第24話:家族(ヤーニンジュ)
まぁたリッカが七海を連れてどっか行っちまったぞ。
心配性の王妃様がパニックになってるじゃないか。
ナナミと七海が入れかわったことを知ったときは、こんなに取り乱してなかったのに。
実の子よりも養い子を大切にしていると思われるのもしょうがないな。
「リッカ?! どこ?!」
おろおろと辺りを見回している王妃様、お気の毒に。
御嶽の中を探したって、リッカも七海もいないぞ。
リッカの母ちゃんゆうれいに聞くまでもなく、どこへ行ったかは予想できるけどな。
「母上、リッカはもうこの近くにはいないと思いますよ」
「移動の魔術でにげてしまっています」
大きいにぃにぃたちは、もう慣れっこになってるな。
さすがに3回目ともなれば、おどろきもしないようだ。
「そんな……! 移動の魔術なんて大きな力を使ったら、リッカがたおれてしまうわ!」
って、王妃様、よけいに心配しているけど。
そういやリッカは王妃様の前では魔術を使ってなかったな。
大きいにぃにぃたちも移動の魔術以外に見たのは雪と氷くらいだが。
今のリッカは、かなり強い魔術が使えるけど、オイラと七海と母ちゃんゆうれい以外はその全てを知らない。
『たおれはしないけど、護衛をつけずに出かけるなんて、不用心な子ねぇ』
居場所が分かるから王妃様ほどは心配していないが、母ちゃんゆうれいがため息をついた。
ゆうれいの言葉は、王妃様には聞こえない。
「だいじょうぶですよ母上、リッカが移動魔術を使うのはこれが初めてではないですから」
「それにもしもたおれても、力持ちのナナミがだいて連れ帰ってくれますよ」
大きいにぃにぃたちが、王妃様をなだめている。
実は七海も移動魔術が使えるんだが、それは大きいにぃにぃたちもまだ見ていない。
王妃様はもう心配しすぎて疲れ果てた顔になっちまったぞ。
「体が弱いといってもリッカも男だ、少しくらいわんぱくで良いだろう」
王様は冷静だ。
王族といってもリッカは第六王子で、王位継承には遠いから心配しないだけかもな。
まあでも何か危なくなれば、【帰還】を使ってにげるだろうけど。
御嶽で待っていてもリッカたちが帰ってこないから、って、なだめられながら、王妃様は王様や大きいにぃにぃたちといっしょに城へ帰っていった。
母ちゃんゆうれいはお祭りの屋台がある方へ、フワフワと空中を進んで行った。
たぶんそっちにリッカたちがいるんだろう。
さて、オイラもお祭りを見に行ってみよう。
ヤイマ国のお祭りの屋台を見物していたら、さとう天ぷらを売っている店を見つけた。
揚げたてのアンダギーは、表面がカリッと中はフワッとしていてうまいんだ。
つまみ食いしたいけど、お城の大台所とはちがうからな。
ガマンしておこう。
オイラがいた島の豊年祭もそうだったけど、ヤイマ国のお祭りも外国人が見に来るようだ。
金髪の外人が、屋台で買い物をしながら英語でしゃべっている。
日本人もいる。
そうそう、この世界でも琉球国は日本の領土になって「沖縄県」と呼ばれているらしい。
オイラの世界では八重山の島々も日本の領土になっているけれど、この世界ではヤイマ国が治めている。
「今年の魔術大会、どんな人が出るのかなぁ」
「イケメンだといいね!」
「あ~、わたしもこの国に生まれたかったぁ」
「魔術が使えるなんて、アニメやゲームみたいだよね」
観光客っぽい若い女性たちが、そんな話をしながら歩いている。
魔術は、ヤイマ国の王族や国民だけが使えるもので、外国には無い力だそうだ。
その力があるおかげで、日本も、第二次世界大戦後に沖縄を領土にしたアメリカも、ヤイマ国には手が出せなかったらしい。
魔術大会や王族の魔術披露は、外国にヤイマ国の力を示す目的もあるんだろうな。
だれでも魔術が使える国で、ひとりだけ魔術が使えなかったナナミは、さぞ肩身が狭かったにちがいない。
屋台が並ぶ道を通りぬけたら海岸に出た。
砂に何かをうめている人があちこちにいる。
なにしてるんだ?
まさか0点の答案用紙をかくしてるんじゃないよな?
オイラは砂をほっている1人に近付いてみた。
箱をうめようとしているらしい。
まさか、その中に0点の答案用紙が入っていたりしないよな?
その人は箱を穴の底に置く前に、ちょっと開けて中身を確認したから、オイラも箱の中身を見ることができた。
箱の中にはオモチャが入っている。
さすがに集団で0点はないようだ。
「あれっ? 何かうまってるぞ? 去年の残り物か?」
そんな声がして振り返ってみると、砂の中から丸い玉を取り出して見ている人がいた。
「宝探し大会とは関係ない物じゃないか? 箱に入ってないし」
近くにいる人が、そんなことを言っている。
この人たちがうめている箱は、宝探し大会用なのか。
「子供の砂遊びかな? あ、もう1つ何か出てきたぞ」
「どれどれ? 腕輪か。魔術の練習用じゃないか?」
「名前が書いてあるな……えっ? この名前、第七王子様じゃないか?!」
そんな会話を聞きながら、オイラは思い出した。
丸い玉とナナミの腕輪らしき物がほり出されたそこは、オイラと七海が転移した場所だ。
ちょっと悪いが、そいつはいただいていくよ。
オイラは風を起こして砂を飛ばし、人々が腕で目をおおっているすきに、丸い玉と腕輪をうばい取った。
「あれっ? な、ない?!」
「おいおい、どこに落としたんだよ」
そんなことを言っている人々を残して、オイラは七海とリッカを探しに向かった。




