第29話:火食の神(イリキヤアマリ)
港を爆破しようとした悪者は、ヤイマ国に火薬や武器を売ろうとして断られた商人が雇ったものだった。
火と知恵の神、イリキヤアマリ様の加護を受けるヤイマ国の人々は、火薬なんか使わなくても強い火の力を使える。
武器なんか持たなくても、魔術で身を守ったり獲物をとったりできる。
だから父上は、輸入しても売れ残るからって断ったらしいんだ。
断られた商人は、それを不満に思って、他の貿易のジャマをしようとしたらしい。
外国人がやったことだから、罰をあたえるのはその国に任せると父上は言った。
悪いことを考えた商人も、爆弾をしかけたオジサンたちも、今後はヤイマ国に立ち入ることを禁止されるそうだよ。
「父上、今年はオレとナナミも出ます」
「うむ、許可しよう」
翌日、リッカにいにぃとぼくは、王族の魔術披露に参加することを伝えに行った。
城間家のおじぃに似ている(髪の毛は赤いけど)父上は、何も聞かずにOKしてくれた。
「本当は、ふたりとも部屋で休んでいてほしいのだけど」
「オレは最近体の調子がいいから平気だ」
「ぼくはもともと元気だから、だいじょうぶだよ」
母上は、めずらしくリッカにぃにぃだけじゃなく、ぼくの心配までしている。
魂戻しで生き返らせてもらったぼくは、ケガは完全に治っているし、痛くも苦しくもない。
「イリキヤアマリさまのお告げで、リッカとナナミも参加させるようにとのことだからな」
「ぼくは弥勒さまから『強い魔術を他国に見せてやりなさい』って言われました」
「ならば、参加するべきであろうな」
父上に言われて、リッカにぃにぃとぼくはたがいの顔を見て、ヨシとうなずき合った。
空に星々が輝くころ。
リッカにぃにぃとぼくは、大きいにぃにぃたちといっしょにお城の中庭に来た。
「光魔術は人々を楽しませるだけじゃなく、夜空の向こうから近付こうとする魔物をはらう役割もあるんだよ。リッカもナナミも今年が初めてだから、最初はぼくたちの魔術を見ていてね」
そう言って、カズマにぃにぃがほほえむ。
一番上のカズマにぃにぃから順に、魔術で光の舞を見せるらしい。
「天の群星!」
ガスマにぃにぃが片手を夜空に向けると、その手からうずまく光が現れて、打ち上げられる花火のように空へとのぼり、花のように広がった。
大きな光の花が、夜空に美しく開いた。
その後に、リュウジにぃにぃ、シュウゾウにぃにぃ、シロウにぃにぃ、シンゴにぃにぃが続く。
はなやかな光の花々に照らされて、ヤイマ城はライトアップされたみたいに見えるよ。
「次はオレたちだな」
リッカにぃにぃがぼくを見て言う。
何度もふたりで練習した、光の魔術をみんなに見せるときがきた。
「天の川!」
「星の魚!」
リッカにぃにぃの光が川のように夜空に広がり、ぼくの光がたくさんの魚になって、その川を泳ぐ。
大きいにぃにぃたちがなんども打ち上げる光の花が、その周囲を飾る。
「もうひとつ、大きいのを出すぞ」
「うん!」
魔力に余裕のあるリッカにぃにぃが作り出したのは、アカハチさまをイメージした光の人形。
続いてぼくが作り出したのは、クイツバさまをイメージした光の人形。
2つの人形は手をつなぎ、バッと散って無数の光の雨になって地上へ降り注いだ。
まるで世果報雨のようだった、と、ヤイマの人々は言っていたらしい。
その光の雨は癒しの力を持っていて、浴びた人たちはケガや病気が治ったそうだよ。
お城の外から、わーっとたくさんの人々の歓声が上がる。
その声にはヤイマ国の民だけじゃなく、外国の人たちもまじっているはず。
演じているぼくたちも、見ている人たちも、みんなが楽しんで、幻想的な光の時間は終わった。
……その後……
ぼくがこの世界のナナミだと知ってから、大きいにぃにぃたちがやたらとかまってくるんだけど。
どうすればいい?
「ナナミ~っ!」
「だきしめてもいいかい?」
「もうひとりのナナミにはかまってもらえなくて、にぃにぃたちはさびしかったぞ」
にぃにぃたちを前に、ぼくは思わず後ずさりした。
どうやらぼくの代わりにこの世界にいたナナミは、大きいにぃにぃたちのことも避けていたらしい。
そりゃあこんなデッカイ体で近付かれたら、にげたくなるけど!
「えっ? やだ。にぃにぃたち力強すぎて骨が折れちゃう」
「ナナミ、にげるぞ!」
そんなとき、いつもリッカにぃにぃが助けてくれる。
リッカにぃにぃとは、ずっといっしょに生活しているよ。
ぼくにだきついたリッカにぃにぃの【帰還】で、今日も脱出成功だ。
「まぁ~た、デカイにいにぃたちからにげてきたのか?」
「あっ、ムイ来てたの?」
「おう。ミジュンがいっぱいとれたから、カラアゲを作ってもらいに来たのさ」
ぼくに巻きこまれてこの世界に来たキジムナーのムイは、弥勒さまから「元の世界へ帰してやろうか?」と言われたそうだよ。
でも、この世界が気に入ったから残ることにしたと言っていた。
最近は割と堂々と城の中を歩き回っていて、海でとってきた魚を大台所で料理してもらっている。
「おどろくほど健康になられましたね。これならシロマさまといっしょに学校へ通えますよ」
「ほんとうか?!」
この世界の健康診断は、ぼくがいた世界よりもカンタンだ。
命の鏡っていう道具があって、それにふれるだけで健康状態が分かる。
リッカにぃにぃの健康診断に来たお医者さんは、ニッコリ笑ってうれしいお知らせをしてくれた。
リッカにぃにぃは今までは病気ばかりしていて、学校には通えていなかったらしい。
年下のナナミが学校へ行くようになって、くやしくてイジワル言ったこともあったそうだよ。
今ではナナミがで0点をとったのをからかってしまったことを、後悔しているみたいだ。
「リッカがこんなにも元気になったのは、きっとナナミがいっしょにいてくれるからね」
「きっとそうだ。ナナミが近くにいると、体の調子がいいぞ」
母上は、リッカにぃにぃが健康になったおかげで、心配性が減ってきたみたいだ。
リッカにぃにぃは、ぼくから何か力をもらっているみたいだと言う。
そういえば、弥勒さまが、ぼくは赤毛の兄弟に力をあたえられるみたいなことを言っていたような?
「我が国に兵器は要らぬ。強すぎる火は人を苦しめるだけだ」
あるとき父上は、兄弟全員を呼んでそう言った。
子孫の代になっても、外国から兵器を仕入れてはならない、と、父上は特にカズマにぃにぃに言い聞かせている。
「魔術がある限り、この国は滅ぶことはない。子々孫々までイリキヤアマリさまと共にあれ」
「はい」
父上の言葉に、カズマにぃにぃがうなずいた。
カズマにぃにぃがいつか王様になって、その子供が王様になっても、火と知恵の神様と共にいてほしいね。