第16話:強い心(チューバーククル)
あぁ驚いた~。
まさかあのタイミングでリッカが目を覚ますとは思わなかったぞ。
魔力っていうのは心のエネルギーみたいなもんだろ?
それを使い切って気絶したやつが、なんであんなに早く目を覚ますんだ?
オイラはにげたフリをして、姿を消したまま七海とリッカが仲直りするのを見守った。
七海は本当にリッカが好きだなぁ。
パパやママがいない世界で、七海がさびしいと思わないのはリッカがいるからだろうな。
リッカも七海が好きなんだな。
だからヤキモチを焼いたんだろう。
ふたりは仲直りしたあと、いつものように仲良くくっついてスヤスヤねている。
リッカは七海に「これからもよろしくね」って言われたら、安心したようにまた気絶してしまった。
やっぱりまだ魔力はほとんど無かったんだろう。
よくあんなに話せるくらい起きていられたもんだ。
あれか? 人間たちが言う「気力」とかいうやつか?
体を動かす体力がもう残っていないときや、ねむくてたまらないときに、あとひとふんばりするために使う力。
リッカは気が強いからな。
だから、ふつうならまだ気絶しているはずなのに、目を覚ましたんだろう。
自分がたおれたあとに七海がどうしたか、気になったのかな?
そんなことを考えていたら、リッカの中からフワ~ッと白いけむりみたいなものが出てきて、人の姿になった。
キレイな女の人、顔はリッカにそっくり。
リッカが大人の女の人になって、黒髪に変わったみたいな人だ。
七海もリッカもねむっているから、女の人には気づいていない。
ゆうれいか? まぼろしみたいに姿が半分すけているぞ。
悪いゆうれいではなさそうだけど。
女の人は、優しくほほえみながら七海を見つめたあと、白いけむりになってリッカの中にもどっていった。
なんだなんだ?
あの人、いつもリッカの中にいるのか?
っていうか、だれなんだ?
よく分からんが、悪いゆうれいじゃないなら、まぁいいか。
オイラは、ふたりのジャマをしないように、そっと部屋の外へ出た。
そのまま、城の中を歩いていたら、大台所のほうから、あまくていい香りがしてきた。
黒糖の香りだ。
のぞいてみたら、クレープみたいなものを焼いているのが見えた。
おお、あれはオイラの世界にもある「ちんびん」だ。
小麦粉に水と黒糖をまぜて、クレープみたいにうすく焼いて、クルクルと巻物みたいに巻いたやつ。
クレープとちがって具は入ってないけど、黒糖のあまさがあって、それだけでおいしい。
ちょうど腹がへっていたオイラは、皿に置かれた1つをコッソリいただいた。
作業をする台の下にかくれてムシャムシャ食べていたら、入ってきた女官たちの声が聞こえてきたぞ。
「お前たちの分も焼けたぞ。持っていきな」
「はぁい」
「ありがとう」
「あら? ひとり分足りないみたい」
「おかしいな? 人数分を焼いたはずなんだが」
どうやら、オイラがつまみ食いしたのは、女官たちのオヤツだったようだ。
料理人は首をかしげながら、ちんびんをもう1つ焼いている。
女官たちはそれを待ちながら、おしゃべりを始めた。
「マキラさま、ご病気なの?」
「顔色が真っ青で、グッタリしてらしたけど」
「魔術の使い過ぎで、魔力が尽きてたおれられたそうよ」
「サイオン先生は『しばらくねむって魔力が回復すれば目を覚ますから心配ない』と言っていたわ」
ふむふむ。
聞いているのは、七海がリッカを運んでいるときにすれちがった女官たちかな?
答えているのは、七海たちの世話をしている女官たちだな。
「異世界のシロマさまって力持ちなのね。あんなに軽々とマキラさまをだいて歩くなんて」
「こちらのシロマさまは、本より重い物を持ち上げられたことは無かったのに」
「そもそも、シロマさまはマキラさまにさわろうともしなかったじゃない」
「むしろ姿を見ただけで、にげていたわね」
おいおい。
ナナミ、どんだけリッカをキライなんだよ。
七海はあんなになついているのに。
「今はシロマさまが仲良くして下さるから、マキラさまはうれしそうね」
「それに、いっしょに魔術の練習ができて、楽しそうね」
「そうね。今まではシロマさまがにげてしまわれて、いっしょに何かをすることはなかったから」
ナナミは、なんでそんなにリッカからにげていたんだろう?
最初に見たリッカの感じからすると、キツイ言い方をされたからかな?
でも、リッカは言いたくて言ったわけじゃない気がする。
女官たちの話を聞いたあと、オイラはコッソリと七海の部屋の様子を見に行ってみた。
七海とリッカはピッタリくっついてねむっている。
ふたりとも、幸せそうな顔だ。
それにしても、さっき見たキレイな女の人はだれなんだろう?
リッカに顔がソックリだったから、ご先祖さまかな?