたな。
このナベに入っているのは、アラじゃなくて丸ごとの魚だから、食べごたえがありそうだ。
魚のスープを作り終えると、男の人たちは別の作業をするためか、どこかへ行ってしまった。
よし、今がチャンスだ。
オイラは近くに置いてあった竹串を使って、皿に置かれた魚から左の目玉を引っこぬいた。
それから、フーフー息をふきかけて冷ましてから、竹串からはずして口にほうりこんで食べた。
魚の目玉は、キジムナー族にとってはごちそうだ。
うん、うまい。もう1ついただこう。
火がとおった目玉は、竹串を刺せばカンタンにホロリと取れてくる。
2つ3つ魚の目玉を食べ終えたころに、男の人たちがもどってきた。
オイラは姿を消しているから、見つかることはない。
「あれれ? この魚、目玉がなくなっているぞ?」
……まあ、魚は見つかるけどな。
皿に盛った魚を見て、男の人の片方が首をかしげた。
「ナベから出すときに、はずれて底の方へ落ちたんじゃないか?」
もう1人がそう言っている。
……うんうん、そう思ってくれ。
オイラはコソコソと調理場を出た。
お腹もほどよくふくれたし、探検の続きをしよう。
オイラは見つからないのをいいことに、どんどん歩いていった。
並んでいる柱にきれいな絵が書いてあるところまで来たとき、後ろから女の人があわてて走ってきた。
あの人、七海といっしょにお城まで来た人たちの中にいたな。
なにをあわてているんだろう?
女の人はオイラに気付かずに通り過ぎていく。
「御妃さま、お伝えしたいことがございます」
「入りなさい」
女の人はあざやかな色で花の絵が書いてあるドアの前まで行くと、コンコンとドアをノックして言った。
返事をする声が高いから、中にいる人も女の人かな?
御妃さまって呼ばれているから、王妃さまだな。
七海はお金持ちが建てた大きな家だと思ってるみたいだけど、ここはまちがいなくお城だ。
なんの話をするのかな?
オイラは部屋に入る女の人の後ろについて、コッソリ中に入った。
姿を消しているから、2人とも全く気付いていない。
「何があったのか、話しなさい」
「はい。さきほどシロマさまがお帰りになられたのですが、自分はシロマさまではないとおっしゃられるのです」
「まあ。どうしてそのようなことを言い出したの?」
話をする女の人たちは、王妃さまと女官だ。
たぶん、あの男の子は王妃さまの子供なんだろう。
きっと、七海が人ちがいだってことを言ったんだな。
それで、女官はあわてて王妃さまに伝えに来たんだと思う。
「シロマさまは、『ぼくはこの家の子供じゃない』とおっしゃいました」
「なにかそんな風に思うことがあったのかしら」
「分かりません」
「では、私が話してみるわ」
女官の話だけでは、なにがどうしてそうなったのか分からないよね。
王妃さまは座っていた長椅子から立ち上がると、女官といっしょに部屋から出ていった。