表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】やいまファンタジー、もうひとつの世界  作者: BIRD
第3章:七海の願いとリッカの夢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/39

第22話:豊年祭(プーリィ)

 挿絵(By みてみん)


 夏の祭りが始まった。

 このお祭りは多分、オイラがいた世界の豊年祭(プーリィ)と似たものなんだろう。

 豊年祭は、今年の収穫(しゅうかく)感謝(かんしゃ)し、来夏世(クナツユー)の豊作を祈願(きがん)するお祭りだ。

 まあ、分かりやすく言えば、神様に「お米やお野菜ありがとう。来年もよろしくお願いします」って伝えるためのお祭りだな。

 オイラの島では、大綱引(おおつなひ)きとか、弥勒(ミルク)様の行列があったな。


 イリキヤアマリ神に守られるヤイマ国の豊年祭は、オイラの島とは行事がちがう。

 行列は弥勒様じゃなくてイリキヤアマリ様、綱引きの代わりに魔術(マジティー)の大会が開催(かいさい)されるらしい。


「王族は大会には出られないが、祭りの最後に魔術を披露(ひろう)するんだ」


 光の魔術を使ってみせながら、リッカは七海に祭りのことを話している。

 真夜中の練習場。

 リッカの両手からキラキラ光るさまざまな色の(つぶ)があふれて、空中で花のように広がった。


「これが夜、祭りの最後に使う光の魔術だ」

「すごくキレイだね。ぼくの世界にある花火ににているよ」

「だろう? これはもともと王族の祖先が日本(ヤマト)の使者からもらった花火を見て、魔術で同じことができるか試したのが始まりだからな」

「ぼくはこっちの方が好き。さわってもヤケドしないから」

「オレがナナミといっしょにやりたいのは、この魔術だ。祭りの最後に、ふたりで共演しよう」

「うん! 楽しそう!」


 七海は空中でキラキラ光る粒に手をのばして、無邪気(むじゃき)に笑って言う。

 それを聞いて、リッカも満足そうにほほえんだ。


 ヤイマ国は外国との交流は少ないけれど、日本から使者が来ることはあるらしい。

 花火を貢物(みつぎもの)に持って来た使者は、火薬の技術を自慢(じまん)したかったのか?

 でも、火薬を使わずに同じようなものを作り出した王族に、逆にビックリしたかもしれない。



 祭りの1日目、七海とリッカは他の王族といっしょに御嶽(オン)へ供物を捧げ、五穀豊穣(ごこくほうじょう)を祈願した。

 みんな真新しい着物を着ているのは、豊年祭の着物(プーリキン)という家族全員に夏の着物を新調する風習だな。

 その風習は、オイラがいた島の一部地域にもあったから知っている。


 御嶽に供える盆の和え物(ブンヌスー)に使う神和え物(カンズー)は、オイラの島のと同じだ。

 イシャヌメー(いぼぐさ)、サフナ(ボタンニンジン)、インミズナ(みずひゆう)、イイシ(つのまた)、カーナ(おごのり)、マンジュマイ(パパイヤ)、マミナ(もやし)。

 和える味噌(みそ)は、赤味噌、ニンニク、ゴマ、落花生、砂糖を合わせたもの。

 植物の葉で包んだ餅(カサヌパームチ)や、神酒(ミシィ)も供えられた。


「ここは、王家の祖、アカハチさまの妻、クイツバさまのお墓でもあるのだよ」


 ヤイマ国の王様、ナナミたちの父ちゃんが言う。

 七海に聞いたら、父ちゃんは七海のじいちゃんに少し似ているらしい。

 かみの毛は、にぃにぃたちと同じで赤い。


「クイツバさまは、後にアカハチさまの敵となるナアタウフシュの妹で、アカハチさまの暗殺を命じられても従わずに、アカハチさまを愛して共に島の自由のために戦い、生きることを選んだ方なの」


 王妃(おうひ)さまが、そう言ってほほえむ。

 同じ女として、王妃さまは夫を愛して寄り()い生きたクイツバを(ほこ)らしく思っているんだろう。


 オイラがいた世界では、クイツバは同じく愛を貫いたが、実家から裏切り者あつかいされて、アカハチといっしょに殺された。

 その墓は、実家の人たちに足蹴にされ続けたという。


 一方で、クイツバの姉のマイツバは、祈願によって琉球国(りゅうきゅうこく)貢献(こうけん)したり、ベトナム(アンナン)国から良い種子をもらってきたりしたことから、墓所を御嶽とされて(あが)められていた。


 アカハチが勝ったこの世界では、クイツバの墓が御嶽になっているんだな。

 じゃあ、この世界のマイツバは?


「ぼくの島では、御嶽になっているのはマイツバという人でした。その人のお墓はこの世界ではどうなったんですか?」


 同じことを思った七海が聞いたら、なんとなくオイラが予想したとおりの答えが返ってきた。


「マイツバとナアタウフシュは、琉球国に味方したのでイリキヤアマリ神の加護を得られず、アカハチさまに討伐(とうばつ)されて、遺体は琉球国へ送られたよ。味方した親族は追放されて、琉球国へ移り住んでいる」


 王様が教えてくれた。

 どうやら、墓はこの国には無いようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ