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【本編完結】やいまファンタジー、もうひとつの世界  作者: BIRD
第3章:七海の願いとリッカの夢

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最終話:子守歌(ファムレウタ)

 挿絵(By みてみん)


「ねぇママ、今日はいっしょにねてもいい?」

「あらあら、今日はずいぶんとあまえんぼさんねぇ」

「それでね、あの歌を聞かせてほしいな」

「いいわよ」


 城間家の寝室(しんしつ)

 ぼくは、やっと会えたぼくのママにあまえている。

 ママは、ぼくのために歌ってくれた。



 ぼくは、ナナミ・シロマ・ユーマンディとよばれていた子供。

 その名前が、もうひとりのぼくのものだと知ったのは、3才を過ぎたころだった。



『そなたにはしばらくさびしい思いをさせてしまうゆえ、先に真実を教えておこう』


 夢の中に、イリキヤアマリ様が出てきて話してくれた。

 ぼくは、ヤイマ国の人間ではない。

 本当のナナミ王子は、神様の力でぼくと入れかわって生活している。

 いずれぼくたちは、本来在るべき世界へ帰される。


 それを知ったぼくは、別れがつらくないように、だれとも仲良くしなかった。

 父上はいそがしいので、話すことはめったにない。

 母上は病気ばかりしているすぐ上の兄の世話がいそがしくて、ぜんぜん会っていない。

 大きい兄上たちはなんだか危ない予感がして、とにかく近寄らないようにした。


 あつかいに困ったのは、すぐ上の兄リッカだ。

 なにかと、ぼくをかまってくる。

 ぼくが知らん顔していたら、おこりだしてしまうので、めんどうくさい。


 リッカは体がぼくより小さくて、弱々しくて、すぐ病気になる。

 それで母上はリッカだけを世話するために、ぼくを乳母に預けたらしい。

 3才の誕生日を過ぎてからは、女官たちがぼくの世話係になった。

 母上はリッカしか見ていなくて、ぼくに会いに来たことはない。

 イリキヤアマリさまが言う「さびしい思い」は、母上がぼくを見てくれないことだろうね。

 真実を知らなかったら、ぼくは心を閉ざしていたかもしれない。



『そなたはこの国の人間ではないので魔術(マジティー)を使えぬ。しかし、本来の世界へ帰れば学問で優れた才能に目覚めるだろう』


 神様が言うように、ぼくは魔術が使えなかった。

 ヤイマ国の王族は、3才を過ぎるとすぐに魔術の勉強を始める。

 ぼくは、どんな本を見ても、魔術の名前も効果も覚えることはできなかった。


 やがて学校へ通い始めたけれど、テストはいつも0点だ。

 一番上の兄上が、時間の流れがちがう【星の海】で勉強させてくれたけど、本を何度見ても何も頭に入ってこなかった。


「おまえは勉強がキライなんだろ? だから覚えられないんだ」


 ぼくが0点をとったことを知ったリッカは、そんなことを言う。

 異世界人だから覚えられないんだけど、そんなことは言えない。

 リッカを無視して、走ってにげた。

 リッカはぼくを追いかけてきたけれど、すぐに息切れしてたおれて女官に運ばれていった。



『そなたには帰る世界がある。帰ったときに困らないように、あちらの世界にいるナナミを見ておきなさい』


 そう言って、毎晩ぼくにもうひとりのぼくの様子を見せてくれたのは、弥勒(ミルク)さまだ。

 弥勒さまが、いずれぼくをあちらへ帰してくれるらしい。

 ぼくは、もうひとりのぼくが見たもの、経験したこと、すべてを知った。

 もうひとりのぼくは、ぼくのママにとてもかわいがられている。

 うるさい兄弟がいなくて、ママをひとりじめだ。

 ぼくが魔術を覚えられないように、もうひとりのぼくは「九九」が覚えられなかった。

 かけ算なんて、カンタンなのになぁって思いながら見ていたよ。



 11才の夏、ついに交代のときがきた!

 イリキヤアマリさまに言われて城からぬけ出したぼくは、砂浜(すなはま)腕輪(ウディコールー)言葉玉(クトゥバダマ)をうめた。

 ママじゃないけどママにそっくりな人に、愛されなくてもいいからせめて覚えていてほしいから。

 この世界で残念に思うことは、母上とゆっくりお話できないことだけだった。



『そなたの転移場所は海の中だ。御守りは身につけているね?』

「はい」


 弥勒さまに言われて、ぼくはいつもつけている御守りに手でふれた。

 これがあれば、海に落ちてもおぼれない。

 もうひとりのぼくが、海でおぼれている。

 0点のテスト用紙を追いかけて海に入っておぼれるなんて、カッコわるい。

 弥勒さまが力を使って、ぼくたちを入れかえようとしたときに、キジムナーが割りこんだ。

 あっ、と思ったけれど、いまさら止められない。

 巻きこまれたキジムナーを気の毒に思いつつ、転移が始まった。


 入れかわりで通る星の海。

 ぼくは、もうひとりのぼくに声をかけてみた。

 ぼくたちが会うのは、この一度きりだから。

 ちょっとあいさつしておいたよ。


「やあこんにちは。あとはまかせたよ」


 もうひとりのぼくもキジムナーも、何も聞かされていないからおどろいていたなぁ。

 ヤイマ国で、本当の家族と仲良く暮らせるようにいのっておくよ。



 やさしいママの子守歌を聞きながら、ぼくはねむる。

 ねむりに落ちていきながら、ぼくはいのる。

 このしあわせが、明日もあるように。

 ぼくのママが、明日もぼくを愛してくれるように。

 神様から幸福の加護をもらったから、きっと願いはかなうはずだ。

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